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ルカが幸せになる時〜銀髪の魔法使いは学園で恋と自分を知る〜  作者: 波音叶
入学前

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3/18

3. 雪の季・終(2月)20日③


それから10分も経たないうちに、一人の男の子が訪ねてきた。


控えめなノックの後で彼が部屋に入ってきた時、胸の内がぐっと熱くなったのは――その立ち姿が、あまりに凛としていたから。


まるで騎士のような人だった。


額を覗かせるように整えられた髪は落ち着いたブラウン。琥珀色の瞳には真っ直ぐな光が宿っている。彼もまた端正な顔立ちをしていて、でも儚げなルカとは全く異なる雰囲気を持っていた。


太すぎないけれど整った眉や引き締まった表情、すっと伸びた背筋といい存在感がある。学生……なんだよね?着ている服も上質そうで、ルカより年上のように見えた。


「……大丈夫か?」


声にまで安心感がある。思わずドキドキしてしまうけれど、今の自分は"ルカ"だということを忘れないでおかないと。とはいえ何を言ったら良いか分からずただ小さく頷いた。


彼は机の前にあった椅子を引き寄せて腰掛ける。


「俺はレオン。アストラ魔法学園の一年生だ。お前は?」

「……ルカ。」


短く答えると僅かに眉をひそめる。無口な奴だと思われるだろうけれど、持っている情報が少なさすぎるから仕方ない……ごめん、ルカ。


「宿の人から聞いた。アストラ学園に行くんだろ。新入生か?」

「……うん。」


厳密には違うかもしれなくても、自分でもよく分かっていない事情は説明のしようがない。ただレオンは物事をはっきりさせたいタイプのようだった。


「新入生が学園に入れるのは25日からだ。知らなかったのか?」

「………。」


まずい、知らなかった。さっき見たカレンダーは20日を示していた……前日ならまだしも5日前となると、咄嗟の上手い言い訳が思い付かない。焦りで呼吸が浅くなるのを感じた。


「……ルカ、お前ほんとに新入生なのか?」


レオンの表情と声が硬い。疑われているんだ。どうしよう……!黙っていても曖昧なままにはしてくれない。


でもふと思った。――いっそ、正直に話してしまった方が良いかもしれないと。嘘はつけばつくほどにボロが出るものだと、大人の"自分"は知っている。


それにレオンは真面目で誠実そうだ。こちらが真剣に向き合えば取り合ってくれるような気がした。意を決して琥珀色の瞳を見つめ返す。


「……ごめん。新入生、というのは……少し違う。」

「どういう意味だ?」


静かに問われ、傍らに置いていた鞄からあの許可証を取り出した。差し出すと素直に受け取って目を落とす。


「……本物、だな。」

「うん。でも、次の新入生じゃないんだ。」

「1716年……俺の入学年と同じだ。」


同学年のはずなのに初めて見る顔。レオンが困惑するのも無理はなかった。


「僕にも……よく、分からなくて。」


"僕"という一人称が自然と口をついて出る。それはたしかにルカ自身に染み付いた癖だった。けれどそれ以外は何も出てこない。


「記憶が、無いんだ。気が付いたらここにいた。」

「………。」


その瞳が見開かれる。まさかこんな話をされるとは誰も思わないだろう。


「自分の名前すら、この許可証で知った。手掛かりが……これしかなくて。」


ルカとして喋るのに慣れない。言葉や語尾を一つ一つ選ぶから、自然とゆっくりとした話し方になった。


「驚かせて、ごめん。でも……学園に行きたいんだ。」


話せることが少なくて申し訳ない。そして今の自分が"ルカではない"ことだけは、事態をややこしくさせるから誰にも言わないと決めた。


ふうっと息をつく。ルカの身体はどうしてこんなに疲れているんだろう。


「……わかった。」


落ち着いた声に再び顔を上げる。レオンの表情は真剣そのもので、勝手に胸が高鳴った。


「嘘を言っているようには見えないし、入学許可証もある。……学園に行けば、何か分かるかもな。」

「ありがとう……」


安堵で身体を支えていた腕の力が抜ける。しまった、と思うと同時に視界が揺れて咄嗟に目を閉じるけれど、力強い腕が支えてくれた。レオンだ。


「……危なっかしいやつだな。」

「ごめん……。」


――ああ、心臓がうるさいな。


きっとこれはルカではなくて、OLだった自分の意識だ。だってこんな格好いい男の子との接点なんて無かったもの。


本来のルカが誤解されないよう、これから振る舞いに気をつけないと。そう心に誓った矢先に小さな試練が訪れた。


代わりに荷物をまとめ、壁に掛かっていた外套を着させてくれたレオンは靴を履くよう促し、それから目の前にしゃがみ込む。


「……ほら。」

「え?」


その体勢にすぐに意図を察するけれど、思わず聞き返してしまう。振り返ったレオンは顔色一つ変えず、さも当然のように言った。


「その調子じゃ、歩くのも大変だろ。おぶってやる。」

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