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仮想野球で練習だ

「と、いうわけで来たぜ」


キャプテンのセイヤ以下、県の西部からだとだいぶ距離があるだろうに、こっちの放課後直前に来た。

まあ、どうせ、授業があっても練習優先だろうし、そもそも、こいつら寮で合宿中か。みんなで一緒に出れば誰も何も言わないんだろう。


意外だったのはマイティさんだ。

普段の練習ではほぼ、ジャージにふわふわ帽子だ。

珍妙なあのナリも見慣れれば普通になる。


ところが、今日は練習着・・・わかるだろうか、野球の練習で白いユニフォームっぽいシルエットのやつ・・・を着て、ウチのキャップをかぶっている。


多分・・・二年前の練習試合以来だ。


そして、見るからに「気合の入った顔」をしている。

悪いことが起こらないように祈るしかないな。


セイヤ、よく来た。グラ整もやってあるし、すぐやるか?


「おう、喜んで。女子ピッチャーさんもよろしくお願いいたします」


「うむ。少し提案があるのだが?」


なんだ、マイティさん。


「こやつらは長身サウスポーの速球と高速スライダーに慣れる、という目的のために今日ここに来たのであるな?」


そのはずだ。だろ?セイヤ?


「おっしゃる通り。初戦の相手がそういうピッチャーなんだが、練習相手の心当たりが二年前のマモルとやった時以外に無くてな」


「うむ。当時は140km/h出なかったが、今は144km/hくらいまで出るようになった」


「あの時も150km/h以上に見えたのに、増速したんか。やるな」


「皆で慣れたいのだろう? 一巡目は真ん中高目の打ちやすいところに全力よりややランクの低い真っ直ぐを投げる。ウチのメンバーでも取り敢えず前に弾くだけならできる。なので、初球を打て。振らなければ一球で三振扱い。逆にストライクゾーンに行ったとしても真ん中高目とは言えないところだったら一球でフォアボールでよい」


「マジか」


「2巡目からは普通に投げる。で、私も打ちたいので、後攻でウチも打たせてほしい。ただ、ランナー交錯とかでのケガは今は特に避けたいだろう?だからノーアウトランナー無しからのシートだと思ってくれ。ヒットっぽかったら仮想ランナーで、実際には塁には立たぬ。次のバッターの塁打だけ進む。ショートが深かったら内野安打、外野がワンバン以上で取ればヒット、外野の間を抜けたらツーベース。スリーベースは無しで、スタンドインでホームラン。守備もムリに取りにいかず、内野でも外野でも『取れた!!』と言えば抜けてもアウト。実際に飛んだりダイビングキャッチはしない。ファースト送球もしない。6-4-3,4-6-3,5-4-3も同様に『ダブル!』と叫んだ時点で成立。ファーストは常に普通にファーストに入る。バッターは一切走らない。そして、一イニングで3点入ったらその時点で攻守交代だ。これなら進行も速いだろう?」


ガキのころ、カードゲームの野球をやったことがあるが・・・ああいう感じか。

確かに進行は速いな。さらに3点で交代か。なるほどな。


しかし・・・マイティさん、ウチも打つってことか?


「そもそも、今日は第二としての野球部の練習だ。練習しなくてどうする?」


でも、目立ちたくないんじゃなかったか?中条さんチームも来てるし、結構他の学年の生徒も見にきているが?


「もう、高校野球をやらせようにも試合が無いからな」


あ!!・・・そうだなwww・・・確かに!!


「セイヤ?でよいか? この仮想野球であれば5イニングくらいは投げてもいいぞ?気が乗ればもう少し投げてやるぞ?」


「それは非常にありがたいが・・・球数制限はいいのか?」


「ジョージ!!」「はい、あれは毎日投げるなら、という制限です。また、もう何年もやっているので毎日30球が35球になったくらいでは痛んだりしないということも判っています。彼女は今年の夏はアメリカで勉強してくることが決まっておりまして、その間は投げないつもりと言うことで、肩を休める時間は一杯あります。なので、今日一日くらいであれば、多少の無理は大丈夫です」


