聖国へ向かおう
馬車に乗ってゆっくり旅するのも乙なもんだ。ルガ王国へ行った時は色々あって旅行って感じじゃなかったけど、今回はほぼ旅行と言ってもいいからね。勇者エイリスさんのことがあるからお気楽な旅行ではないけど、ちょっとくらいは楽しんでもいいと思う。今度こそご当地グルメを堪能しよう
聖国はアデルラルド王国よりも西にある国。途中二つくらい国をまたぐけど、教団の馬車は関所もほとんど止まることなく移動できるとか。教団の権力ってすごい。これもこれまでの巫女様たちのおかげなんだろう。神――天使によってはそこまで力を発揮できないけど、知識を与えてくれるだけでも結構な利益だからね。
どっちかというと武力的な恩恵のある天使の方が価値が高いって言われているけど、それは仕方ないのかも。うちの辺境だけでなく、どこもかしこも魔物の被害が大きい。さらに国同士の戦いでも使えるとなれば巫女さん、そして教団の権力も高いってもんよ。
「マリアさん、退屈ではありませんか?」
「いえ、知らない場所へ行くというのはそれだけでワクワクしますから」
私の言葉に教皇様が微笑んだ。
見た目は私よりもちょっと上くらいなんだけど、かなりのお歳らしい。なんとひ孫さんまでいるとか。今後の教皇を引き継ぐためにもかなりの教育を施しているみたいだけど、そういう人生をどう思っているんだろう。私としてはそこまでする理由が良く分からない。いつか現れるエスカリテ様の巫女、つまり私を見つけるためにずっとやってきたことらしいけど、ちょっと考えちゃうね。
初代教皇のコト様の執念を感じちゃうよ。二千年近くこんなことをやってきたわけだしね。これがカプ厨のなせる業か……! それは冗談だけど、よほど子供達にしっかりとした教育をしてきたんだろうね。普通、二千年も続かないよ。途中誰かが面倒くさいとか言って途切れちゃうこともあっただろうに。魔力で姿を維持しているのも忘れないようにって面があるのかな。エスカリテ様曰く、教皇様はコト様にかなり似ているらしいし。
「ふふ、マリアさん、どうしました?」
「ああ、いえ。どう見てもほんの少し年上のお姉さんという感じですので」
「ああ、この姿ね。前にも言ったと思うけど、コト様の子孫だとエスカリテ様が信じてくれるようにこの姿を魔力で維持しているの。私の母や祖母もだいたい似たような姿だったわ」
ちょっとどころか結構引いてます。いや、まあ、そうなんだろうけど、そこまでするってのがね。ご先祖様の悲願という理由だとしても自分の姿を維持してまでやることなのかな。それとも私のご先祖様に対する感謝が薄いのかな。私って物心ついたときには両親いなかったし、自分のルーツが分からないからなぁ。前世の両親は……結構ゆるーい感じだったな。まあ、悪い事なんて思いつかないって感じの善人ではあったけど。
「不思議かしら?」
「え? ああ、そうですね、よく二千年も続けられたなと」
「私達はね、子供の頃にコト様の話を聞かされて、そして勇者エイリス様のお姿を見せられるの」
「なるほど、ご先祖様の昔話ではなく、証拠付きの昔話ってことですか」
「ええ、そう。ご先祖様であるコト様、その姉であるエイリス様を見るとね、なんとしても助けてあげたいと思ってしまうのよ」
単なる言葉だけでなく、生きた証拠付きの言葉ってわけだ。なら面倒くさいとか思うこともないか。それでも二千年待ち続けたってのがすごいよ。できれば、私がエイリス様と魔王の人を助けてあげたいね。こんなことは二千年で十分。
はて? 教皇様が私の手を取った?
「ありがとう、マリアさん」
「えっと? 何のお礼でしょう?」
「貴方がエスカリテ様の巫女になってくれたことのお礼よ」
「いえ、それは私が何かしたわけでは――」
「巫女はね、神様と魂の波長が似ている子が選ばれやすいの」
「魂の波長……」
「ただ、それだけではなくて、神が気に入るような思想、行動をする子が選ばれる。コト様以降、エスカリテ様の巫女に選ばれた子がいなかった。それはエスカリテ様が眠ってしまわれたことや、波長も関係しているとは思うけど、私はマリアさんの家族を思いやる行動こそがエスカリテ様の巫女に選ばれた理由だと思ってるわ」
「え? いえ、家族を思いやるなんて誰でもしてますよね?」
「気持ちはね。でも、状況によっては家族よりも自分を優先する人も多い。マリアさん、貴方にはそれが全くないわ。たとえどんな状況であろうとも貴方は自分よりも家族を優先する。それはね、巫女に選ばれなかったとしても誇っていいことよ」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです」
おう。めちゃめちゃ褒められてる気がする。照れちゃうぜ。この辺りのことはエスカリテ様に聞かれなくてよかったのかな? それとも聞いて貰った方が良かった?
