お見送りしよう
「それじゃ、みっちゃん、アイレダちゃん、気を付けて帰ってね」
「私たちよりマリア姉さんの方が気を付けてよ」
「大丈夫だよ。私、結構強いし、見えない護衛さんもいるし」
「そうじゃなくって、変な男に引っかからないようにって意味」
「みっちゃん、それは言わない約束だよ……」
「女に弱みを見せる男なんて計算づくなんだから無視でいいのよ無視で!」
それは分かる。でもね、みっちゃん、男が女の涙に弱いように、女も男の悲痛な顔に弱いのだよ。あと、押しにも弱い。まあ、そのせいでこっちに来たとき頭突きをかますことになったんだけどね。反省反省。
「うん、気を付けるよ。それじゃアイレダちゃんもみっちゃんのことよろしくね」
「はい、お任せください。命に代えてもお守りいたします!」
「そこまで気合を入れてってことじゃないんだけど」
アイレダちゃんは強くなった。リュートちゃん達に色々教わったからかな。それにルガ王国では面倒を見てくれていた叔父とか叔母に絶縁状を叩き突き付けてきたとかなんとか。なんか搾取されていたみたいで取られた分を奪い返してきたとも言ってたっけ。吹っ切れた人は強いよ。なんか私のおかげとか言われたけど、私は何もしていないんだが? 自分も美味しいご飯を食べられるように頑張りますって言われたけど、どういうこと? まあ、いいけどさ。
そういえば、ルガ王国の前国王がずいぶんと変わったとか。僻地に送られた直後はそれはもう酷かったけど、黒髪の男が来てから憑き物が落ちたように落ち着いて、寝たきりの王妃を一人で看病しているとか。改心したのかどうかは分からないけど、少なくともあの僻地からはもう出ないといってるとか。二度と黒髪の男を近づけるなと言ってたらしいけど、それって誰なんだろう?
呪神の巫女であるネロロフさんはまだ完全には回復していないようで、教団が向こうの大聖堂で面倒をみているらしい。それにはルガ王国が治療費として大金を寄付しているとか。ネロロフさんご本人とはお話できなかったけど、教団経由でお礼をしてもらったからそれで十分かな。
そういえば、悪女ムーブで宝物庫からお金を勝手に持ちだしたことは不問になった。むしろあれが褒賞じゃ足りないからって教団に私宛のお金を追加で渡したみたい。どれくらいあったのかは知らないけど、色々と迷惑をかけたので教団に全額寄付しちゃったよ。もったいない気もするけどまあいいや。本当の悪女になりたいわけじゃないしね。いや、ここはお金をもらった方が聖女として遠のく……?
「マリア姉さん? 聞いてる?」
「あ、ごめん、ちょっと考え事してた。なに?」
「そろそろ馬車が来る頃だからもう行くね。今度、孤児院に顔を出してよ」
「げんこつされるかもって皆は嫌がるんじゃないの?」
「そんなわけないでしょ。皆もロディス先生も寂しがってるんだから」
これはあれか。手のかかる子ほど可愛いっていうあれ。私ほどの問題児はいなかったと自負してるからね。可愛いのは普段から真面目にやってる子のほうだぞ。社交辞令だとしても落ち着いたら顔を出しに行こうかな。それもこれも聖国での対応が終わってからだけど。
「聖国から帰ってきたら一度顔を出しに行くよ」
「うん、そうして。マリア姉さんのおかげで孤児院も少しはいい造りになったから――っと、鐘の音だ。馬車が来るからもう行くね。またね、マリア姉さん」
「うん、皆や先生にもよろしくね」
みっちゃんとアイレダちゃんは教会から少し離れた場所まで移動してから、笑顔でこっちに手を振って、乗合馬車の停留所の方へ向かった。
ふと思ったんだけど、彼氏役だったアイレダちゃんがいきなりメイド姿になって戻ったら驚かれるけど大丈夫かな。まあ、アイレダちゃんはそもそも孤児じゃないから大丈夫だとは思うけど。
さてと、ちょっと寂しくなるけど、みっちゃんは向こうで魔法を学ぶみたいだし、アイレダちゃんは先生に武術を教わるみたいなことも言ってた。皆が頑張ってるのに私だけ遊んでる場合じゃないね。でも、今日はちょっと別の予定もある。
そんじゃ、今度は大聖堂に行ってクフム様とトッカさんの見送りに行こう。今日は大忙しだぜ。
大通りに出たんだけど、王都もようやく落ち着いたみたいだ。
歓迎式典から五日も経てばこんなもんだろうね。他国からも多くの人が来てたけど、誰もが良い式典だったと言っていたみたい。そりゃ、虹が出て鳩が飛べば平和っぽいイメージがあるもんね。あの時はどうかと思ったけど、エスカリテ様はなかなかの演出家だ。
