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ルカが幸せになる時〜銀髪の魔法使いは学園で恋と自分を知る〜  作者: 波音叶
入学前

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9. 雪の季・終(2月)21日⑤


レオンと二人穏やかな時間を過ごしていると、やがて扉が開く音と共にアルバート先生の声がした。


「あれ……レオンくん?」


入り口に視線を向けると食器が載ったトレイを抱えている。食事を持ってきてくれたんだ。


「勝手にすみません。心配で様子を見に。」


心配だったとさらりと弁明するレオンに、不覚にも胸がきゅっとなる。でもこれはルカであっても嬉しいんじゃないかな。


「ああ、ルカくんが大丈夫なら問題はありません。体調に変わりありませんか?」

「はい、大丈夫です。」

「それは何より。……おや、少し魔法を使いましたね。」


指摘に少しドキッとする。先生はなんてことないように続けた。


「怒ってませんよ。氷の魔法の余韻は、清らかでいいですね。」

「………。」


どう返せば良いのか言葉に迷う。それは誰もが感じ取れるものなのか、あるいはこの人もルカと同じように、何かが特殊なのかもしれない。


穏やかな雰囲気を崩さないままテーブルにトレイを載せた。


「寮母さんに君の食事の相談をしたら、すぐに用意してくれました。こちらで食べましょうか。」

「すみません、ありがとうございます。」


やっと食事が出来ると思ったらより空腹を感じる。昨日は余裕がなくて一度も考えなかったから、だいぶ回復したと言えそうだ。


「じゃあ俺は……これで。また明日だな。」


椅子から立ち上がったレオンが、当たり前のようにそう言って医務室を去っていく。その背を見送った先生は興味深げに言った。


「君のこと……相当、気にかけているみたいですね。」

「そう、ですね……?」


ふらつかないよう慎重に立ち上がりながら返事をしたけれど、どこか含みのある言い方のようにも聞こえた。


レオンは元々面倒見がいい人のように思える。丈夫で医務室のお世話になることも少なさそうだから、アルバート先生とはあまり接点がないのかな?


「とにかく、せっかく食べられそうであるのなら、しっかり栄養を摂っておきましょう。どうぞ。」

「……ありがとうございます。頂きます。」


用意されていたのは、野菜と豆が入ったポタージュとバターロール、それからサラダにベーコン。温かみのある朝ご飯のようなメニューになんだか安心した。


スプーンを手に取ってスープを一口。優しい味わいに不意に胸が熱くなり、慌てて口にパンを運んだ。自然な甘みが口のなかに広がる。


――ご飯を食べるだけで泣きそうになるなんて。

でも疲れも心細さもあったし、ルカの身体もこういう優しさを求めていたのかなと思ったら無理もない。


先生はデスクで作業をしながら何も言わず、その距離感も心地よかった。外も変わらずに静かだ。


雪の季休暇中のこの学園も、もうすぐ多くの生徒で賑わうに違いない。無事にその仲間入りが出来るよう、明日は心して臨まないと。そう強く思うのだった。


**

食事を終えてしばらくしてから、「体調が大丈夫そうなのであれば」と確認のうえで、医務室で筆記の問題を解いた。明日の学園長との面談の参考資料になるらしい。


二人で話している時にレオンから教えてもらった情報によると、この学園の入学試験は一般教養を中心とした筆記と魔法の実技、それから面接ということだったから、その時の内容を踏まえてなのかもしれなかった。


聞いた時は不安でたまらなかったけれど、いざ解いてみたら、ルカのなかにある知識で対応することが出来た。一部は知識というよりも考える力や処理能力を問うような問題もあって、これはかつて自分が受けた就職試験を思い出させる。

 

回収された後で採点結果は知らされなかったものの、まずは一安心だ。そのあとはアルバート先生が渡してくれた学園のパンフレットを読んだり、ウトウトと浅い眠りを繰り返した。


そんななかで、夢を見た気がする。


小さな手で氷の魔法を扱い、誰かに差し出してみせた。その時の気持ちは誇らしげで、それからどこかくすぐったくて。でもそれ以上は思い出せない。


誰に見せたくて、その人はどんな反応をしたんだろう。目を覚ました後でなんとか記憶を辿ろうとするけれど、一度忘れてしまった夢はもう掴めない。それがルカの記憶なのかも怪しかった。


――今はまだ、分からないことばかりだ。

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