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呪いの邪神像

 

 世の中って分からないね。ガズ兄ちゃんが働いている飲食店はカップルで行くと幸せになれるってことで流行ったよ。しかもたった一週間で。


『どんな時代もカップルは正義なのよ!』

『それは知りませんが、デートコースに使われているみたいですね』

『助けてあげた子達が毎日通ってくれたおかげよねー』

『本当にあのストローで飲むとは……お二人は勇者でしたね』


 私の感性が古いのか、それともずれているのか、人前でイチャイチャすることに禁忌感がある。でも、こっちの世界だとそうでもなさそうな感じだ。まさか店の外から良く見える席であのストローを使うとは。それを見た別のカップルたちが自分たちもやろうとお店に入ったらしい。嘘だと言ってくれ。


 当然それだけでなく、カップルで楽しめやすい状況にはしたけどさ。料理を定食じゃなくておかずを何品か頼む感じに変えてもらった。シェアするスタイルだ。定食だと女性には多すぎるから、彼氏と分け合いながら食べられると評判らしい。これは私のアイディアだったんだけど意外と好評だ。しかも女友達だけでくるというスタイルもあるとか。


 あとはスイーツ系を増やしたのも効いた。これはガズ兄ちゃんが頑張ったみたいだ。料理人と言ってもパティシエ寄りの料理人を目指してたとは驚いた。しかもいつかは孤児院に戻って皆に食わせてやりたいとか。泣かせるじゃないの。


『それじゃ今日も行ってみましょう!』

『あの店に女性一人で行くのはハードルが高いんですよ』

『大丈夫! 私がいるわ!』

『エスカリテ様は見えないでしょ』


 エスカリテ様がいても実質私一人だ。私がお客さんから何しに来たのって思われていいのか。イマジナリー彼氏と来たとか言われたらどうする。かといってガズ兄ちゃんに恋人の振りなんてしてもらったら孤児院の女の子たちが黙ってない。


 お店改善の提案をして、それが当たったから賄料理ならいつ来ても無料で食べさせてもらえるという特典はあるんだけど行きづらい。プライドでお腹は膨れないが、お腹よりも乙女のプライドを守らなきゃいけない時がある……!


 それはともかく、この案は私からじゃなくてエスカリテ様からの提案ということにした。これで店長さんとガズ兄ちゃん、一部の常連客さんはエスカリテ様の信者になってくれた。そのおかげでエスカリテ様への信仰心が増えたのか、最近教会にいる鳩が多い。居候するならどっかから果物とか取ってきてくれないかな。もしくは落ちてる硬貨。


 私が手伝えるのはここまでだろう。後はガズ兄ちゃんたちが頑張って欲しい。私は自分のことで手いっぱいです。当然、助けて欲しいと言われたら手伝うけど、これ以上何かできるとは思えないんだよね。くそう、異世界知識で無双したかった。前世の料理なんて大概あるじゃんよ。辺境の町と孤児院に何もなかっただけだ。


 気を取り直して今日は冒険者ギルドへ行こう。あれから一週間だし、エスカリテ様の像が見つかったかもしれない。それがなくても情報が得られるといいんだけど。


 そんなわけで冒険者ギルドにやってきた。


 依頼した時の受付嬢さんがいるので、そこへと向かう。冒険者ギルドが混むのは依頼の取り合いになる早朝らしいから、今はもう大丈夫みたいだ。並ぶこともなく受付嬢さんのカウンターに近寄る。


「こんにちは」

「あら、マリアちゃん、こんにちは。もしかして依頼の件? いくつか像を預かっているけど見てく?」

「はい、お願いします」


 受付嬢さんの案内で個室に通されてからいくつかの像が並んだ。木製だったり、石製だったり、金属製もある。大きさも手で持てるのもあれば人と同じくらいの大きさの物もあった。全部で十五体もあるけど、結構集まったみたいだ。


