教皇様と今後のことを話そう
「――というわけで、昨日マリアさんをさらおうとした者たちは降格させました」
「降格ですか」
「今は神殿騎士見習いとなり、しごかれているようです」
「大変なしごきなんでしょうねぇ」
「はい、それはもう。これは余計なことを考えさせないというのもありますが、周囲への牽制も兼ねています」
「牽制ですか」
「教団の在り方はそれぞれ考えがあるでしょう。ですが、重要なのは人々のために存在するということです。派閥だけでなく、これは私や巫女たちも忘れがちなので気を付けなくてはいけません。そういう戒めも含めての処罰なのです」
「なるほど……」
教皇様に呼ばれて部屋まできたところ、昨日の人達の処分について説明された。
あの人たちは神殿騎士という立場だったけど、神殿騎士見習いという形になってバリトンボイスのリーダーさん、名前はカザトさんと言うらしいけど、そのカザトさんに滅茶苦茶しごかれているらしい。
問題を起こしておいて教団から追放しないのかとか、処罰が甘いとかいう話も出ているみたいだけど、むしろそういう人たちを野放しにしている方が危ないということで説得したとか。私が命を奪わないでとお願いしたことが影響しているみたいだけど、教皇様の考えに賛同してくれる人もいるようで、今のところは大きく批判されているわけじゃないみたい。
とはいえ、二度目はないらしい。次に何か問題を起こしたら、なんかやばいことになるとか。何をするのかは聞いてないし、本人達にも言ってないというのが怖い。どんな罰になるのか、それを想像させるってのは結構厳しい物がある。思いつく想像の十倍は酷いことになるとだけは言ったみたいだけど、明確な罰を教えてもらった方がまだマシな気がするね。分からないことが行動の抑止になるんだろうけどさ。
「マリアさん」
「はい」
「私は教皇として教団の管理に注力しようと思っています」
「はい」
「こうなってしまったのも私がエイリス様のことを優先し、教団そのものを見ていなかったからです」
「そんなことはないと思いますが――」
「そうなのですよ。ですので、私はしばらく教皇として神殿に残り、教団をしっかり見ようと思っています」
「そうお決めになったのですね?」
「ええ。教団を引き締め、人々を守る、それが教皇の務めだと思いますので。そのためにはまず私がしっかりしないといけませんからね」
なんだか固い決意をした表情をされているね。そう決めたのなら私がどうこういうことはないんだけど、教皇様の負担を少しでも減らせるように私も頑張らないと。エイリスさんを助けるために信仰心を今の五倍にして、それにエスカリテ様の補佐に使う神器と魔道具を探す。やることはいっぱいだ。
「私はしばらく聖国を離れませんが、なにかあれば司祭フレイを通して連絡をしてください。連絡があればすぐに対応しますので」
「はい、ありがとうございます」
「そして今後は私の方から極力マリアさんに接触しないようにしようと思います」
「というと?」
「今回のことでマリアさんが教皇から特別扱いされている、という噂が流れています。噂ではなく事実ではありますが」
大司教様の行動もそうだけど、大元は教皇様が予定を変更してまでアデルラルド王国まで来たこと、そして私を聖国までつれてきたことだからね。接触しないようにするってのは、周囲に変な探りを入れて欲しくないってことだろう。エイリスさんのこととかがバレたら、色々ありそうだしね。実際にどうなるかは分からないけど、面倒なことにはなりそうな気はする。
ただ、この噂が面白い――と言ったらちょっとあれだけど、私がルガ王国で色々やったからどんな人物なのか分からないってことになっているらしい。呪いを浄化した聖女だったり、宝物庫からお金を勝手に持ってく悪女だったり、それにカレーを作った料理人だったり、色々な私がいるみたいだ。そしてエスカリテ様は料理の神様ではないかとかも言われているらしい。それに大司教様の娘という噂とか情報があり過ぎて実態がつかめないとか。やれやれ、ミステリアスな少女になっちまったぜ。
「今後も教団関係者が接触することはあると思いますが、司祭フレイや優秀な護衛達がいるので大丈夫でしょう。それにエスカリテ様もいらっしゃいますからね」
「はい、頼もしい人たちばかりで私にはもったいないほどですが」
『教皇ちゃんに任せてって言っておいて!』
「エスカリテ様も任せて欲しいと言ってます」
「ありがたいことです」
教皇様はそう言って微笑んだ。なんだかこっちまで嬉しくなるお顔だ。あれ、でも、すぐに真面目な顔になった?
