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ルカが幸せになる時〜銀髪の魔法使いは学園で恋と自分を知る〜  作者: 波音叶
入学前

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4. 雪の季・終(2月)20日④


「その調子じゃ歩くのも大変だろ。おぶってやる。」

「………。」


ルカ本人としてもそれは恥ずかしいんじゃないかなと思う。けれどレオンに一切の躊躇はないし、実際この状態で歩いて行こうとする方が迷惑をかけそうだった。


それで結局平静を装い、広い背中に乗らせてもらう。彼は少しもふらつかずにゆっくりと立ち上がった。


「あの……重くない?」


まだ隠しきれない乙女心。レオンは平然と答える。


「全く。軽すぎるくらいだな。」

「………。」


だめだめ、今は男の子同士のやり取りだ。変な緊張もときめきも必要ない。


覚悟を決めてその首元に腕を回す。一度身を預けてしまうと不思議なほどに安心感があった。


――人の温もりって、こんなにも心地よかったっけ。息苦しさが和らいで、抱いていた不安や心細さが解けていく。意識せずとも瞼が落ちた。


「学園までは船が出てる。発着所はここから近いぞ。」


耳に届く低い声が優しい。守られているような感覚に包まれながら、少しずつ意識が遠ざかっていった。


**

「ん……。」


次に目を覚ました時、視界には穏やかに揺れる草原が広がっていた。頬を撫でる風はまだ冷たいけれど日差しは柔らかで、春が訪れる予兆を感じさせる。


春……この世界では花の季、か。少し眠ってしまった後でも記憶と意識はそのままだ。


「起きたか?」


ここまでずっと背負ってくれているレオンが、出会った時と同じ落ち着いたトーンで声を掛けてくる。


「うん……ごめん、疲れてない?」

「大丈夫だ、気にするな。」


おぶられたまま寝てしまうなんて幼い子供みたいだ。それでもレオンは、からかいも迷惑そうな様子も少しだって見せなかった。


「それより発着所に着いたぞ。雪の季の休暇中で人もいない……あの船で行けそうだな。」

「船……?」


改めて周囲を見渡すと、広々とした草原のなかに、屋根付きのバス停のようなものが設置されている。その横にある三角屋根の小屋は待合室なのかな。


そしてたしかに彼の言う通り、停留所の前に一隻の小船が待機していた。湖でもないのに……船?


テーマパークの水辺のアトラクションにありそうな上品なデザインをしている。柔らかな白木で造られた船体に紺色の縁取り。そこに流れ星のような銀色の模様が描かれていた。


「アストラはあの山の上にある。すぐ乗れるか?」


レオンの視線の先にある小高い山。この船で、あそこまで行くの?つまり空を飛べるってこと……!?相変わらずの体調も忘れて心が弾む。


「大丈夫。……行こう。」


高揚を隠して答えるとそのまま船まで近づき、一旦ベンチに降ろしてくれる。息一つ乱れていなかった。鍛えているのかな。


先にレオンが船に乗り込み、それからすっと手を差し出した。


「ほら、気をつけろよ。」

「……うん。」


なんて紳士なんだろう。自分の学生時代にここまで気遣い上手な男子がいたかな?こんなのときめかずにはいられない。


でも今の自分はルカで、男の子だ。これほどの容姿であれば同性すらも魅了してしまいそうだけど……なんて考えながらも転ばないよう気をつけて、その手を借りながら乗船した。


座席には船の縁と同じ紺色のクッションが敷かれている。そっと腰掛けると、前の座席の背もたれに小さな円形の魔法陣を見つけた。


「ここに校章をかざせばいい。入学許可証でも……問題ないはずだ。」


教えてもらうままに許可証を広げ、恐る恐る紋様の箇所を当ててみる。すると魔法陣が淡い光を放った。


「………。」


思わず感嘆の声を洩らしそうになる。現実では起こらないことに自分はワクワクしているけれど、ルカはこの船に乗ったことはあるのかな。


同じように学生証らしきものをかざし終えたレオンが静かに告げた。


「出発するぞ。」


船がふわりと浮かんだかと思うと、音もなく草原の上を滑り出す。緩やかなスピードのまま少しずつ高度を上げ、地面が遠ざかっていった。


高所恐怖症じゃなくて良かった。この身体でも特に怖さは感じなくて、眼下に広がる景色を楽しむことが出来る。それに髪を揺らす風は柔らかだった。


あの一軒だけぽつんと建った小屋が、さっきまでいた宿屋かな。そのさらに向こうには街があり小川も流れている。広大な土地。澄んだ空気。この先にもきっと、知らない風景が果てしなく存在しているんだ。


これが、ルカの生きてきた世界。夢や幻なんかじゃない。たしかに息をしている。


"彼"はどんな場所で生まれ育ち、何に心を動かしてきたのだろう。そして"自分"がここにいる意味。偶然か必然か分からないけれど、これからは本来のルカのために行動がしたいと思った。


――そうすれば、いつか彼の心が戻ってきても、堂々と身体を返してあげられるはずだから。

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