新座の赤池くん - 寮生活と抜擢の経緯
赤池です。
もう二年ですが、入学手続き直後からの話になります。
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大学入学の前、三月から練習参加は始まった。
推薦組は二月くらいだが、ヒトによっては一月から練習に参加しているメンバーだっている。
こっちは一般入試組なので、合格発表後に手続きをして、必要があれば親との面談もやってくれるわけで、三月頭が最速というところだ。
寮は基本的に二人部屋が多い。オレはその年の四月に三年、現・四年の先輩キャッチャーと同部屋だ。
体育会系の中でも野球部はテレビや一部ようつべなどでも喧伝されているとおり、上下関係に厳しい高校・大学は多い。
この大学は厳しいほうではない。が、それなりにはある。
六大学の中で一番厳しくないのは国立大学法人では序列一位の大学だ。有名だよな?
その次に厳しくない。
といっても、あちらはあの大学に実力で入った上に野球への情熱がある、というところだから、野球でそれなりに有名な大学の中では一番厳しくない大学群に入るだろうってとこまでは確実だろう。
まあ、調子に乗らない、と、敬語を忘れないことは必須だろうと思っていた。その他にもこまごま注意はしている。
実際それでよかった。中央高でも一年夏から正捕手をやらせてもらったが、2番をもらったのは高三だ。それまでは12を付けていた。
校風も似ていると思う。カッコ付け、クールな感じだ。
その中で野球部は暑苦しいのも似ている。
といっても他の野球部に比べれば、暑苦しさは減り、「カッコ付けてる」感じなのもさらに似ている。
そして、実質日本Bチームながら、U15日本代表、大会打点王の看板は、ここでも通用した。
三月のうちから、オレに「捕ってみろ」「打ってみろ」の機会が与えられたのだ。正直、ランニングやノックだけで終わるかもな、と思っていたので意外だった。
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「お前、飛ばすな」
コーチ、ありがとうございます!!
「あーーっす、とか言わないのな」
言ったほうがいいっすか?ウチの高校、それ禁止だったんですよ。
「珍しいな。まあ、言わなくてもいい。どっちかと言うと直せって言うんだよ」
承知いたしました!!
「しかし・・・U15で打点王、強豪から山ほど勧誘あったろ?」
はいっ!!
「しかも、お前の出身校、調べてみたら、偏差値70以上ねーか。よく入れたな」
大変苦労いたしました!!
「じゃあ、ここは楽勝か?」
そんなことはございません!!
「こっちのキャンパスも合格したのに、池袋か?」
一応、親の金でここに来ています。父親と自分の一致した希望の、第一志望の経営学部にも受かりましたのを幸いに、そちらにさせていただきました!!
「親父さんは、地元で会社でも経営しているのか?」
先代までは地元の不動産屋、親父は一応大手不動産出身で、今では家を継いで、地元では大きなほうのデベロッパー・・・まあ、中小企業ですが・・・になっております!!親父もこの大学です!!応援団です!
「まあ、野球部と無関係・・・とはまったく言えないか。勝てないとあいつらに向ける顔がない。そうか、もしかしてだけど、大学だけじゃなく、親父さんと高校も一緒か?」
はい!そうです!
「そういうパターンか・・・しかし飛ばしたなぁ・・・高校のころから木のバットで打ってたのか?」
はい!!すんません!!いいえでした!!竹バットで練習してました!!
「あれか・・・よくやるな。普通飛ばなさすぎてヘコむんだが・・・」
最初はそうでした!!
「なるほどな。じゃ、新一年としてはめったに無いことだが・・・シートで受けてみるか?」
はい!!
