歓迎式典に参加しよう
とうとう教皇様の歓迎式典が行われることになった。
それはいいんだけどさ、呪病を防いだこともあって王都は大盛り上がりだよ。そんな中で馬車に乗ったままパレードとか居たたまれない。お腹痛いって言って回避しようとしたけど、クフム様が腹痛に良く効くポーションをくれた。違う、そうじゃないんだ。でも、ありがとうございます。
トッカさんはすぐに分かってくれたみたいで、緊張しているなら見ている人を虫だと思えばいいというちょっと問題発言を頂いた。野菜じゃなくて虫はあかんやろ、とは思ったけど、お二人の気遣いが嬉しいね。一人じゃないって素敵だ。
そんなこともありつつ、今は大聖堂で三人とも待機中だ。
予定としては大聖堂の前から馬車に乗って王都を一回りしつつここに戻ってくる。そして大聖堂のバルコニーから教皇様からのありがたいお言葉を頂ける。最後に王侯貴族とのお食事会。パレードとお言葉はいいんだけどお食事会はかなり嫌。緊張して味なんて分かんないよ。みっちゃんに代わってもらいたい。
だいたい、作ってもらった式典用の衣装が綺麗すぎて汚したくないよ。前世でいうところのいわゆる修道服なんだけど、白を基調に金色や銀色の刺繍があるすんごく素敵な服なので、着ないで飾っておきたいね。服に着られるとはこのことよ。
みっちゃんはお披露目したんだけど、「そんな姿で参加しちゃだめだよ!」ってすごく怒られた。アイレダちゃんに引っ張って行かれたけど。最近、アイレダちゃん、強い。
みっちゃん視点からすると似合ってないんだろうけど、そんなの分かっとるわい。でもね、式典に出ないなんて我儘が通じないのが教団なんだよ。みんなして私を説得するから参加しないわけにはいかんのだ。正社員は辛いぜ。
せめて馬子にも衣装くらいにはなっててほしいね。それなりに見られれば十分。素敵な衣装を身に付けても、それでもダサいと思わたら悲しい。教団が雇ってくれた美容師さん達が色々やってくれたんだけど、どこまで周囲を騙せるか。美容師さん達もなんか用意が終わるころには涙目で黙っちゃったし。せっかくソナルクさん謹製コスメ使ったのに。せめてお世辞くらい言ってくれ。
その点、クフム様とトッカさんはすごく綺麗だと言ってくれている。もう一生ついてきます。
「皆さん、そろそろ馬車の方へ――」
司祭様が控室に入ってきたんだけど、私の方を見て固まった感じだ。イケメンが言う綺麗、可愛いは信じないが、司祭様ならちょっとは信じてもいい。さあ、覚悟は決まった、なんか言ってくれ……というか、固まってる? そこまで酷くないでしょ?
「あの、司祭様?」
「……あ、いや、すみません、その、なんと言ったらいいか……」
「そんなに変ですかね。確かに衣装に着られている感じが――」
「いえ! 逆! 逆です! その、上手く言葉にできないのですが、大変、お似合いで、その、見惚れてしまいました……」
はい、百点満点、うぇーい、最高のお言葉を頂きました。しかも司祭様の顔が少し赤い。完璧です、花丸ですよ。さすが、匠の技をふんだんにつかった衣装と美容師のお姉さま方だぜ。ご本人たちは納得いかなかったかもしれないが、馬子にも衣装を完璧にやってくれたよ。
「司祭様、ありがとうございます。このような素敵な衣装と美容師さんたちの技術で、どうにか及第点を頂けたようですね」
「い、いえ、及第点どころか――」
「お時間ですよね、巫女としてしっかり仕事をさせていただきます」
とりあえず問題なさそうだし、ぱぱっと終わらせないとね。
『むう……!』
『エスカリテ様、どうかしました?』
『ちょっと褒め方が足りないんじゃないかな!』
『お世辞でしょうけど、最高の誉め言葉を頂きましたよ。しかも顔を少し赤らめて。エスカリテ様からすれば最高のシチュだったのでは?』
『それはそう。普段女の子を褒めたりしない男の子が、勇気を振り絞って女の子を褒める……それは悶絶レベルのカプい行為。私的ランキングのトップテンには入るわね!』
『なら司祭様は完璧な対応だったのでは?』
『いや、それがなんか気に入らないって言うか。ウチのマリアちゃんが最高に着飾っているんだから語彙力振り絞って褒めないと。その後は辞書を引いて褒めるべき。あんなんじゃ全然足りない。やっぱりマリアちゃんの彼氏は私が見つけてあげないと駄目ね!』
エスカリテ様はたまに情緒不安定。特に司祭様が絡むとその傾向が強い。というか、司祭様と私の彼氏にどんな関係がある話なのだろう。脈絡がなさ過ぎて怖いよ。まあいいや、さあ、行こうじゃないの。
クフム様やトッカさんと一緒に大聖堂を出ると、馬車が置かれていた。
……想像してた馬車とは違う。中で座るんじゃなくて、馬車の屋根の上に立つの? しかもデカいよ。こんなので王都を移動するのか。前世で優勝パレードやってるあれじゃん。
だが、ここで引き返すなんてことはできない。仕方ないね、女は度胸、淑女は気合、そして乙女はど根性! やったろうやないかい!
