第5話 東京BOMBの過去
地下から撤退した六人は、渋谷から離れた警視庁の特別施設へと移動した。
無言の車内。
先ほどまで感じていた地下の圧迫感が、今もそれぞれの胸に残っている。
黒川が窓の外を見つめたまま、低く口を開いた。
黒川「……あの爆弾。
東京BOMBの事件と、似ている気がする」
その言葉に、車内の空気が張り詰めた。
白旗が軽く肩をすくめる。
白旗「似てる、ねぇ。
まさか“俺たちの真似”だとか言わないよね?」
黒川は首を振った。
黒川「逆だ。
君たちの爆弾は“派手”だった。
だが今回のは……静かすぎる」
天城は目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
天城「……理解している。
あれは“恐怖を見せる爆弾”じゃない。
“気づかれない恐怖”だ」
特別施設の会議室。
スクリーンに映し出されたのは、かつての東京BOMB事件の未公開資料だった。
23区全域に仕掛けられた爆弾。
同時多発。
だが死者はゼロ。
八木沢が説明を続ける。
八木沢「公式には“無差別テロ”とされています。
でも内部資料では、ずっと疑問視されてきました」
三島が腕を組む。
三島「あれだけの爆弾を仕掛けて、
死者ゼロなんて、偶然じゃない」
白旗が苦笑した。
白旗「偶然じゃないよ。
“そう設計した”んだから」
室内が静まり返る。
久賀が、初めてはっきりと口を開いた。
久賀「俺たちは、
“爆弾で人を殺す気はなかった”」
黒川は視線を逸らさず、問いかける。
黒川「なら、なぜやった?」
天城が答えた。
天城「“東京が、どれほど脆いか”を示すためだ」
スクリーンに、当時の爆弾配置図が映る。
交通網、電力、通信、地下施設。
都市機能そのものを狙った設計。
天城「人を殺さなくても、
都市は簡単に“死ぬ”。
我々は、それを証明したかった」
八木沢は思わず声を震わせた。
八木沢「……それが正義だと?」
天城は即答しなかった。
天城「正義かどうかは、どうでもいい。
だが“事実”だった」
黒川が、渋谷の爆弾の画像を重ねて映す。
黒川「今回の爆弾は、
君たちの事件よりもさらに“内向き”だ」
白旗が顎に手を当てる。
白旗「都市機能じゃない……
もっと深いところを狙ってる」
久賀が低く言った。
久賀「“意識”だ」
全員が久賀を見る。
久賀「気づかれない場所に置く。
触れれば反応する。
見上げれば、何かがある。
あれは……“試されている”」
三島が唸る。
三島「誰にだ?」
久賀は答えた。
久賀「東京に住む人間全員だ」
天城が静かに続ける。
天城「東京BOMBは“問い”だった。
今回のは……“選別”だ」
沈黙の中で、黒川が立ち上がった。
黒川「……わかった。
君たちを信用するかどうかは別だ。
だが、この事件を解けるのは君たちしかいない」
そして、はっきりと言う。
黒川「東京BOMBではなく、
“爆弾を知る人間”として、力を貸してほしい」
天城は、わずかに目を細めた。
天城「……皮肉だな。
かつて東京を壊そうとした人間が、
今は守る側に立つ」
白旗が小さく笑う。
白旗「悪くない。
俺はこういう“二度目”が好きだ」
久賀は短く言った。
久賀「まだ終わっていない。
あれは“始まり”だ」
その直後、警報が鳴り響いた。
管制「緊急連絡!
渋谷とは別地点で、
同様の反応を検知しました!」
スクリーンに、新たな赤点が表示される。
新宿。地下。
黒川は即座に叫んだ。
黒川「……来たか」
天城は静かに呟いた。
天城「やはりな。
これは“一本”じゃない」




