第4話 もうひとつの影
天城の怒声と同時に、六人は反射的に距離を取った。
ゴォォ……
低く、重い振動音が地下空間を這うように広がる。
三島が即座に黒川を庇う位置に立ち、八木沢は計測器を胸に抱えたまま後退した。
東京BOMBの三人も、条件反射のように散開する。
黒川「音源は上だな……久賀、見えるか?」
久賀は天井を睨みつけ、わずかに首を振った。
久賀「……見えない。だが“ある”。
あの爆弾、単体じゃない」
白旗が乾いた声で笑った。
白旗「やっぱりねぇ。
こんな“作品”、一個だけで終わるわけがない」
天井のコンクリートの隙間。
そこから、目に見えないはずの“圧”が降りてくる。
八木沢の計測器が、今までにない数値を叩き出した。
八木沢「……信じられない。
微弱だけど、爆弾の反応と“同期”してる」
天城の目が鋭く光る。
天城「やはりな。
これは“爆弾”じゃない。“システム”だ」
◆
黒川は即断した。
黒川「全員、動くな。
下手に刺激すれば、何が起きるかわからない」
だが天城は一歩だけ前に出た。
天城「刺激しなくても、これは常に“起動状態”だ。
見張られている、と言った方が正確だな」
三島が眉をひそめる。
三島「誰にだ?」
天城は爆弾を見つめたまま答えた。
天城「“人”とは限らない」
その瞬間、白旗が天井の一部を指差した。
白旗「あれ見て。
コンクリート……わずかに削れてる」
照明を当てると、確かに不自然な削痕があった。
最近の工事でできたものではない。
もっと古く、意図的だ。
久賀が低くつぶやく。
久賀「通路だ。
上に“別の空間”がある」
黒川は即座に無線を入れた。
黒川「こちらEOD。
爆発物の直上に未知の構造物あり。
図面に存在しない空間だ」
無線の向こうで、緊張した声が返る。
管制「……確認できません。
その位置、再開発計画の設計図には“空白”です」
その言葉に、八木沢が息を呑んだ。
八木沢「空白……?
そんなこと、あり得ない……」
天城は静かに言った。
天城「意図的に消されている。
この爆弾は“隠すこと”から始まっている」
◆
沈黙の中で、黒川が決断する。
黒川「一度引く。
今日はここまでだ」
白旗が即座に反論した。
白旗「今引いたら、相手の思う壺だよ?
これは“こちらを観察してる”。
行動パターンを学ばれる」
八木沢も頷く。
八木沢「確かに……反応は、私たちが近づいた“後”に起きてる」
黒川は歯を食いしばった。
天城が一歩前に出る。
天城「なら、役割を分けよう。
処理班は“触れない”。
我々は“考える”。
三島、久賀。君たちは“感覚派”だ。
空間の違和感を探れ」
三島と久賀が一瞬だけ視線を交わし、黙って頷いた。
黒川はしばらく天城を見つめ、ついに言った。
黒川「……任せる。
だが一線を越えたら、即撤退だ」
天城は小さく微笑んだ。
天城「越えないさ。
これは“起爆”じゃない。“対話”だから」
◆
そのとき。
ピッ……
八木沢の計測器が、初めて“警告音”を鳴らした。
八木沢「反応が……増幅してる……!」
爆弾の表面に、今までなかった微細な光の線が走る。
まるで、何かに“応答”しているかのように。
白旗が息を呑んだ。
白旗「……これ、起動条件の一つを満たしたかも」
黒川が叫ぶ。
黒川「全員、距離を取れ!」
だが天城は動かなかった。
天城「違う。
これは“警告”だ」
天城は、爆弾ではなく——天井を見上げた。
天城「我々に気づいた“誰か”が、こう言っている。
——『見つけたな』と」
地下の闇が、わずかに軋んだ。




