神の力を見せよう
『あー、やっぱりこの教会は落ち着くわね!』
『エスカリテ様もそう思いますか。実は私もです』
『そうよねー、でも、留守にしてたわりには綺麗ね?』
『ガズ兄ちゃんに掃除を頼んでおきましたので。聞いてましたよね?』
『カップルを見てたから聞いてなかったかも』
『それは盲点でした』
行きと帰り、聖都の滞在も含めて一ヶ月近く空けてたけどガズ兄ちゃんはちゃんと掃除をしててくれたみたいだ。飲食店のお仕事も大変なのにありがたい。ここはしっかりお土産と異世界知識でお礼しておかないと。
さて、今日はさすがに疲れたし、お土産を渡しに行くのは明日にしよう。今日はしっかりお風呂に入って旅の疲れを取らないとね。司祭様もリュートちゃん達も色々と報告があるらしいから今はいないし、今日は一人で羽根を伸ばす感じでいいや。食事だけはちょっと奮発しよう。今日は肉だけ食べる肉祭りを開催しちゃうか……! 太る? それが怖くて肉や甘い物が食えるかって話よ。というか、私はもう少し太らないと。つまりこれは必須!
……なんていうか、ダイエットを休む言い訳をしている気がしてきた。
『それじゃ中央広場にカップルを見に行きましょう!』
『いや、行きませんよ。何言ってんですか』
『えー、行こうよー。カップルを見ないと得られない栄養があるんだってば』
『私はカップルを見ると栄養を取られるんです』
他人のイチャイチャを見て脱力するのは何かしらの栄養を取られている気がする。あれならダイエットも出来そう。怒りで。
しっかし、理想の彼氏への道のりは遠いよ。エイリスさんとベルトさんを助けるほどの信仰心を稼がないといけないわけだし、二人が結ばれてからじゃないとエスカリテ様も彼氏を見つけてくれないよね。速攻で信仰心を稼がねば。しかも私を隠した状態で。まあ、教皇様にお願いしたし、私がなにかしても色々と伏せてくれるだろう。司祭様とかいまだに聖女にならないかと勧めてくるからね。
とりあえず今後もエスカリテ様のアピールをしていこう。いろんなことにエスカリテ様が関わっているってことにして、知名度を上げることが重要。やはり食べ物と娯楽がメインだね。呪いを撥ね退ける石像とかも他国からかなりの注文があるとは聞いたから、それに合わせて全国展開も視野にいれていく。
辺境に行った後は魔国へも行くし、魔族さん相手にもなにかアピールするべきか。とはいっても、魔族さんのことは良く知らないんだよね。この辺りは冒険者ギルドで聞いてみようかな。情報収集と言えば酒場だけども、冒険者といえばギルドだよ。ルルさんやソナルクさんにもお土産を渡すわけだし、明日にでも行ってみよう。
「おーい、マリア、帰ってきたのか?」
「にゃーん」
ガズ兄ちゃんだ。それに預けていたギザリア様も一緒みたいだ。ちょうどいい、お土産を渡そう。なんてったってこっちには秘密兵器がある。
「ガズ兄ちゃん、ただいま」
「ああ、おかえり。頼まれた通り、掃除はしておいたし、畑も手入れをしておいた。ギザリア……様もちゃんと預かってたぞ」
「うん、ありがとう。なのでガズ兄ちゃんには最初にお土産を提供します」
「お土産? ああ、悪いな」
くっくっく、ここで秘密兵器……というか秘密でも兵器でもないけど、こういうのを披露するときはちょっと高揚しちゃうね。さあ、神の力を見るがいい……!
『エスカリテ様、お饅頭をお願いします』
『……いいんだけどさー、神様を荷物袋代わりに使うってちょっとどうかと思う。いや、いいんだけどさー』
『ならいいじゃないですか。しばらくは中央広場に散策へ行きますから』
『何でも言って! お饅頭ね!』
そういうチョロいところがエスカリテ様の素敵なところだ。そしてチョロいだけじゃなくてちゃんと神様。最近も信仰心が増えたおかげで天界とこっちの世界のやり取りが楽になったとか。なので色々な物を預けられるようになった。しかも全然劣化しない状態で取り出せる。まさに神、まさにチート。お饅頭も出来たてホカホカだ。
そんなわけで手のひらの上に猫のマークがついたお饅頭が出現。ガズ兄ちゃんがめちゃくちゃ驚いている。ちょっと気分がいいね。エスカリテ様の力だけどな!