なんか教団の方にあれをうちの国でもやってとか連絡が多いらしいけど、さすがに全国へはいけないから無理かな。エスカリテ様は地域限定のご当地女神なのだよ。でも、ご当地か……こんど石像じゃなくてエスカリテ様のゆるキャラぬいぐるみでも作ろうかな。おっといけねぇ、これもお金になりそう。
そんなことを考えていたら大聖堂に着いた。
教皇様も聖国へ帰ることになってるから色々と慌ただしい感じだね。明後日には帰る予定だから、私もその馬車に便乗する形だ。今はいないけど、リュートちゃんが護衛として来てくれるのと、司祭様も同行してくれることになってる。
司祭様に関しては、最初、なんで、と思ったんだけど、よくよく考えたら司祭様は色々な事情を知っている秘密の共有者だ。エスカリテ様が唯一の神であることや、今の神が天使であること、それに勇者さんや魔王さんのことも知っているわけで、教皇様としても頼りになる右腕みたいなものなのだろう。もしかしたら、司祭様から教皇補佐みたいな役職になっちゃうかも。大出世だね。出世してもお茶菓子はください。
「マリアちゃん」
「クフム様、トッカさん」
「あらあら、わざわざ見送りに来てくれたの?」
「はい、同じ国の巫女として当然ですよ」
大聖堂のエントランスにお二人がいた。クフム様もトッカさんも住んでいる場所は王都じゃないからね、式典が終われば住んでいる場所へ帰っちゃうわけだ。王都の薬師ギルドや冒険者ギルドはちょっと残念なことになろうだろうけど、住んでいる場所のギルドを通して情報提供は引き続きやってくれるみたいだし、そこまで問題にはならないと思う。
「マリアちゃん、ありがとうね」
「いえいえ、お見送りくらい――」
「そうじゃなくてね、私がお仕えする草神様が多くの人に認められたことのお礼」
「そ、それは、わ、私も! 虫神様を信仰してくれる人が増えて……うへへ」
「ああ、そういうことですか。でも、それは私じゃなくてエスカリテ様が――」
「そんなことないわ。マリアちゃんが色々な案を出してくれたり、エスカリテ様にお願いしてくれたのが始まり。だから、マリアちゃんのおかげよ」
クフム様の言葉にトッカさんが首が落ちそうになるくらい縦に振っている。ごめんなさい、ちょっとホラーだと思いました。でも、お二人から感謝されるのは嬉しいね。首の後ろ辺りがくすぐったいぜ。
「困ったことがあったらいつでも連絡して。トッカちゃんもよ。必ず駆けつけるわ」
「わ、私も! お、お二人とも、と、友達ですし……あ! 虫の知らせってあるんで、何かあればすぐに行きます!」
おおう、いつの間にかお友達になってたけど、嬉しいね。お二人ともディアナさんみたいな巫女さんじゃなくてよかったよ。まあ、あの人はあの人で面白かったけど。今頃は自国に戻ったのかな……おっと、そんなことよりもちゃんと返さないと。
「私もです。お二人とも信頼できる仲間でお友達です。何かあればいつでも連絡をくださいね。私だって駆けつけますから」
そう言ったあとに三人で手を重ねるように握り合う。うんうん、クフム様はお歳を召しているけど、青春っぽい。いやいや、いくつになっても青春だよ。むしろクフム様もトッカさんもお仕えする神様が多くの人に認められたときから新しい青春が始まっちゃう感じだよ。河原で夕日を眺めながら青春の主張をしたいね。
その後も馬車の準備ができるまで雑談してから、お二人と別れた。見えなくなるまで手を振ってくれるって嬉しいもんだ。さて、それじゃ、教会に戻ろう。聖国に行く準備もしないといけないからね。まあ、荷物なんてほとんどないんだけど。
『尊い!』
『うわ、びっくりした。なんですかいきなり』
『カプくはない、カプくはないんだけど、すっごく良い! 黙ってたけど、こういうのも大好物だから! 主食寄りの主菜!』
『いきなり何言ってんですか』
『女の友情! 仲間! 絆! ここでしか摂取できない栄養がある!』
『また変な言葉を覚えて……でも、前世で似たようなことを言ってた人がいたなぁ』
『そうなの? コトちゃんが言ってたのよね。今なら分かる! そう、これは今この時でないと取れない栄養! 染みわたるー!』
初代教皇コト様か。神様すら欺く人ってどんな方だったんだろう。見た目に関しては今の教皇であるアマシャ様にそっくりらしい。エスカリテ様の話を聞く限り、カプ厨だったらしいんだけど、女神様に変な言葉を教えないで欲しかったよ。
さて、それじゃお世話になった人たちに聖国へ行くことを伝えながら教会に戻ろうか。今度は何のお土産を買ってこようかな。




