1. 雪の季・終(2月)20日①
――目が覚めたら、美しすぎる青少年になっていた。
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最初に視界に入ったのは木でできた天井だった。ベッドで寝ていたようだけれど、見慣れた自分の部屋ではない。ここはどこなんだっけ……。首だけを動かして視線を巡らせると、壁に固定されたランプや木製の机、椅子が目に映る。
全く知らない場所だ。夢を見ているのかと、そのままぼんやりと天井を見つめる。けれど次の瞬間に浮かんだ記憶はやけに鮮明だった。
会社からの帰り道。考えごとをしながら渡ろうとした交差点。止まらずに曲がってきた車のライト――そこまで考えて息が止まる。
事故に遭った、それは間違いない。それからどうなった?慌てて身体を起こすとぐらりと視界が揺れた。
「っ……。」
目眩を起こして気分が悪い。でも起き上がれた。目を閉じて少し落ち着くのを待ってから、ゆっくりと手元を確認する。
「……え。」
そうしてやっと気がついた。この手は自分の手ではない。大きさや骨格がまるで違う……これは男の人の手だ。
「待って……。」
発した声もそう。透明感を含んだ低すぎないその音は、若い男性のように思えた。
一体何が起きているんだろう。ここはどこで、これは"誰"なの?鼓動がうるさいくらいに激しい。
思わず胸を抑えながらもう一度部屋を見渡すと、扉の横に備え付けられた丸鏡を見つけた。そこにこの姿を映せば――確かめる他、ない。
ベッドから立ち上がろうとして足元がふらついた。
「わっ……。」
聞き慣れない声をあげながら咄嗟に床に手をつく。
この身体、軽すぎる。力が入らないというかふわふわと覚束ない。まるで必要なエネルギーが足りていないような感じだ。色白で腕も細くて、かなり華奢な体格をしているようだった。
ゆっくりと息を整えてから立ち上がり、壁づたいに鏡まで辿り着く。恐る恐る覗き込んで、そして息を呑んだ。
そこに映っていたのは、あまりにも綺麗な男の子。10代後半……高校生くらいなのかな。
まず目を引くのは、光を透かすような銀白の髪。襟足は短く、やや長めの前髪とサイドの毛束の質感は滑らかだ。そして二重の線が綺麗なアーモンド型の目。瞳は深い蒼色で奥に金色の光が揺れていて、まるで夜空みたいだと思った。
無駄のない輪郭に主張しすぎない鼻筋、形の良い唇。なんというか非の打ち所が一つもない。パーツも配置も全てが完璧で調和していて、まるで絵本の中から出てきた王子様みたいだ。それでいてどこか儚く守ってあげたくなるような雰囲気がある。
……人間、なんだよね?芸能人でも敵う人が思いつかない。こんなにも綺麗な容姿であれば、そこにいるだけで視線を集めてしまいそうだ。
「………。」
指先でその白い頬をなぞる。確かに触れた感触があって、今彼のなかに"自分"が存在していることは肯定せざるを得なかった。
「転生……。」
それ以外に説明のしようがない。身体の感覚も肌に触れる空気もやけに現実味があって、覚める夢では無さそうだった。現実の自分は事故で死んでしまって、それでその魂がこの子の身体に……?
でもそれなら、どうして彼のことが何も分からないんだろう?転生後の人物として生きていたうえで、前世の記憶を思い出すのがデフォルトなのでは?
今の状態では、別の人の身体に20代OLだった自分の意識と記憶が丸ごと入っただけみたいだ。これまで何をしていたのか、これからどうすれば良いのかも全く分からない。まさか何か手違いがあって、ただ身体を乗っ取っているだけだったら……?
「どうしよう……。」
怒涛の展開で忘れかけていたけれど、この身体は油断したら倒れてしまいそうなくらいに弱っているみたいだ。本来の持ち主のためにも状況を把握しないと――。
そう考えて"彼"の荷物を探す。すぐに机の上に置かれた鞄に気がついた。ゆっくりと近付き、その革製のショルダー型バッグを開ける。
鞄と同じ革製の巾着袋にナイフ、水筒、布の切れ端……そして半分に折られた羊皮紙。予感がして、そのざらついた質感の紙を手に取りそっと開いた。




