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ファイティングガール  作者: Jack…
大学二年
67/72

新座の赤池くん - 経緯はともかく、レギュラー獲得は自力だ!③

赤池です。


オレの一年秋リーグの終了後、引退式の翌日からは新チームとしての練習が始まります。

まあ、水面下では多少編成等も進んでいるのですが、公式にはこの日からです。


           ・・・


井沢さん、三つめのスライダー、早速やりましょう!!


「すまん、まだ抜け切ってない・・・」


ですよねーー。でもそれくらいのほうが力が抜けていいっすよ?


「そうかぁ?」


アップでランニングとかキャッチボールはできたんですよね?


「それは、流石にできるよ」


じゃあ、八割投球でいきましょう。

オレはあっちいきますんで、5球くらい、立ったまま受けますよ。


「おう」


           ・・・


オレはキャッチャーボックスに立ち、井沢先輩の球を受けた。

昨日は延々と飲んでたみたいだし、まあ、軽く二日酔いなのは仕方無いだろう。


何球か受けたあとで座り、「八割まっすぐお願いします!!」

と、声を掛けた。


うん、球自体はいつも通り。まあまあバックスピンが掛かった120くらいの真っ直ぐだ。


普通に試合でも使える。まあ、試合じゃぁ連投する球じゃないけど・・・


井沢さんの本気の真っ直ぐは145程度だが、体の負荷を考えると一試合で使えるのは精々20球程度、できれば10球で終わらせたい。

同じく流れるスライダー、実質スイーパーもその程度の球数に抑えたい。


落ちるスライダー、これはほぼ真っ直ぐの軌道で来て、打者の直前で鋭く曲がって落ちるやつだ。メジャーで言うカッターだ。


スイーパーよりは負担が少ない、という本人談を信じていいとすれば、多めに使っていいのはこっちだ。

同様に八割まっすぐも適切に使えばピッチャーの体の負担を減らせる。

・・・メンタル弱いピッチャーの場合はゆるいまっすぐを投げること自体がダメージになる場合もあるので、そこは人それぞれってトコはあるけど・・・


そして、三つめのスライダーは・・・実は高校時代にマイちゃんの球を受けてるから知ってる。あればっかりは、投げようとして投げれるもんじゃない。

向いてるピッチャーしか投げられない、一種の魔球だ。そう、ジャイロボール。


彼女のジャイロは通称「ターボ」だった。


まず、リリースの瞬間、結構上に上がる。遅い球の特徴だ。

そしてストライクゾーンに落ちてくる。

ここまでは普通のスローボールに見える。バッター、キャッチャーの目線だと、100~110で、ホームベースの手前でワンバウンドするかしないか?って感じの球に見える。

ところが、打者の手前で一気に伸びて130くらいでミットに納まるのだ!!

物理的に初速より終速が速いなんてあり得ないから、終速のほうが遅いに決まってるが、たぶん、彼女のターボは速度がほとんど落ちないんだろう。


バックスピンは「伸びる」のは事実だが、揚力を得るために速度は犠牲になっている。


マイちゃんの真っ直ぐは144がマックスだった・・・って考えるとやっぱ女子投手としてはとんでもない速度だな・・・が、バックスピンが半端ないので、ミットに収まったときには、精々135をちょっと越えるくらいだ(理学部自作機による実測値)。


つまりターボは山なりのスローボールに見えて最速ストレートよりちょっと遅いだけ、という魔球なのだ。


以前、井沢先輩が遊びで「これが三つめのスライダーだけど、使えないんだよな」って言って投げてくれたのが、まさにジャイロ、正確にはジャイロもどきだった。


確かにこのままだと使えない。遅くてちょっとしか曲がらないスライダーだからな。

しかし、彼女のように130まで出なくても、125でも充分な魔球になる。

135出たら完全に魔球だ。

回転軸をちょっとずらせばいいだけなんだが、それができる投手は限られまくっている。


井沢先輩への要求は、カットとスイーパーを交互に10球となり、ついにその時が来た。


先輩、三つめのスライダー投げてもらえますか?


「え、まあ、やってみるって言ったんだから、やるか?」


お願いします!!


一球目、うん。これだとダメだな。

二球目、これもダメだ。

三球目、これもダメ、でも逆に言えば安定して同じ変化球が投げられるってことだ。


先輩!!球速上げることを意識から外せますか?


「ん?まあ・・・できなくないが・・・今でも速くないのにいいのか?」


いいと思います。あと、リリース時は『切る』感覚ですか?