今、エスカリテ様は天界で色々と準備をしているみたいで私の声が届かないんだよね。聖剣とか魔剣のことを調べているとかなんとか。もともとは天界にあったものを貸し出しているとからしいから、資料があるかもって言ってたっけ。
そっちはお任せだけど、家族を思いやる気持ちがエスカリテ様の巫女になった理由か。ということはエスカリテ様も家族思いなのかな……神様に家族っているのか知らないけど。
エスカリテ様のことはともかく、コト様のこととかエイリス様のことを知っておきたい気がする。エスカリテ様に聞く方が早いんだけど、今はいないし、どんなふうに伝わっているか聞いておきたいかも。
「あの、教皇様」
「何かしら?」
「エイリス様とコト様のことなんですけど、なんて伝わっているんですか?」
「エスカリテ様の方が詳しいだろうけど、私の口から聞きたいってことね?」
「はい。とくにコト様がどんな人だったのかなって興味が湧きました」
二千年前にエスカリテ様の巫女に選ばれた女性。エスカリテ様と同じカプ厨の同志であり、自分の姉である勇者と魔王のカプを推している人。そして天使たちを騙し、エスカリテ様が邪神扱いされないようにしつつ、自分の子孫に願いを託して教団を興した人物……それだけでお腹いっぱいだけど、もっと普通のことも聞いてみたい。
「そうですね、コト様も家族思いの方だったと伝わっています」
「お姉さんのために色々やった人でもありますからね」
「二千年前は魔物との戦いのほかに魔族との戦いもありましたから、ご両親はすでに亡くなっていて、姉妹二人だけの家族だったそうです」
二千年前はそんな感じだったって孤児院の近所に住んでるおじいちゃんから教わったな。今は種族間の戦いなんてなくて、各々の領地に住んでいる感じだ。たまに各種族の商人が行き来しているくらいで大規模な交流はあまりないとか聞いたことがある。冒険者になって世界中を旅している人も多いって聞いたことはあるけど。
「なにかとポンコツだった姉を補佐するしっかりした妹だったと本人は言っていたそうですが」
「……それは主観ですか?」
「どうでしょうね。エスカリテ様に聞けば分かるとは思いますが、真実を知りたいような、知りたくないような……」
教皇様、ちょっと困ってる感じだ。それが本当ならエイリス様はポンコツ勇者だったのか。武力に全振りしたのかな。でも、コト様は教団を立ち上げたり、天使たちを騙したりしたこともあるわけだし、優秀ではあったんだろうね。
「コト様は、エイリス様から魔族との融和、そして魔王ベルト様と結婚するにはどうすればいいか相談されていたとか。むしろ丸投げされたという話も伝わっています」
「無茶振りもいいところですよね」
「ですが、それをあと一歩までこぎつけたのですから、コト様が素晴らしい方だったことは間違いないと思います」
ご先祖様のことだからか、教皇様が満面の笑みだ。確かに無茶ぶりをこなすだけの能力はあったんだろうね……でもね、カプ厨は自分の目的のためなら能力が爆発的に跳ね上がるんだよ……!
でも、家族思いってことはお姉さんのことが大好きだったんだろうね。だからこそ、カプ厨の能力と相まっていろんなことを実現できたんだと思う。
「ああ、そうだ、うっかりしてました。大事なことを伝え忘れるなんて」
「大事なことですか?」
「はい、エスカリテ様の巫女が現れたときにお伝えするべき言葉ありました」
「え? なんでしょう?」
「コト様の伝言は、姉とベルトさんを助けることができたなら……」
「できたなら?」
「二人の結婚式を私の代わりに盛大に祝福してあげて、とのことです」
「……私もエスカリテ様もコト様の分まで祝福しますので安心してほしいと伝えてください」
「ええ、必ず」
こいつぁ、責任重大だぜ。今までもやる気はあったけど、さらにやる気になったね。エスカリテ様が戻ってきたらすぐに伝えないと。とはいっても、言わなくても盛大に祝福しそうだよ。今度は虹くらいじゃ済まないかもね。




