12. 雪の季・終(2月)25日①
そこからの数日間は少し慌ただしかった。
健康診断や制服の採寸の他、アルバート先生の付き添いで街に出て最低限の物を買い揃える。ルカが特待生で合格していたといえど、きっと免除にも限度があるはずだ。いずれアルバイトなどが出来ないかなと思った。
モンドさんが言っていた通り、学園にも徐々に生徒が戻ってきている。ほぼ寮にいるから話したのは男子生徒のみだけど、皆良い人たちだった。
もちろん色々なタイプがいて、好奇心を隠さずに話しかけてくる人もいれば、距離を保ったまま挨拶だけをする人もいる。けれどあからさまな無視や意地悪をされることはなくて、それだけでだいぶ安心だ。
ただ……顔を合わせる人が多くなればなるほどに、ルカの容姿の特別さを感じさせられる。すれ違いざまに足を止める勢いで視線を向けられたり、話す時も不自然にじっと見つめられたり。逆になかなか目が合わないことも多かった。
一方で、レオンとの同室は心地よかった。彼の接し方には気遣いがありかつ自然だ……シャワーを浴びた後、上裸で出てきた時にはびっくりしたけど。あとは面倒見がいいゆえに、しょっちゅう傍に付き添ってくれている。
それでも少しずつ色々なことに慣れてきて、今日は新入生が学園に入れるようになる25日。寮の部屋や学園の施設も使えるからいつもより賑やかで、空気の変化に敏感なこの身体は少し落ち着かなかった。
けれど、それ以上に大事なことがある。
学園内にある図書館も立ち入れるようになったのだ。それは元々本が好きな自分にとって、あまりにも魅力的なことだった。
加えてここは魔法が存在する異世界。そんな世界の書籍が沢山保管された場所なんて……最高すぎる。
「一人で行くのか?」と少し心配そうなレオンの付き添いを断り、お昼頃から図書館へと向かった。学生証も発行してもらったので問題なく入れるし、今日は思う存分に時間をかけて廻ろう。
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そうして訪れた図書館は、意外にもおしゃれな現代風の空間だった。
木材を使用した館内の雰囲気は、適度な明るさと落ち着きを両立している。本がひとりでに飛び交うようなこともなく、ずらりと並んだ本棚や紙の匂いには懐かしさと高揚を覚えた。
入り口からすぐの受付にいた司書さんと会釈を交わしたけれど、人の姿はほとんどなく静まり返っている。真っ先に図書館に向かう人もなかなかいないか。
人が少なく視線が気にならないのは好都合だ。螺旋階段を降りた先に地下もあるようで、とりあえずは1階の端から見て廻ることにする。大陸の歴史、魔法生物事典、魔石工学……本棚の横に掲示された分類だけでも心が躍る。
今後ここに通いたいと自然に思った。沢山の知識や物語に触れられるのはワクワクするし、そうでなくてもずっといたいくらいに居心地が良い。
そうやって人気のない棚の間を、歩いては覗き込んでを繰り返していたら――その場所にだけ、人がいた。ぱちりと視線がぶつかって、心臓が小さく跳ねるような感覚がする。
棚前に立っていたのは一人の可憐な女の子。可愛い、とシンプルに思った。
胸元まで伸ばした髪は緩くウェーブがかっていて、柔らかな金色。ローズピンクの瞳は華やかでも主張しすぎず、ふわっと可愛らしい印象の顔立ちに調和している。
目立つわけではないのに、一度知れば目が離せなくなるような。柔らかいのに芯の強さを感じさせるような。そんな不思議な雰囲気を持っていた。
同い年くらいに見える彼女もまた、大きな瞳でこちらを見つめてくる。そのなかに宿る光が揺れて、頬がほんの少し色づいた気がした。
「……あの、」
ゆっくりと声を発するとハッとした様子で瞬きをする。それからやっと視線が逸らされた。
「す、すみません……!人がいると、思ってなくて……。」
慌てて弁明する声もまた澄んでいて印象通りだ。一連の仕草が可愛らしくて、それで気持ちがほどけた。
「こちらこそ……驚かせて、ごめん。」
そう言ってから先輩の可能性もあることに気が付く。訂正するよりも相手の方が早かった。
「在校生の方……ですか?私、新入生で……初めて図書館に来たんです。」
「……そうなんだ。」
後輩だと分かってほっとする。肩書は二年生でも、自分だって新入生のようなものだけど。図書館に初めて来たのだって一緒だ。
「二年生、だけど……ちょっと特殊で。また授業で会うかもしれない。」
詳しく説明するような場面ではなくても、また顔を合わせた時のためにそう言っておく。案の定不思議そうな反応はされたけれど追求は来なかった。