「そうだな。切る感じだな」


そうすっと、斜め下、左下に切ってる感覚でいいっすか?


「改めて意識したことはないが・・・左下か。そうだな」


真下に切れます?


「真下ぁ~!?・・・やったことねぇぞ?」


ちょっとやってみて下さい。


「知らねーぞ?まあ、練習だからどこへ飛んでってもいいけど・・・」


お願いします!!


フォームは・・・それほど変わってない、で・・・おっ、ややキテる!!


いいっす!!いい球来てますよ!!


「マジかぁ?こっち的にはヘロ球だぞ?」


もう少しでもっと良くなりますよ!!


「よっ」


うん、さっきと同じだ。先輩は同じ変化球を投げることが上手いんだな。


いいっす!!


「本当かぁ~?」


今度は八割まっすぐの気持ちを込めてもっと真下を意識して下さい!!


「なんじゃそりゃ・・・まあ、やってみっけど・・・よっ」


うん、ほぼジャイロだ。こんなすぐに出来るとは思ってなかったけど・・・


先輩、できて来てます!!護さん呼んでください!!


「自分で呼べよ、同室だろ?」


           ・・・


護さん、井沢さんの三つめのスライダー、化けますよ!


「本当かぁ?あれ・・・まあ・・・スライダーってピッチャーが言えばスライダーだからスライダーなだけで、全然スライドしないし、球速もねぇぞ?」


まあ、立ってください。一応、メットとバットお願いします。


井沢さん、八割まっすぐからお願いします。


「あいよ」


うん、どうすか?護さん?


「普通だな。狙えば前に飛ばせそうだ」


そうですよね。じゃ、井沢さん、全速までいかなくてもいいんで140越えくらいの真っ直ぐお願いします


「おうよ」


ほい、護さん?


「まあ、速いな。140は出てるし、そこそこ伸びてるよな」


ですよね。じゃあ、井沢さん、例のやつお願いします。真下ですよ、真下!


「なんだ真下って」「モル、しつこいよ。わかってるって  ほいっ」


はいっ!!どうすか?


「・・・なんじゃこりゃ・・・気持ちわりい球だな・・・でもスライダーじゃないだろ?」


差し込まれるっしょ?


「遅いのに速い系か・・・確かに井沢の持ち球には無かったな。井沢!もう一球いいか!!」


「おうっ」


はい。ナイピッチ! いいっしょ?


「いいな・・・ふわっと浮くのに手元じゃ速い。もう一球!!」


「おうよっ」


ナイピッチ! 護さん、これ、使い方次第じゃないっすか?


