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冒険者ギルドへ行こう

 

 大聖堂に行ってよかった。一番良かったのは食べ残したお茶菓子と「お土産に」と追加のお菓子まで司祭様がくれたことだ。女性扱いしてくれたこともポイント高い。司祭様に素敵な縁があるようにエスカリテ様に祈ろう。


『マリアちゃんが司祭さんの素敵な縁になればいいのに』

『司祭様がいい人過ぎて、私なんかとてもとても』


 できればか弱い少女というイメージのままでいて欲しい。少ない食べ物を強奪する子供時代とか、孤児院周辺でぶいぶい言わせていた過去とか絶対知られたくない。腹ペコ少女のイメージは孤児院育ちだしセーフだ。それに栄養が足りないから結構ガリガリだし。女性にしては筋肉をつけすぎた気がする。みっちゃんみたいにゆるふわ系ならアピールしたかもしれんが。


『マリアちゃんもいい子だと思うんだけどなぁ』

『私は普段猫被ってますんで。それはもう何匹も』


 猫の下には猛獣がいるって言われてた。言った奴に猛獣の力を見せてやったけど。でもね、言い訳じゃないけどそれくらいしないと孤児院でやってけないのよ。特に女の子は。みっちゃんレベルになると男を手玉にとれる話術と色気があるけど、私にそんなものはない。言葉で言って駄目なら拳か蹴りで分からせる。


 孤児院での生活は前世を思い出す前のことなんだけど、前世でストレス発散のために格闘技をかじっていたのが無意識に影響していたのかもしれない。先生もそんな私の素質を見抜いたのか、子供のころから孤児院の男の子と一緒に格闘技を教えてくれたからな。今では感謝だ。


 さて、そんな思い出はいいとして、今度は冒険者ギルドへ行こう。


 司祭様の話だと最古の文献にもエスカリテ様の姿は描かれていないらしい。そもそも、カプチュウの女神、くらいしか書かれていなくて、何をした神なのかも分からない。私の話を懸命に聞いてくれたのもそれが影響しているんだろう。つまり、私の言葉が今後のエスカリテ様のイメージを作る。慎重に伝えて他の神様達に邪神と呼ばれていた過去は消し去ろう。


 なので、エスカリテ様の絵か像を探すしかない。エスカリテ様が顕現することができればいいんだけど、それにはかなりの信仰心が必要らしく、今はできないらしいから仕方ないね。


 そんなわけで遺跡探索をしている冒険者に頑張ってもらうわけだ。そういう依頼を冒険者ギルドに出せるらしいし、もしかしたらすでに像を手に入れて大事にもっているとか、売ったとかいう情報が得られるかもしれない。エスカリテ様の神殿が見つかる可能性もある。


 それに神様関係のことなので、教団が補助金とは別に必要経費を出してくれるらしい。さすがに限度はあるが、かかった費用を後で申請すればいいと司祭様がおっしゃってくださった。他国から巫女さんが来てたり、教皇様が王都へ来る予定だとかで忙しいのに、いつでも来てくださいと言ってくれるのは本当にありがたい。いい女性がいたら紹介してあげよう。この世界の司祭様も結婚できたはずだし。それとも、もういるのかも。まあ、それは後だ。


 冒険者ギルド、異世界転生って言ったらこれだろという定番中の定番組織。元々は魔物退治専門の組織だったらしいけど、色々あって所属する人は冒険者と呼ばれる何でも屋になったらしい。冒険者ギルドは国に所属しているようで、他国の冒険者ギルドは同じ名前でも全くの別組織なのだとか。友好国のギルドは相互関係があるらしいけど、敵対国はギルドも敵対しているとかなんとか。


『ちょっとドキドキしますね。女の子が来る場所じゃないとか言って絡まれるかも』

『なんで嬉しそうに言うの?』

『前世にそういう物語がたくさんありましたので』

『たくさんあったんだ? マリアちゃんの前世の世界っておかしくない?』


 言われてみるとおかしい気もするけど、おかしくないはずだ。たぶん。


 そんなわけでドキドキしながら建物に足を踏み入れた。


 おお、これだよ、これ。冒険者とは言いつつも荒くれ者が昼間っから酒を飲み談笑している感じの雰囲気。こっちをじろじろと見る視線を気にせず、受付の人がいるカウンターに近づく。おっと、ここもだ。受付嬢さんと言ったら美人さんに決まってる。テンション上がるわー。


『マリアちゃん、テンション高くない?』

『気のせいです。あと、受付嬢さんと話すのでちょっと黙っててくださいね』

『私の扱いは間違いなく軽いよね?』


 ちょっといじけてるエスカリテ様を放っておいて受付嬢さんを見ながら微笑んだ。


「依頼をしたいのですが」

「いらっしゃいませ……えっと、誰かのお使いかしら? 成人してる?」

「つい先日ですが成人しました。お使いではなく、私自身が依頼を出したいです」


 成人したと言っても数日前だし、身体もガリガリで童顔だから疑われている。栄養が足りないのが悪いんです。でも、間違いなく成人したんだから堂々と頼もう。受付嬢さんはちょっと微妙な顔をしたが、司祭様が発行してくれた身分証みたいなカードを取り出して見せると、驚きの顔に変わった。