相変わらずの意思疎通力だな。ジョージ。お前も練習着か。


「げ、お前かよ・・・まあ、彼氏彼女というより、こうやってみるとお嬢様と執事っぽく見えるけどな。ま、そんなのアニメでしか見たことないけどな」


「誰から聞いた?モル、お前か?」


まあな。別にいいだろ。マイティさんの1/3の打力のジョージでもメッチャ目立っていたからな。


「ウソやん?・・・あ・・・そういえば二年前は全打席オーバーフェンスされたんだったな。打力は健在?」


「今でもバッティングのほうがピッチングよりずっと得意だ!!」

「マジかよ・・・」


マイティさん、連続でポール際に外すのはナシでよろしくお願いいたします。


「クラブマッチ以降では一度もやっておらぬだろう!!時間も無い!!さっさと始めるぞ!!こっちも初球から積極的に打っていくぞ!!」


おぅ!「「「「「おぅ!!」」」」」


           ・・・


横溝です。なるほど、こりゃいいな。


しかも、本当にコントロールもいい。オレの本番の打順は9番だからまだ回ってきてないが、一球勝負で真ん中高目で初球で手を出せ、か。

一球見逃しアウトになっちまったヤツもいるが6番まででシングル三つ。

1回表は0点で終わりだ。5分もかかってねー。


さっさと交代してオレもマウンドへ向かう。

一年だったころに比べれば球速も球威も増してるが、オレが打たれたのは一回だけとは言え、6回連続オーバーフェンスをしやがった打力のやつに、どう粘ればいいんだろうな。


まっ、一番の真っ直ぐを低め狙って投げるだけだ。よっ!


あーーーー・・・1点献上。そうか、走らないからすぐ二番に交代か。

こりゃ速いな。確かに。


で、ブンブン丸君か。コイツも低めにまっすぐしかないよな。おっ!

引っぱって右中間・・・二塁に仮想ランナーね。

守備も動かないでいいから、ケガの心配もない。考えられてんね。


で、マモルかよ・・・まあ、昔ならインローだけど、克服してるだろうな。安定のアウトローのギリ狙いか。外れんな。よっ!!

引っぱりやがった。ライト前。外れなさすぎだったか?


で、またデカいやつだな。県大会でも見た気がするが、規格外三人のあとなら

って、よっ!!

ヨシ、ショート。『ダブル!!』おう、ここで宣言6-4-3か。

なるほど、ウチのみんなもルールを理解してるみたいだな。


1点入ったが、2アウトランナー無しってことか。


次は・・・急に小さくなったな・・・いや、前の4人がデカすぎるだけか。


よっ!!


よし、浅い。普通にセンターがキャッチでスリーアウトだ。


で、オレの打席が次の次か、進行が早いのはいいが、ピッチには速すぎるときもあるなww。忙しいぜ。


ウチの七番は初球をショートフライアウト、八番も当てることはできたがボテボテのファーストゴロ。


で、オレか。キャッチャーの打撃よりオレのほうがマシだから九番なだけだけどな。初球ね・・・


ほっ!!当たったけど・・・下打ったか・・・落ちないかーー。全力じゃないらしいが、伸びてんなーー。深いセカンドフライか。


2回表終了。交代も早いな。この方式。


マイティさんとやら、二巡目以降はギアを上げてくるのか?


「セイヤ、そうでないと練習にならぬであろう?初戦の相手ピッチは強敵、と、モルに聞いたぞ?」


まあ、そうだな。オレも相手の早打ちを利用させてもらうか


           ・・・


二回裏は四人で切れた。まあ、次の回の先頭が彼女というのが確定か。

・・・一点ですむならラッキーとでも思っておくか。一応抑えようとはするけどな。


三回表。いきなりまったく打てなくなった。

そりゃそうだ。今までは真ん中高目って宣言されていたんだから、当てられていたんだよな・・・


右打者のインハイ、左打者のアウトハイに鋭いシュート。速度半分じゃねーかってくらいのカーブかチェンジ。そして真ん中低めに伸びてくる真っ直ぐ。


まったく同じ構成で3人切られた。右打者は尻もちをつくほどのエグいシュートだったらしい。


交代だ。マウンドに向かう途中で一言交わす。


すげぇなアンタ。男子に混じってても全然問題なくエースじゃねーかよ

「そうかもしれぬが、私は目立ちたく無いのだ」


そうかい。でもアンタはすぐ左バッターボックスに入ってその竹バットでスタンドインさせちまうんだろ?ま、口には出さないけどな。


というわけで、無駄だとは思うが定番の、アウトローのきわどいところに全力だ。よっ!!