・・・
大学にはウチなりのサインがある。指一本でストレート、二本ならカーブみたいなシンプルなサインと、キーを組み合わせたものだ。
例えば、その日のキーが「アゴ」と決まれば、肩を触ってから出したサインはダミーで、アゴ・・・正確にはプロテクターだが、そこを触ってから出したサインが「正」だ。
最後に出したものが正とも限らない。ダミー、正、ダミー、のような出し方もする。
内野、特にセカンドとショートは守備にも関わるので、ピッチャー毎に全く違うサインを使うというのは現実的じゃない。
ただ、多少の違いは許容されていて、例えばさっきのサインなら、カーブは投げられたとしてもショボいが、スライダーが得意で投げ分けもできる○○先輩なら、二本はスライダーで、そのあとの仕草で低速、高速を使い分けるみたいなことはする。
それなら、○○先輩が右で、バッターも右なら、セカンドは一塁方向を意識すればいい、までは内野陣も理解できるからな。
高校でもマイちゃん以外にはそういうサインだったので、違和感は無い。
実は説明してないが、マイティサインには圧縮出しという、キャッチャーもピッチャーも計算力を要求される出し方があり、これを使うと一回のサイン交換で三球勝負全部分の配球を送れる(本気になれば何球でも送れるが順列組み合わせの「場合の数」の爆発的増大と記憶力の限界が発生するのでオレが持たない)。
これにマイちゃんのアゴの振り方で、1球目からそのまま、その他合計6通りの組み合わせが実現できる。
これの何が凄いかというと、2球目以降の間が異常に早くなる。サイン交換をしないから当たり前だ。
右バッターを想定してみよう。
ローテーション後でインハイになるように構えれば「速い球を入れていけ」の指示を意味するサインが
・1球目なら高速シュートでエグれ、
・2球目なら高速スライダーで差し込め、またはシンカーを入れてビビらせろ、
・3球目なら真っ直ぐで見逃しか三振狙い、
みたいな意味を一球目のサイン交換一往復で、あらかじめ伝えることができる。
但し、ピッチャーもキツいし、キャッチャーはそれ以上にキツい。
そもそも普通のピッチャーは30球中29球以上が思ったところに飛んでく、なんていう、マイちゃんほどの異常なコントロールを持っていない。
内外、上下、球種、しっかり入れてけ、またはハズせ、が関の山で、それでも逆球が普通に来る。
なので「そんなこと言われても・・・」というピッチャーが普通だ。
そもそも圧縮サインなので解凍プロセスができないとサインの意味を理解できない。
キャッチャーは一応、3球分の意味を考えて圧縮マイティサインを出すことは出すんだが、マイちゃんの反応で、球種が変わる。
なので、マイちゃんがモーションに入ったあとで「内野陣へのサイン」を出す。
このサインはシンプルでバレバレでもかまわない。野手を指差してから左右に少し動かし、そのへんに飛ぶよ、と言ってるだけのものだからだ。
例えばセカンドを指差して、一塁側に斜め下に動かせば、一二間にゴロか低いライナー、真上に動かせばセカンドライナーが行ったら飛べ、くらいのもので、本能的に理解できる。
二塁以外の内野、例えば一塁も、それにより、ランナー一塁のときに入れるようにしておいたほうがいいのか、セカンドのバックアップに回るべきかを理解して動ける。
ただ、捕手は、とても大変なのだ。初球でのサイン交換後にマイちゃんが投げる球種を予測して、それを元に指示しなければいけないし、マイちゃんの場合、モーションに入っても球種が確定しない。
リリース直後でも確定せず、正直、バッターが振る直前のタイミングでやっと確定する。
想定がスライダーかシュートか、なら、もう少し前で分かる。
逆に、0-2の三球目で、状況からして、こっちの想定が弱シュートかバックスピンかだと、「え、そこからインハイに来るの?」と感じた時点でバックスピン確定だ。つまりバッターとほとんどタイミングは変わらない。
この場合、バッターがボールの下を振るか見逃すのもほぼ確定なので、オレの出した守備指示サインが間違っていたかどうかが内野陣に影響することもないんだが。
ともかく、捕ればいいだけになる。
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座ってみるかと、言われてから、その日投げるピッチャーにインタビューさせてもらう時間をもらい、各投手の好みや得意な球種やコースを聞いた上で受けさせてもらった。
流石、大学野球部だな、と思った。ベンチ入りできていない投手でも、けっこう凄い。
高校の時の脆弱投手陣と比べるのは・・・母校のほうに悪いか。先輩、同級生、後輩、みんな、実力で受験に受かっただけで大したもんなのに、野球・投手をやってくれているだけで感謝していたし、今だってその気持ちには変わりないもんな。
ちなみにジョージも目先を変える程度であればリリーフはできた。
コントロール重視だとヘロ球、速度重視だとノーコンだったが、体はデカいし、全球クイックだから、ヘロ球をチェンジ系と捉えれば、まあ、初見で1イニングなら持つかな?という感じではあった。
クイックから真っ直ぐ・・・あいつらは「バックスピン」という用語にこだわってたが・・・で、140km/hを越えてくれば、まあ、使い方次第だろう。
初球は真ん中低めに構えて、思い切り投げてこい、一択だ。
入ってくればラッキー、で、次も同じ球(来る場所は違う)。
逆に内外に外れたら、ヘロ球を逆に入るように投げさせれば、「こいつもコントロールあんのか?」と、勝手に誤解してくれるしな。
なんで、思ってないところに速い球が来る経験もある程度は積んでいるんで、先輩や新一年の球は、なんとか捕れたし、サイン交換もうまくいった、とその時のオレが思っていた・・・が、上手く行きすぎだったようだ。
・・・
「おい!」
なんすか、井沢先輩?