「そうだな・・・井沢!!いつこんなん投げれるようになったんだよ!?」


「さっき!!」


「は?」


「さっきだよ!!モルのくせに、オレに投球指導しやがったんだ!!」


「は?・・・モル、お前、この球見たこと・・・あるんだな?」


あります。


「U15代表か?」


いいえ、高校です。


「ああ、例の変則サウスポー軍団か?」


違います。例のホラ話にしか聞こえないマイちゃんの球です。


「ああ、聞きすぎて本当の話かと勘違いしそうな女子のことか・・・」


まあ、本当なんですけどね・・・


「モル、彼女の球、一度見てみてぇぞ・・・井沢!!その球、例の女子のやつらしいぞ!!」


「ホントかよ・・・女子高生の球を教わってたのかよ、オレ・・・」


「イヤ、でも初見でスリーストライク目に投げたら、ほぼ、見逃し三振だ!!」


「マジかぁ?! オレ的にはヘロ球なんだけどさ・・・」


「手元で凄く伸びるように見えるんだよ!!」


           ・・・


そう、これは見た目は凄い地味な球だ。スイーパーのように見た目が派手でシロウトにも受ける球でもないし、剛速球でもない。

フォークや高速シンカーのように手元で派手に落ちるわけでもない。

ある意味、一番自然に落ちる球だ。


ただ、大学に来てまで野球をやっている打者は、基本、バックスピンばかり打ってきている。ピッチングマシンだって、基本バックスピンだ。


ロータータイプのピッチングマシンはバックスピンしか投げられないからな。


まあ、高級品ならカーブやシュート、スライダーまではマネはできるし、なんなら火の玉ストレートもマネできなくもない(なんなら近くに持ってくるだけでできるwww)。

でも、ジャイロだけはマシンじゃ投げられない。


だからこれは武器になる、と、最初に受けたときに思ったオレの直感は正しかったようだ。

まあ、これも、マイちゃんの受け売りだけどな。


次の日、試してみたら、井沢先輩のジャイロはダメスライダーに戻ってた。


しかし、一週間くらいの練習で、安定してジャイロを投げられるようになった。


やっぱこの人すげぇや。


今の時期は対外試合ができないから、紅白戦ばかりだが、Bチームを合わせれば何パターンものチームの組み方がある。


井沢先輩もそこそこ投げて、この最も変化しない変化球、ジャイロをすっかりモノにした。


そして、もう一つ、井沢先輩には残酷だったかもしれないが、「慣れれば打てる球」というのも体感してもらった。


速いジャイロを投げれるピッチャーが限られているってだけで、ジャイロボールそのものの習得自体はそんなに難しいわけでもない。遅いジャイロなら割と簡単に投げられる。


ウチのピッチャー陣にもプチ・ジャイロブームが来たが、最低でもスピードガンで120以上出せないと、大した効果はない、と分かると、結局井沢先輩しか残らなかった。


           ・・・


攻略バッターだが、長距離打者に影響が出ると困るので、困ったときの護さんにお願いした。こういうとき同室は便利だ。


「またオレかよ・・・」


最初に見てるし、慣れてますよね?


「まあ、少しは慣れたけど・・・お前が教えてくれれば打てるけど、まっすぐやスライダーと混ぜられたら打てないぞ?」


サイン出しますよ?


「・・・つーことは井沢には秘密か?」


秘密です。


「いい根性してるぜ・・・ウチのエースの必殺技をチームメイトにツブさせるとかな・・・」


スイーパーや全力真っ直ぐよりは、体力的にも楽な球なはずなので、逃げるクセを付けてほしくないだけっす。

それに先発なんですから、二巡目以降も考えないとです。一巡目は温存もありえます。


「まったく・・・言いたいことはわかるけどよ! で、サインは?」


ピッチャーへサインを出したあと、オレの場合、右手を最終的には太腿の上、股関節に挟む感じで置きます。その前に右膝を触ります。これはルーチンです。


「ああ、そうだな。右手の位置は好みだが」


右膝を触るとき、手は基本、パーです。砂を払うルーチンですから。で、このとき、指を閉じきっていたら、ジャイロじゃない球です。開いていたら、ジャイロです。で、右バッターから見て、小指が見えるくらいホーム側に傾いてたら内角、水平なら真ん中、逆なら外角です。


「高さは?」


高さを指定できるタイプの変化球じゃないっす。『スローボール』と感じた位置のだいたい二個上くらいが『ジャイロ』の高さです。


「けっこう伸びるよな」


現実には落ちてます。ただ、『スローボール』にしか見えないから思ったより落ちないし、思ったより速いってだけなんすよ。


「そうか・・・じゃあ、1.5拍くらい早めのボール二つ高めってことか」


タイミングは護先輩次第なんで。


「ま、そうだな。じゃあ、今度の練習試合で相手チームに入れるように画策するわ」


           ・・・


「おい!!モル!!お前何かやったろ!!」


バレたか・・・まあ、バレるよな。


「よりによって護にパカパカ打たれたよ!!お前同室だったよな!!攻略法教えたのか?!」


はい、教えました。

井沢先輩、慣れれば当てるのは難しくないんですよ。あれ。


「そりゃ、わかってっけどよ・・・もとはヘロ球だもんな」


なんで、グーチェンジを練習しましょう。


「また球種増やすのかよ・・・」


サークルチェンジはともかく、グーチェンジは球種ってほどの球種じゃないっすよ?

井沢先輩は、僅かな時間でジャイロを覚えましたけど、それはスライダー、カットボールの基礎があったからっす。

切り方、力の入れ方の違いだけで投げれたじゃないっすか?


「まあ、そうだけどな」


真っ直ぐですけど、八割と全力で、フォーム違わないっすよね?


「そうでなきゃ意味がないだろ?」


はい。おっしゃる通りです。

グーチェンジは八割の投げ方で、中指と人差し指じゃなくて、中指と人差し指の付け根で押し出せば投げられます。


「・・・ホントか?腕の振りは?」


八割と同じで大丈夫です。


「そんなに簡単に投げれるんなら、なんでコーチは教えないんだよ?」


いや・・・速球派の投手はチェンジ投げるのが下手な人多いんで、速球やスライダーに影響が出るのを恐れている可能性があります。教えてくれと相談すればきっと教えてくれましたよ?