『エスカリテ様、この中にあります?』

『んー、ないわねぇ。でも……』

『何か気になる像が?』

『これ、私がぶっ殺した神どもの像じゃない。うわ、縁起わる』

『やったのはエスカリテ様でしょうに』

『そうなんだけど、こいつらって人から見たら邪神だから』

『邪神はエスカリテ様でしょう?』

『他の神から見たらね。でも、こいつらは人を扇動して戦争ばっかりさせてたんだから、人から見たら邪神で間違いない!』

『そういえば全員って言ってましたけど、良い神様っていないんですか?』

『私!』

『そういうボケはいいですから』

『ボケじゃないよ! 良い神もちゃんといたのよ。ただ、大昔、こいつらにね……』

『ああ、そういうことですか』

『そうだ! 破壊しましょ、これ!』

『え? 買い取るんですか?』

『あ、そっか。勝手に壊したら駄目よね。でも、ぶっ壊したい……!』


 意外とバイオレンス。像はただの像なので、あったところで別になんでもないんだろうけど、エスカリテ様はぶっ壊したいみたいだ。でも、相場よりも割り増して買い取るって言っちゃったし、壊すのが目的ならお金を払っても何も残らない。気持ちは分かるけど、経費が出るとはいえ、何も残らないのにお金を払いたくはないなぁ。


「マリアちゃん、どう? エスカリテ様の像はあった?」

「ないみたいです」

「なら、これらは全部お持ち帰りね」

「ちなみにこれらを買うとしたらおいくらになります?」

「え? 買ってくれるの?」

「えっと、エスカリテ様がいうには縁起が悪い像なので破壊したいと」

「やっぱり縁起が悪いんだ?」

「やっぱり?」

「これを手に入れてから地味に不幸な目に合うって言っててね」

「へぇ……でも、地味?」

「大した不幸じゃないのよ。でも、私もこの一週間、足の小指をカウンターの角に何度もぶつけたわ……!」

「本当に地味ですね。痛さは尋常じゃないですけど」

「そうなのよ。でも、どうやっても壊せないみたいでね。処分に困っているみたい」

「処分に困っている、ですか」

「何の像か分からないけど、捨てたら呪われそうでしょ?」


 呪い……こっちの世界は本当にそういう呪いがあるからなぁ。でも、それならこちらで処分しますと言えば無料でくれるかな?


 その前にこの像には本当にそういう力があるのか確認しないと。昔の神様の像だからそういう力が残っていてもおかしくないとは思うから、ここは専門家に相談だ。


『エスカリテ様、この像たちって呪われてたりします?』

『呪われているっていうか信仰されてるわね』

『え? 信仰されてる?』

『神に対する恐怖とかそういう悪い感情がこの像に込められているわね。だから縁起悪いの。あーやだやだ』

『エスカリテ様ならぶっ壊せるんですよね?』

『ガズちゃんのところの飲食店で信仰心を稼いだからこれくらいなら余裕よ! ワンパンでいける!』


 これは交渉が可能と見た。そもそも処分に困っている像なら無料で貰ってもいいはず。むしろ、持っているだけで地味な不幸を受けて困っているなら、お金をもらって破壊してもいいのでは?


「あの、処分に困っているなら破壊しますけど、それにお金って出ますかね?」

「この像を破壊できるの? そういえばエスカリテ様が破壊できるって言った?」

「はい。ワンパンでいけるらしいです」

「それは願ってもない話かも……エスカリテ様が直接やるの?」

「信仰心が貯まったのでやれるみたいです」

「すごいわね! 神様って助言をくれるだけかと思ってたわ」


 はて? 助言だけ? 他の神様ならエスカリテ様以上の信仰心がありそうだから鳩なら千羽くらい出せそうだけど。よく考えたら、神様が直接何かしたって話はあまり聞いたことがない。出し惜しみしてんのか。


 それはまあいいとして、この像を持ってきてくれた一人がギルドにいるらしく、受付嬢さんが話を聞きに行ってくれた。今回は最初なので実験を兼ねて無料でやるけど、これが商売になったらありがたい。むしろギルドを介さずに教会に持ち込んでもらおうかな――いやいや、成人したばかりの女の子じゃ足元を見られるかも。こういうのはちゃんとした場所を通した方が面倒は減らせる気がする。受付嬢さんに相談してみよう。