「お前、・・・なんて呼べばいいんだ?初めてだよな?オレと組むの?」
はい。赤池でもマモル、でも、御自由にお願いします。二文字界隈だと、マモ、とかモル、と呼ばれてました。
「マモルはよりによって捕手でカブりがあるから・・・」
そういえば同室の先輩がそうですね。漢字は違いますが・・・
「そうだな。じゃ、モルでいいか?」
承知しました。名前以外では・・・サインミスしちゃいましたっけ?
「してない。逆だ。なんでスライダーの投げ分け指示ができてんだよ?!」
いや、井沢先輩のスライダー、少なくとも二種類ありますよね?
「うん。二種類だ。三種類はない・・・こともないが、そっちの護のほうの見立てでは使いものにならん、だそうだ」
まあ、使い方次第かもしれませんが・・・まだ見てないのでなんとも・・・
「だいたい、なんでパスボールしないんだ?曲がるほうのスライダーは初見じゃまず捕れないんだが・・・」
カン・・・ですかね?
「おいおい・・・カンでピタ止めできんのかよ・・・ちょっとバッテリー連中来いや・・・」
いやいや・・・カンベンしてくださいよ?
「そーゆーのじゃねーよ。お前、自分の価値理解してねーだろ? U15とはいえ、元日本代表なんだからな? ここじゃ年下だからってイジめたりしねーよ。ここはそういう野球部じゃねーしな?」
周囲から「おう」「そうだな」「安心しろよ」みたいな声が掛かる。
オレ的にはもう一つ安心はできないが、笑顔を作って敬語で接するしかないか。
「オレが代表して質問するから、みんなで浴びせかけるように質問するのはちょっとイジめっぽいからな?いいよな?」「おう」「そーゆやつね」「はいはい」
まあ、質疑応答大会くらいなら大丈夫だとは思う・・・ことにしよう。
「じゃあ、オレは自分で言うのもアレだけど荒れ球気味で、特に高速のスライダーはどこまで曲がってくか、自分でも分かんねーんだ。なんであれを初見で捕れるかってのを、『カン』以外で説明できねーか?」
確かに・・・逆球も多かったし・・・まあ、本気で信じてもらえるかは微妙だが、マイちゃんの話でもするしかないか。
信用してもらえるかは微妙ですが、母校の野球部にはオレと身長は同じくらいで、当然ずっと華奢ですが、クイックでバックスピンもスライダーもシュートも140キロ投げる女子がいまして・・・彼女は頭が良すぎて色々な物を再定義するのが大好きなんですよ・・・
そうして、今後何度も説明することになる彼女、マイちゃんの偉業や異形性、マイティサインと圧縮マイティサインについての説明を始めることになったのだ。
・・・
「信じられんが・・・サインを出せて、捕れてる以上、信用するしかないって結論になるな」「・・・うん、そうだな」「・・・信じがたいが・・・」
まあ、信じられないのは、受けてた自分がよく分かりますよ。
一応、なぜ彼女が有名じゃないかと言うと、まずは彼女は野球自体は好きだけど、野球で目立つのが嫌だというタイプです。
「・・・どうやったら、そんな球を投げられるヤツが目立たないようにできるっていうんだよ?」
彼女はバスケでも余裕で目立つプレーが出来過ぎるんで、部活は野球を選んだくらいなんです。「女子は公式戦に出られない」って理由でだけですよ?
「まあ、その身長があって身体能力があるなら、バスケなら全然通用しちゃうんだろうな」
バスケも遊ぶくらいならいいけど、義務でやりたくない、という人材です。
それに野球でもバッティングのほうが好き、だそうです。
「無茶苦茶だな・・・飛ばすのか?モルも新一年と考えれば飛ばすほうだが・・・お前と比べて、っつっても女子か。内野の頭を確実に越えるとか、そういうことか?」
これも信じてもらえそうにないんですが・・・彼女は狙って左右のポールの真ん中くらいに当てに行けます。それでもセンターバックスクリーンに飛ばすよりは楽と言い張るタイプのバッターです。
「・・・マジか・・・飛距離的にはそうかもしんねーけど、フツーに切れるだろ?」
彼女はファールから戻ってポールに当てるというバッテリー殺しとも言える打法の天才です
「聞いただけでウンザリするほどイヤなバッターだな・・・どうだ、護?」
「本当なら『ヤメテクレー』としか思わんな。でも、今、なんとなくしっくり来たのがあんだよ」
「どーゆーことだ?護」
「こいつ、オレもモル、と呼ぶことにしたんだが・・・気が合うな。で、同室なんでキャッチングやリードなんかについて話し込んだりもしてるんだが・・・」
してますね。ありがたいことだと思ってます。
「高校出たばっか、ってのが信じられん・・・同級生か先輩かってレベルなんだよ」
ほぼ、彼女の理論の受け売りですよ?
