11. 雪の季・終(2月)22日②
無事に決まったアストラ魔法学園への入学。ところがここからが大変だった。寮に続く渡り廊下、一歩先を歩いていたフィル先生がさらりと告げる。
「寮は原則、二人一部屋だ。……で、ルカはレオンと同室な。」
「……へ?」
唐突な知らせに間抜けな声が出た。次の二年生の担任だという先生は飄々と笑う。
「知ってる奴の方が安心だろ?レオンには昨日のうちに話したし、部屋も移動済みだ。」
「そう、なんですね……。」
昨日の時点で学園側の話はまとまっていたんだ。まるでずっと待っていてくれたかのような待遇に胸が熱くなる。
――とはいえ、レオンと同室。クラスメイトだったら良いなと思っていたのがルームメイト確定で、なんだか恋でも始まりそうと思ってしまう。
そんなことを考えてしまう自分に心のなかで再び言い聞かせた。ルカは男の子なのだから、意識してしまうのは不自然だ。当然寮は男子寮で、レオン以外にも男子生徒は沢山いるわけで……慣れないといけない。
頭では分かっているけれど、正直上手く立ち回れる自信はなかった。
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男子寮に着くと、優しげなブラウンの瞳をしたお爺さんが出迎えてくれた。
モンドという名のこの人は男子寮の寮父さんで、穏やかな雰囲気でありながら頼りなげな感じはしない。一代目学園長の時代から関わっているという彼もまた、突然現れた入学生に対し警戒も戸惑いも見せなかった。
「君がルカくんか。綺麗な子だねぇ。」
ごく自然な口調でのその言葉は、くすぐったさこそあれど少しも嫌な感じがしない。よろしくお願いします、とすっと返すことが出来た。
「それじゃモンドさん、あとはお願いします。……ルカ、また学園でな。」
一旦の案内役を終えたフィル先生が肩に手を置いてくる。頷いてお礼を言うと、ひらりと手を振って去っていった。これから何度も顔を合わせるしお世話になるだろう。
「さて、君の部屋に向かおうか。ついでに寮の簡単な案内もしよう。」
そう言ったモンドさんのしっかりとした足取りに続き、寮のなかを歩く。
共用スペースである談話室は広々としていて、ソファーに丸テーブルも複数、簡易キッチンまで備え付けられていた。ただ今は誰の姿もない。
「……静かですね。」
思わず口に出すと、モンドさんは朗らかに答えた。
「まだ休暇中だからね。でも、レオンくんのように早めに戻ってくる子もいる。ここから日に日に賑やかになっていくよ。」
なるほど、在校生であればいつ戻ってきても良いのか。納得すると同時に、レオンが早く戻ってきているのには何か事情があるのかと気になった。けれど詮索は良くない。
そうして辿り着いた自室は二階の角部屋だった。ノックをすると少しの間が空いて扉が開き、レオンが姿を見せる。
「……おはよう。昨日ぶり。」
「……ああ。」
なんだか照れくさい。レオンもどこか気まずそうで、でもその雰囲気は柔らかかった。
「雪の季のうちにやることが色々あるみたいだけど、今日はゆっくり過ごしていいと聞いている。レオンくん、色々教えてあげて。」
にこにこしてこの場をあとにするモンドさんを見送りながら、なんだか自分の面倒を見るバトンリレーが行われているような気持ちになる。皆優しいけれど少し恥ずかしいかもしれない。
「とりあえず……部屋、見るか。」
「うん、そうする。」
部屋に足を踏み入れると、広さは十分にあった。
手前の左右に扉があって、これは恐らくシャワールームや洗面所だと思われる。奥の部屋が生活スペースで、右側と左側で対になりベッドと勉強机が一つずつ。ベッドサイドにはコンパクトな棚とランプが置かれていた。
さすがは私立というべきか、ビジネスホテル並みの設備と綺麗さだ。それと自分側が殺風景なのは当然でも、レオンの方も物が少なくすっきりとしている。
「レオンも……部屋、移動したの?」
「そうだな。前は別のやつと同室だった。」
そう聞いて少し申し訳なくなる。最初に関わったばかりに、ずっと巻き込まれてしまっているような……でも謝ったところで「気にするな」と言うだろうから、代わりに言った。
「色々……ありがとう。早く慣れるように、頑張るから。」
「………。」
琥珀色の瞳が真っ直ぐにこちらを見つめ、それから言葉を探すように唇を開きかける。一度閉じた後でゆっくりと言葉を紡いだ。
「これも何かの縁だろ。それと……あんまり無理すんなよ。」
「……うん。」
本当に、どうしてこんなに優しいんだろう。ときめきを通り越して感心してしまう。こんな風に大人びているから、先生たちからの信頼も厚いんだろうな。
不安だった同室生活も何とかなりそうに思えて、これから始まる日々への期待が高まった。