 その受付嬢さんが冒険者の人を連れてきた。目の前で破壊されるのを見たいとか。どうやら、転売を疑っているっぽい。そんなことはしなけど、巫女とはいえ知らない人の話を鵜呑みにはできないよね。なかなか慎重な冒険者さんと見た。


 冒険者さんが自分の像を指す。金属でできた等身大の女神像……っぽい邪神像。見た目は美人さんなんだけど、言われてみるとなんだか表情が意地悪く見える不思議。


『ルビルラね』

『それがこの神様の名前なんですか?』

『そうそう。こいつ、人に悪夢を見せて喜ぶような奴なのよ』

『神様なのにつまんないことしますね』

『でしょ!? イチャ付くカップルの夢でも見せろっての!』

『それも悪夢です』


 でも悪夢か。あ、もしかして。


 念のため、所有者の冒険者さんに像を持ってから悪夢を見てないか聞いてみると、ビンゴだった。夢見が悪いというか、寝ても疲れが取れない感じらしい。私に言い当てられてちょっと尊敬の目で見られている。私じゃなくてエスカリテ様からの情報なんだけどね。


 信用してくれたのか、もう自宅には持ち帰りたくないから処分してほしいと頼まれた。冒険者なのに自宅持ちか。お金持ちなら次から料金を頂こう。さて、さっそく破壊だ。


『エスカリテ様、お願いしてもいいですか?』

『うん、その像に触ってくれる?』

『こうですか?』

『そうそう。よし、行くわよ、エスカリテパーンチ!』

『もうちょっと捻ってください』


 技名に自分の名前を付けるのはどうかと思う。でも、効果はあった。触っている部分からヒビが入って、それが像全体に広がると粉々に砕けた。それと同時に受付嬢さんと冒険者さんが感嘆の声を出した。私もちょっと驚いている。


『どんなもんよ!』

『これならお金を取れますよ。リサイクル業者になれます』

『なにそれ? でも、いいわね! むかつく像を壊せてお金を稼げるなんて最高! あ……』

『どうしました?』

『瓦礫の中に宝石があるでしょ?』

『宝石……? ああ、この黒いのですか?』

『そうそう。浄化しないと』

『浄化?』

『神の血が使われているから残った信仰で悪さしているのね。ちょっと手に取って』

『これでいいですか? ……なんか、手が痛いんですけど』

『うん、浸食されてるから』

『エスカリテ様!?』

『大丈夫大丈夫。行くわよ、エスカリテキーック!』


 もう何も言うまい。浄化なのに蹴ってどうするといいたいが、手から痛みが引いたので良しとする。さらには黒い宝石が青い色に染まる。いや、逆か。黒に染まっていたのが戻った感じだ。良く知らないけど、サファイアとかそんな宝石かも。


『もう大丈夫よー』

『やる前に言ってくださいよ』

『うん、ごめんね。これからはちゃんと言うから』

『そうしてください』

『でもこれで臨時収入ができたわね!』

『臨時収入?』

『その宝石。高く売れるんじゃないの?』

『これは冒険者さんのものですよ?』

『え?』『え?』


 像を破壊する許可は貰ったけど、像を貰ったわけじゃないから、中の物や金属の瓦礫は冒険者さんのものだ。どさくさに紛れてもらっちゃってもいいけど、普通に頑張っている人から奪ってはいけない。それは孤児院でも徹底させている教えだ。ちなみに悪者には容赦しない。


 エスカリテ様は「えー」と言っているけど、それを無視して宝石を浄化済みですと言って冒険者さんに渡す。あと、金属の瓦礫も持ち帰るように伝えたら、滅茶苦茶感謝された。受付嬢さんも「え? いいの?」と驚いているけど、そんなに私の行動っておかしいだろうか。普通だと思うんだけどな。


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