「なんだ? 魔法か?」
「まさか。庶民の私に魔力なんてないよ。エスカリテ様が預かってくれてたの」
「マリア、お前な、神様をそういう風に使うなよ」
「こういうのは持ちつ持たれつなの」
せっかく神様と巫女の関係なんだから、お互いに遠慮する関係なんてつまんないじゃんね。もちろん敬意は払うけど、家族みたいにお互いに助け合うのはいい事だと思う。主に私が助けられてるけど。
それはいいとして、お饅頭をガズ兄ちゃんに渡す。
「明日、お店の方にお土産として持っていくけど、まずはガズ兄ちゃんには掃除とギザリア様を預かってくれたお礼として渡しておくね」
「そうか。ならありがたく貰うよ……で、これなんだ?」
「お饅頭」
「お饅頭……東にある国で食べられる菓子だとか聞いたことはあるが、それか?」
「そうなの?」
東にある国ねぇ。だいたいの転生者は東の方へ行くんだろうなぁ。サムライとかニンジャとかいそう。いつか私も行ってみたい。というか、今度、魔国にも行くんだし、世界地図を確認しておこう。
「何でマリアが知らないんだよ」
「それって聖都でレシピを元に私が作ったものだから」
「……またお前か」
「またって何さ。だからレシピを見て作ったんだって」
今回はレシピ通りに作ったんだから私の手柄じゃない。猫のマークは私だけど、描いたのはラーザさんだしね。なぜか教皇様に犬派か猫派か聞かれたけど、どっちも好きだと言ったら、ちょっと目が悲しそうだったのが印象的だったなぁ。大体の動物は好きなんです。掛け持ち不可は要らない戦いを引き起こすんですよ、教皇様。
『なあ、マリア、これ、俺じゃね?』
『あ、ギザリア様、ただいま戻りました』
『おう、おかえり。エスカリテもお疲れさん』
『ただいまー。ウチの鳩たちがギザリアに勝ったって言ってるけど、あれ何?』
『お前んところの鳩、強すぎんだろ……いや、それは後な。ここに描かれている猫、俺だよな?』
『そうですね、ギザリア様を参考にして描いてもらったんですよ』
『へー、上手いもんだ。神だったら祝福してやんぜ』
『その絵を描いた子ってミナイルの天使の巫女よ』
『うげ……いや、本人じゃねぇのか。ミナイルの天使って大変だったな。神じゃねぇけど天使も巫女も祝福してやる』
エスカリテ様にもギザリア様も同じ反応をしたミナイル様ってなんなん? それはいいとして、ラーザさんにデフォルメという概念を伝えるために私が参考で描いたんだけど、それがギザリア様なんだよね。なので、かなり単純化されているけど、特徴はギザリア様だ。この目つきと髭がポイント。リュートちゃんは最初見たときは気付かなかったけど、ギザリア様がモデルとおしえたら、なんか「ギザリア様……」って寂しそうにつぶやきながら食べてたよ。
「なあ、マリア」
「どうかした? ちゃんと美味しいから食べてみてよ」
「いや、この猫の顔はどうやって付けた? ちょっと焦がしているのか……?」
「デザインしてくれた絵を焼印にしてもらったんだよね。実は貰って来た」
その言葉だけでエスカリテ様が分かってくれたのか、焼印を取り出してくれた。
「これなんだけどね、これで色々な物に印がつけられるよ」
とはいってもこれはお饅頭用だけど。パンでも行けるかな。まあ、遊び心って奴よ……なんかガズ兄ちゃんがお饅頭よりもこっちの焼印に目を奪われてない? これは食べられないぞ。
「面白いな。料理を綺麗に盛り付けるというのはあるが、絵を入れるのか」
「ああ、そうそう。それで思いついたことがあるから、明日、お店へ説明に行くよ」
「思いついた? 何を?」
「料理の遊び心。オムライスにケチャップで字を書くとか、お弁当で絵を描くとか」
「いや、いま教えてくれ。前に教えてくれたオムライスだな。卵と米、それに鶏肉とケチャップ、ああ、あとバターもか。すぐに買ってくる」
「ええ……」
いかん。料理人の心に火をつけてしまったみたいだ。というか、お饅頭食べていきなよ……ああ、もう行っちゃった。
『マリアの兄貴は努力家だな。自宅でもずっと料理の研究をしてたぞ』
『そうなんですか?』
『知らねぇのかよ。まあ、努力を見せるような奴じゃねぇか』
努力家なのは知ってるけど、ずっと料理の研究をしてたってのは初めて聞いた。あー、でも、孤児院にいた頃も、夜な夜な隠れて剣術の稽古をしてたっけ。ギザリア様の前なら大丈夫だと思って普通にしちゃったんだろうね。
仕方ない。今日の夕飯は肉祭りにしようとしたけど、こうなったらオムライス祭りだな!