はいーーー・・・今度はライトね。高々と飛んでったね。また一点か。

アウトローに外れた球をライトに引っぱりやがって、何が目立ちたく無いんだよ。目立つよ!


次、ブンブン丸! 打力1/3なら、アウトローに外れた球までは持ってけなはずだ。ぜっ!!


空振りか。よっ!!

またか。よっ!!

ふん!!

はい、三振!!でも、外内外って全力を投げ分けんの疲れんだよな・・・


で、マモルかよ・・・上位三人は日本の野球常識でいえばクリンナップか。まあ、あいつ五番多かったしな。


           ・・・


こんな感じで、淡々と高速仮想野球は続いた。

彼女は二巡目以降も、下位打順にはシュートを見せた後で、『ランク下の真ん中高目』も投げていた。

つまり、彼女の中では、コイツらは当てられてもいいとこシングルってことだ。おれにもだったよ。ちくしょー。


三巡目の下位からは記念代打とまでは言わないが、代打陣をがんがん出した。守備の不安がないからな。オレのところでも代打にしてもらった。


代打陣はそれなりに打ったが、それは彼女が「ヤツらは一巡目だろう?」ということで打ちやすい球を投げてくれていた、ということだけだった。


七回表が終わり、オレがリリーフ投手と一緒にマウンドに向かっていったところで、彼女は言った。


「セイヤ、ここでバツゲームでよいか?」


予定以上の練習はできたし、もう60以上は投げてるから・・・いくらこの後投げないと言っても・・・制限の倍以上まで投げてくれてありがとう。


「なに、甲子園で役に立てば幸いだ」


おい、マモル、彼女、スゲー美人だが、漢前(オットコまえ)だな!!


「まあなww」


           ・・・


甲子園に臨んだオレたちは、下馬評を引っくり返し、一回戦を突破できた。

難敵ではあったけど、アレと比べたらさ・・・


「なあ、キャプテン、あの子、日本のプロどころかメジャーでも通じたりしねぇっすか?」


まあ、今日はピッチの球が見えたもんな。


「ホント、向こうの学校に行った時、まったく見えなかったっす。あの地獄のシュートはよぉ」


あのな、信じられねーかもしれねーが、あれ、手加減されてたんだよ。

一年のときに、彼女がウチの学校に練習試合に来たんだけど、そんときはもっと地獄だったぜ。


「は?」


フォークとスライダーとシンカーも一級品なんだよ。二年前の状態でな。


「マジすか?」


その上、110kmくらいに見えて110kmの真っ直ぐと左右に曲がる球、そして、110kmに見えるのに何故か130kmくらいで突っ込んでくる真っ直ぐがあんのよ。

駄目押しでこないだも上位には投げてたスローカーブとチェンジなwww


「・・・無敵じゃないっすか・・・あの時何で投げんかったんすか?」


オレらの仮想敵、今日のピッチに合わせてくれたんじゃないの?

アイツ、真っ直ぐとシュートとチェンジしかないし、チェンジは彼女と違ってまる分かりだから狙い打てたしなww


向こうのキャプテンでキャッチはマモルっていうんだけどさ、

ソイツとは、U15で一緒だったんだよ。

オレの評価的には当時の全日本で一番のキャッチなんだけどな。

アイツに言わせりゃ、彼女は素質や才能があって、その上努力もしているヤツラには優しいらしい。


「・・・強力変化球を封印して今日のピッチに合わせてくれたんだ・・・確かに優しいっすね・・・高校野球に女子が出てもよくなったら、あの超絶進学校が優勝もあり・・・ああ、今三年だったんだから、無いっすかね?」


聞いた感じでは、彼女的にはもう公式戦が無いから封印を開封したっぽいね。


「マジっすかぁ・・・」

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