「巫女様だったんですね。失礼しました。個室で依頼を聞かせていただきます」

「ありがとうございます。よろしくおねがいします」


 小声で言うところができる受付嬢さんって感じだ。こういう場合は大きな声で言ってしまって周囲に知れ渡るまでテンプレ。それをしっかり回避するとは。まあ、別にばれてもいいんだけど。


 案内された個室で質問をしたりされたりしながらなんとか依頼を出した。依頼だけ聞けば変な内容だけど、事細かに事情を話したら理解してくれたようだ。忘れ去られた神様がいるなんて信じがたいことだよね。巫女の身分証を見せているから信じてもらえたけど。


「では、最終確認です。古そうな像を相場よりも高値で買うという依頼ですね」

「はい。ただ、すでに知れ渡っている神様の像は対象外です」

「もちろんです。他にも本の挿絵、絵画、硬貨に描かれたような絵も対象と」

「はい。条件は同じで知れ渡っている神様の絵は対象外で」

「そちらも承知しました。あと二千年以上前の神殿の情報ですが、そういう情報はギルドが扱っていますので、何かありましたら無料でお伝えします」

「ありがとうございます。では、依頼としては先ほどの件だけで」

「分かりました。では、この内容で依頼を出しておきますね」


 最終的にはエスカリテ様が判断するので、それっぽい像をギルドが一時的に預かって、後で確認する形になった。こういうのは一時的に預かってもらうだけでもお金を出した方がいいかな。経費は教団が払ってくれるし、惜しまずに払っていこう。


 依頼も終わったし、受付嬢さんから新たなお茶菓子を貰ってウハウハだ。アップルパイをくれるなんてすごいな。戻ったら大事に食べよう。


 でも、今日はこれから何をしようかな。教会をもう少し掃除しようか。


『ねぇねぇ、マリアちゃん、もしかして暇になった?』

『今日やろうと思っていた予定は終わりましたね』

『なら中央広場でカップルウォッチングしましょう!』

『お金をもらってもやりたくないですね。値段によってはやりますけど』


 前もそうだったけど、ほぼ拷問だ。独り者にアレはつらい。そういや、あのカップルさん達が教会の方へ来てお礼を言ってくれたな。カフェの店長さんが冒険者ギルド、つまりここに話を通してくれたおかげで絡んでいた奴らは王都から追放になったとか。


 あれくらいのことで追放って思うところはあったが、そういうわけにはいかないらしい。ギルドに所属しているってことはそのギルドの社員みたいなものだ。危ない奴らがいる組織と思われたらまずいので率先的に対処してくれるとか。この国の冒険者ギルドにはもう就けないだろうから、普通の仕事をするか、別の国に行くかだろうけど、おそらく国を出たと思う。まあ、どうでもいいけどね。


『ねぇねぇ、行こうよー』


 おっと。エスカリテ様のことを忘れてた。でも、どうしたものか。


『分かった、鳩を五羽出すわ。これ、すっごいサービスだから!』

『そのサービスが教会の屋根に住み着いてくるっぽーってうるさいんですけどね』

『カラスを追い払ったから大目に見てあげて……』

『それは助かりましたけど、畑のジャガイモに手をだしたらどんなことになるか分からないので気を付けるように言ってください。せめてもの慈悲としてツクネかネギマか選ばせてあげますけど。あ、食べてもエスカリテ様がまた鳩を召喚すれば焼き鳥の永久機関……?』

『こわ! 慈悲じゃない上に女の子の発想じゃない! というか、人かどうか疑われるレベルだよ!』


 神様に人かどうか疑われた。でも、生きるためにはなんでも食べなきゃいけないんです。実際に鳩を食べたことはないけど魔物の肉はよく食べてた。あれはむしろごちそう……そうだ、魔物の肉で思い出した。孤児院にいたガズ兄ちゃんが先生と一緒に魔物を狩ってきてくれたんだよ。私よりも二歳年上で、今は王都の飲食店で働いているって手紙が来てた。王都に来たらすぐに会いに行くつもりだったのに巫女になったからすっかり忘れてたよ。


『中央広場に行くのは止めましょう』

『そんな殺生な! 分かった、六羽! 頑張って六羽にするから!』

『呼ばなくていいです。これから同じ孤児院出身の兄に会いに行きます』

『お兄さんがいるんだ?』

『血のつながりはないですよ。孤児院の子は皆、兄弟姉妹なだけです』

『へぇ、そういうのいいわね。で、これから会いに行くの?』

『はい。飲食店で働いているので、そこにカップルがいるかもしれませんよ。ちょうどお昼時だし』

『すぐに行きましょう! 飲み口が二つあるストローで一緒にジュースを飲んでいるカップルがいるかも!』

『それ見たいですか?』


 前世でそういうのが流行ったらしいけど、あんなの勇者しかやれない。やってるカップルがいたら殴ってからストローを渡すから家でやれと言いたい。


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