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ルカが幸せになる時〜銀髪の魔法使いは学園で恋と自分を知る〜  作者: 波音叶
二年生

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20/24

20. 花の季・中(4月)13日~19日②


夜が好き、というレオンの発言。それはそっと心に触れてくる。瞳は真っ直ぐにこちらを捉えていた。


「夜は……静かだ。眠りにつく前に、自分と向き合う時間をくれる。」

「………。」

「ルカはどうなんだ。夜は苦手か?」


優しく問われて考える。


明けない夜はない、と誰かが言った。その考え方は好きだけれど、こうも思ったことがある。


夜は孤独じゃなくて、安らぎだ。眠りにつく前のひととき。少し夜更かしができる日の期待感。明日によせる願い。


――そうか、そう考えればいいんだ。


全てを飲み込む闇ではなくて、そっと包み込むような夜の静けさ。それでいい。気が付かないうちに頭が固くなっていたみたい。


見つめ返すとレオンは口元を綻ばせた。


「掴めたか?」

「……きっと。」


再びゆっくりと腕を伸ばす。自分のなかにある力が穏やかに応える感覚がした。


手元から生まれた闇が薄い層を重ねていきながら、優しく揺らめく。今度は消えずに形となった柔らかな黒のなかで、僅かに混じった氷が星のように瞬いた。


「わ……。」


例えるならそれは夜空のカーテン。美しく幻想的で少しも怖くない。これなら……。


確信して手を動かすと、標的としていた光の玉を包むように呑み込んだ。そのまま溶けるように空気中に分散するとあとには静けさだけが残る。


「できた……。」


本当に、この世界の魔法は繊細だ。気の持ちよう一つで全てが変わってしまう。


隣を見るとふっと控えめな笑みが返ってきた。


「良かったな。」

「レオンのお陰だよ。」


彼が居てくれて良かった。一人ではなかなか発想の転換に至らなかったと思う。


「この感覚を、忘れないうちに……良いかな。」

「ああ、やってみよう。」


頷いてくれるのを確認して、訓練用の水晶に刻まれた魔法陣へと触れる。透明だったそれは起動音とともに青く点滅を始めた。こちらが距離をとって体勢を整え次第、向こうからの攻撃が始まる仕組みだ。


「……来るぞ。」


光の盾を構えたレオンが低く言った。自分も呼吸を整え意識を集中させる。


水晶が赤く光り、目に見える衝撃波を放った。まずは一回、レオンの方へ。彼の光がそれを正確に弾くと今度は黄色に光る。それが成功の合図。


続けて自分の方へ攻撃が飛んできた。――大丈夫。すぐさま氷が瞬く闇のヴェールを顕現させ衝撃ごと呑み込む。これにも黄色で防御の成功が示された。


「良いぞ、ルカ。」

「うん。」


次に連続で放たれた攻撃にも冷静に対処することができた。


やっぱり、この力……すごく強力だ。もっと出力の高い魔法でも容易く呑み込めてしまうような予感がある。


澄んでいてどこまでも綺麗だけれど、使い道は絶対に誤れないと感じた。それは恐怖ではない。むしろこの身に宿る魔法を理解して、自分の意志のもとで使うという誓いの瞬間だった。


やがて攻撃が止み、水晶はもとの透明色に戻る。全て成功だ。


「やったな。」


レオンも余裕そうで、二人で顔を見合わせてふっと笑った。


「ありがとう、レオン。心強かった。」

「……良いんだ。」


答える彼の、自分を――ルカを見る目がすごく優しくて、思わずドキッとしてしまう。いつもこんな風だったっけ?


近くにいる時間は誰よりも長いのに、その言動や表情に込められた意味が分からないことがある。続ける言葉に迷って、それで今回きっかけになってくれたアドバイスを思い出した。


「夜が、好きっていうの……すごく気づきになって。」

「そうか。でも……本当にそうなんだ。」


その表情が少しだけ陰り、迷うように視線を落とす。何か思うところがあって、それを話すかどうか逡巡しているように見えた。


黙って見守っていると、彼はすっと顔を上げる。


「俺には……三つ上の、兄がいる。天才肌で優秀な兄だ。」

「………。」

「生まれつきの魔力量も剣の才能も、人望も……俺はとても敵わない。」


そんな兄を尊敬している、と躊躇いもなく言う。


「でも、劣等感や焦りは常にあったんだ。それでよく、夜に魔法や剣の練習をしてた。」

「……そっか。」

「結局、兄と並ぶことは諦めたけどな。けど無駄にはならなかったし、振り返ってみれば好きな時間だ。」


誰も見ていないから比べられない、急かされない。ただひたむきに自分と向き合えるから。


聞きながら本当に誠実な人だと思った。きっと悔しい思いもしてきたはずで、それでも曲がらずに努力を続けてきて。それが今の心身の強さに繋がっているんだろう。


「……レオンは、かっこいいね。」


ほとんど無意識にそう口にしていた。無言の間が空いてはっとする。


「いや、その……尊敬、してるってことだよ。」

「……そうか。」


何か言いたげな雰囲気を感じたけれど、恥ずかしくて彼の顔が見られなかった。


こんな風に改まって"かっこいい"だなんて。いや、下心なんてない。ただ素直に思ったまでだ。


それなのにレオンが息を呑むような、どこか空気が変わるような気配がしたから――自分の方が戸惑ってしまった。


「……寮に戻ろうか。練習、付き合ってくれてありがとう。」

「ああ。……また、いつでも言ってくれ。」


どことなくぎこちない空気のまま自主練を終える。それでもテオとセルジュと合流し夕飯を食べる頃には、お互いに自然な態度に戻っていた。


そんなことがあったから、その晩は秘かに考え込んでしまう。


レオンは自分を……ルカを信頼していて、深い友愛のような感情を抱いてくれているようだ。でも、自分はルカではない。本来の性格もどのような言動をするのかも知らなかった。


いつかルカに身体を返す時が来るとして、レオンのような人が傍に居てくれるのなら安心できる。だから彼と交流を深めることは良いことのはずだ。


それなのに、少しだけ罪悪感を覚えてしまった。それがこちらの意志で行動を決めてしまっているルカに対してなのか、ルカとして関係を築いているレオンに対してなのかはよく分からない。


彼らが幸せになるために――自分は何を選び、どう行動したらいいんだろう。


その問いの答えは見つからないまま、ただ夜がゆっくりと過ぎていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。

少しお待たせしてしまいますが、次回更新は木曜予定です。

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