「連れてこれるか?見てみたいんだが・・・」
あーー。イヤがると思います。現役のモデルなので、モデルの仕事、ということにしてしまえば、無理矢理来てもらうことはできると思いますが・・・
「金が掛かるんだな? まあ、現役モデルじゃ仕事ってことにしたらそうなるよな・・・」
「いくらくらいだ?高校生じゃ無理でも大学生なら集められるかもしれんぞ?」
うーーん・・・本気でイヤがったら、写真撮影以外は受け付けない、も平気でできる人物ですから・・・
「投球の写真撮影、という名目はどうだ?」
それだと、最初からその条件でオファーを出さないといけませんが・・・
「男で囲んでプレッシャーを掛ける・・・いや、冗談だよ・・・これはコンプライアンス的にも絶対ダメだな!!」
ダメですが、ダメの理由が違いますよ、先輩達?
「どういう意味だ?」
彼女は日本刀を抜き身で持ったヤクザ数人に対して、素手で喧嘩を持ち掛け、単に勝っただけではなく、自分は無傷で、相手にも大怪我を負わせない・・・そういうことの出来る人物です。
「まじか・・・」「ドス持ちのヤクザにそんな手加減ができんのか?」
それだけじゃなくて、実はそれは市の治安委員会や県警と共謀した作戦で、組長は引退させ、更生の意思がある元暴力団員は、足抜けのモデルケースとしたうえで、更生会社の社員とするくらいまで準備がされていたらしいです。
で、その更生会社の社長は最初っから・・・彼女が女子中学生のころから・・・彼女で、今も彼女が社長です。
「・・・ヤバいな・・・」「・・・恐しいな、体力バカじゃないんだ・・・」
非常にヤバいです。変に脅したりすると、一般人として生活する分にはトラウマになる程度ですが、野球選手としては終わりになる程度のケガを・・・って・・・逆にある意味手加減はしてくれると思いますが・・・。
「怒らせたらダメなやつか・・・」「そういうレベルじゃないだろ?」
っすね。ただ、実際、接してみると優しい所も数限りなくあるんで、同級生からも好かれてますし、下級生からも慕われてましたよ?
「オレにまとめさせろ。もし、招聘するとしたら、何百万かわからんが、それなりの金額を集めて、ちゃんと依頼内容を明記してお願いすれば何の危険もないんだろう?」
それなら大丈夫です!!
「断言して大丈夫か?」
それなりに深い付き合いでしたから大丈夫と言い切れます!!
「・・・男女のほうか?」
そっちは1mmも無かったっす!!男は別にいましたし!!
「そいつもお前くらいデカかったりすんのか?」
ガタイ、筋力は同等です!野球だと流石に方向性は違うもの、総合力では勝ってると信じたいですが・・・もし、オレの、というか元チームの夏大の録画を見たんなら、一番か三番を打ってたデカいやつが彼女の彼氏でした!!
「あっ! オレ、見たわ。ホームランか三振か、の典型みたいなヤツな。長打力は凄かったな!! あと、0-2からでも思い切り振れるのもすげぇよ! ドコへ行ったんだ? 公式戦であれならどこか拾ってくれるだろ?」
普通の大学生してると思います。野球じゃなくて学力で大学に行きましたんで。
「じゃあ、学力で彼女を引っぱっていたタイプか?」
逆です。学力は彼女が一年入学時から全校一位で三年連続一位で卒業しました。
アイツは背こそあったもののヒョロガリだったのが半年でマッチョになって、あとはご覧の通りでした。
「・・・そうか・・・彼女もあんなに打つのか?」
ホームランはそのままで、三振が全部ライトかレフトポールに当たるって感じです!!特に左に立って、外低めのクソボールを強引に引っぱってファールから戻っていってライトポールに当てるのは・・・控え目に言って絶品です!!
「・・・それで『目立ちたくない』は明らかにオカシイよな?」「うん」「だよな」
はい!!! オレもそう思いますが、本人は本気でそう思ってました!!