「さて、これからのことですが、一度魔国へ行かれるとか」
「はい。魔王ベルトさんの方がどうなっているのかも一度見ておく必要があるとエスカリテ様がおっしゃっていますので」
「確かにその通りですね。そのあたりの手配はしておきましょう。ただ、ほとぼりが冷めるまで期間を空けたいと思います」
「そうですね、なのでアデルラルドへ戻ったら一度辺境の孤児院へ顔を出そうと思っています」
これは前から予定していたことだからね。それに先生に頼んで神器や魔道具の回収もお願いしないと。先生がいるならダンジョンとかにもついて行っちゃおうかな。
「その方がいいでしょうね。魔国への出発は二ヶ月後辺りを考えてください」
「はい、よろしくお願いします」
ほとぼりが冷めるのに二ヶ月が長いか短いかは分からないけど、しばらくしたらアデルラルドに戻るから聖国の方も落ち着くだろう。それじゃ後はお土産の心配だけをすれば――おっと、こっちはどうなったんだろう?
「ところで、大司教様の方はどうなりました?」
「今日の朝、担当地域へ出発しました。マリアさんには申し訳ないと伝えておいて欲しいと言われましたが」
「そうでしたか。なぜか大司教様の娘ではないかって噂も出ていたので、こっちが申し訳ないと思ってましたけど」
「気にすることはありません。今のところ問題はありませんが、大司教には注意してください。勘でしかないのですが、どうも嫌な感じがしますので」
「そうですね、気を付けます」
なんというか私のダメ男センサーが反応している。思い過ごしであって欲しいけど、なんとなく危険な香りがするからね。会わなければ平気だとは思うからできるだけ接触は避けよう。
「他になにか聞きたいことはありますか?」
「いえ、今のところはとくに――あ」
真面目な話じゃないけどもういいよね。真面目じゃなくとも大事なことだし。
「教皇様、話は変わりますが聖都ではどんなものがお土産として買われてますか?」
「お土産ですか?」
「はい、アデルラルドの皆に何か買っていこうと思っているので、参考にしようかと。できれば保存のきく食べ物とかがいいのですが。ご当地グルメ的な」
「ご当地グルメですか……」
普通に聞いちゃったけど、教皇様に聞くようなことじゃない気がしてきた。くそう、なぜ聞く前に気付かない。自分の頭が恨めしい。
「それを聞いて思い出したのですが、コト様が残した食べ物のレシピがあります」
「え? コト様が残したレシピ?」
「カップル饅頭という名前でして、半分づつに分けて食べると幸せになれるとか」
『思い出したー!』
「うわ! いきなり大声を出さないでくださいよ、っと、すみません、教皇様」
「エスカリテ様が驚いたのですか。もしかしたらご存じなのかもしれませんね」
『ご存じ! ご存じだよ! コトちゃんと一緒にさー、カップルが一緒に食べたら幸せになる食べ物を考えようって言ってたんだよねー』
『そういうことですか』
『でも、できる前にあんなことがあったからね。そっかぁ、コトちゃん、私との約束を覚えていて、ちゃんと考えてくれてたんだ……』
なにやらいい思い出のようだね。でも、カップル饅頭って。なんか前世でそういうのがあったような気がするけど。でも、お饅頭か。カップルじゃなくても大好きだ。やはり茶色の饅頭が最高。あれは黒糖で作るんだっけ? あー、かりんとうの饅頭も捨てがたい。あのカリッとした食感がたまんねぇんだ……思い出したら食べたくなってきた。いや、むしろ食べるしかない。
でも、屋台で饅頭を売っているお店はなかった。そういう時の私の記憶力は抜群だから間違いない。もしかして非公開のレシピってことなのかな?
「エスカリテ様がコト様と一緒に作ろうと約束してた食べ物らしいんですけど、売られていませんよね?」
「まあ、エスカリテ様との約束ですか、それははじめて聞きました。売られていないのは私を含めて先祖が再現できなかったからですね。見た目は間違いないのですが、美味しくなくて」
「そのレシピを見せてもらっても大丈夫ですか?」
「もちろんお見せします。ちょっと待っててくださいね。できればマリアさんが作ってみてください。どうも私達の一族は料理が下手のようでして」
『……うん、それも思い出した。コトちゃんが作る料理は、なんというか……独特な風味な味だったよ。レシピ通り作ってるのになんであんな味になるんだろう……?』
不味いと言わないところに優しさを感じる。まあ、誰にでも得手不得手はあるからなぁ。たぶん、いろんなことに優秀な人はとある一点においては致命的なんだろう。世の中はバランスよくできてるね……私に男運がないのも何かのバランスをとってんのかな? ないにもないぞ?
まあいいや。詳しい饅頭の作り方なんて詳しくは知らないけど、そのレシピを見れば分かるかもしれない。よーし、私でも作れるようならここで作っちゃおう。私の胃袋はとまんねぇぜ! でも、料理が下手な人のレシピって大丈夫なのかな?