「そうなんか?」


特にグーチェンジは単純ですけど、地面にボールを叩きつけそう・・・とかで腕が振れなくなるピッチャーもいるって聞いたことはあります。


「気持ちは分かる・・・けど、オレは大丈夫な気もする・・・根拠はねぇけど」


オレも根拠はないですが、そう思います。


「そういえば、例の女子はオレとマックスが大差ないんだったよな?チェンジは投げれんのか?」


恐しいことにグーチェンジとサークルチェンジの投げ分けができます。


「マジかよ・・・オレはサークルチェンジはどうよ?」


井沢先輩はやめといたほうがいいです。彼女は基本シュートピッチャーなんで。スライダーも投げれますけど、変化球としては高速シュートとシンカーが武器です。なんで、サークルチェンジもやりやすいみたいなんですが、スライダーが武器の先輩は・・・習得できたとしても・・・コスパ悪いと思います。


「は?コスパ?」


はい。デメリットがデカいですし、習得にも時間がスゲーかかると思います。

ジャイロを実質一週間でマスターした先輩なら、グーチェンジは・・・同じくらいの期間で投げられるようになると、思うんですが・・・


「なるほどな。こないだは事後報告だったから、今度は先にコーチに相談しとくわ。スライダーを直したらジャイロになったって言ったら、なんじゃそりゃって言われたけどな・・・」


ああ、ジャイロは既存の変化球の改良でしたが、今度は完全に新球種だから・・・そうですね。コーチに事前相談がベストでしょうね。

あ、思いだしました!


「何をだ?」


彼女が言ってたことです。


「は?」


シャドーで、タオルを使って練習ってやりますよね?


「まあ、あれなら負荷も少ないしな」


普通は振り抜きますよね?


「そりゃそうだろ?」


タオルがパンっ!!って言うか言わないかのタイミングでリリースすれば彼女曰くグーチェンジの出来上がりだそうです。


「そんなんでできるのか?」


案外難しいみたいですよ?


「まあ、簡単だしやってみるわ」


よろしくお願いします。


「ところで・・・」


はい?


「その彼女のウィニングショットって何だよ?」


対右では内角高めへのビーンボールもどきのシュート、対左でも内角高めへのビーンボールもどきのスライダーです。

どっちもキッチリストライクってとこまで曲がって落ちてきます。


「・・・めっちゃ初見殺しだな・・・」


だいたい一球目でカタが付きます。間合いがめっちゃ速いんで。


「まあ、ドキドキが収まんねぇうちにぽんぽんと投げちゃえば、三振か」


あ、一応、144キロのバックスピンもトドメのウィニングショットっすよ?


「まあ、オレと大差無いから・・・女子としちゃ圧倒的な速さだけど・・・男子ならそこそこ打てちゃわねーか?」


それが・・・速いんすよ。サウスポーなんすけど、右利きなんすよ。


「ちょっと待て・・・本当なのか?右利きで左投げって出来るのか・・・」


本当です。で、右利きですから、グラブの使い方がすげー上手いんです。


「器用なのは想像できるが・・・情報量多すぎだよ・・・」


良く言われます。で、オレ、それなりに手、デカいでしょ?


「まあ、背もデカいし、手だって・・・確かにデカいな。オレより一回りデカいのか」


そのオレより彼女は手が大きいんですよ。ま、正確に言えば指がめっちゃ長いんです。太くはないんすけどね?手の平もオレよりは小さいですね。


「じゃあ、フォークも投げれんのか」


はい、努力しなくても挟めますし、握力もすごいっすから・・・で、指が長いんで、マックス一日一球って決めている、最強バックスピン、フォーシームの回転が凄いんですよ。


「指が長い・・・確かにしっかり掛かればバックスピンも凄くなるのか・・・な?・・・まあ、あんまりやると痛めそうだから一日一球は納得だな」


そうです。でも、一球だけですけど、スゲー伸びます。


「でも、女子じゃなくて男子の野球部だったんだよな?」


そうっすね。


「お前ら打てたの?」


シートとかのときは打てる球を投げてもらってました。


「マジで投げると?」


当てることすら至難の技ってやつっす。


「コントロールはいいんだな?」


そうでなきゃビーンボールもどきは怖くて構えられないっすよ。


「そりゃそうだ。やっぱり見てみてぇから今度連れてこい!!」


二年になったら連絡してみますよ。


「なんか約束でもしてあったのか?」


特には。でも彼女なら一年あれば四年分の勉強を終わらせてそうだ、くらいの感じです。


「なんじゃそりゃ!!」


そういう人なんです。小学生のうちに大学受験の準備が終わっているような女子ですから。


「そう言えば聞いたな。それですげぇピッチャーも出来るってどんだけ天才なんだよ!!」


オレも知りたいです!!

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