「疲れた。もう何もしたくない……」
教会に帰ってきて、いつもの服に着替えてから自室のベッドにダイブ。式典とかもうやりたくない。それに王侯貴族とのお食事会とかマジ勘弁。何食べたか覚えてないよ。美味しい物を食べたような気はするけど。
『お疲れ様! マリアちゃん、最高に良かったわよ!』
『俺も遠くから見てたけど、なかなか良かったぜ』
『そうですか? 私が馬車の上に立ったとき、盛り上がりが一瞬止まりましたよ。やっぱり場違いでしたね……』
あの時の私の気持ちは、やべぇ、やっちまった、だよ。どう考えても変な奴が来たって感じだったよね。そのまま馬車を降りようかと思ったよ。私に対してさすがに失礼だと思ったのか、ものすごく盛り上げてくれたからなんとか耐えられたけど。笑顔が引きつったね。いまだに頬が痛い。
『なあ、うすうす思ってたんだが、マリアって残念な奴なのか?』
『ああん!?』『ああん!?』
『二人そろって威嚇するんじゃねぇよ』
『一応、発言の意図を聞いておきましょうか、ギザリア様。それで今日の夕飯がどうなるか決まるので慎重に答えてください』
『そうよそうよ! 魂を輪廻の渦に放り込むわよ!』
『いやいや、どう考えたってマリアの美しさに皆が驚いたんじゃねぇか。猫だって分かるっつうの』
私の美しさに驚いた? それこそありえないでしょ。こんなガリガリの身体にぼさぼさの髪……あれ? 結構ふっくらしてきたし、髪もシャンプーとかのおかげでサラサラになった感じ? 美容師のお姉さま方が全部やってくれたし、鏡は手鏡程度しかないからよく分からないけど、前よりはよくなった?
お米やカレーの効果が出て来たってわけか……! でも、美しいは言いすぎじゃない? なるほど、今日はサンマじゃなくてマグロが欲しいってことか。叶えて進ぜよう。私はお世辞に弱い女。
『褒められて悪い気はしませんけどね、それはさすがにないでしょう。ですが、その下げてから上げるという高等テクニックに免じて今日の夕食はマグロにします』
『ほらな、俺の言ったことが合ってるだろ?』
『マリアちゃんってなぜか自己評価が低いのよね……そこが良いところでもあるんだけど。環境と教育って大事だわー』
あれ、いつの間にかエスカリテ様がギザリア様に付いてない? 孤立無援とはこのことか。でも、孤児院でもみっちゃんが言ってたし、客観的に見ても美しいって感じじゃないと思う。でも、将来性はあるはずだ。なんてたって金髪碧眼だし。食事も改善されたし、質のいい化粧品も増えた。あと数年もすれば、ちょっとはイケてる成長ができるんじゃないの?
そんな将来を夢見てはいるけど、そんなことよりもエスカリテ様に言っておくべきことがある。
『エスカリテ様』
『なぁに?』
『虹はやり過ぎでは?』
『マリアちゃんの晴れ舞台じゃない! 私が応援しなくてどうするの! かなり疲れたけど、やれる限りのことはやったわ!』
なんか親馬鹿ムーブをかまされたけど、盛り上がったからいいのかな。でも、雨も降ってないのに虹が出るわ、白い鳩が編隊を組んで飛ぶわ、明らかにやり過ぎだよ。教皇様をはじめ、みんな盛り上がってたけどさ。
その辺りで意識の限界が越えててその後のことはあまりよく覚えてないな。教皇様の演説は長かったような気はしたけど、あんなもんだろう。偉い人は話をするのが好きだよね。校長先生の存在意義と言ってもいい。
食事に関しては、ビュッフェスタイルだったから、お肉を食べまくったような気がする。貴族の人達が多かったから、やらかしたかもしれないけど、アイツはもう呼ぶなと言われた方が嬉しいよ。
そういえば、結構な人に話しかけられたような気が。それはあまり覚えてないけど、司祭様が色々と気遣ってくれたのは覚えている。いい人だよね、司祭様。新人巫女に世話を焼いてくれる司祭様、モテムーブがちょっと憎いぜ。
とにかく、これで色々終わった。しばらくは何もない感じだからまたいつもの生活に戻らないと……いやいや、まだあったっけ。これが大事だ。
『エスカリテ様』
『どうしたの、真面目な顔して?』
『聞いていたと思いますけど、来週、教皇様と共に聖国へ行きますからね』
『……うん、聞いてた。まだ二人を助けることはできないけど、まずは会いに行かないとね』
聖国にある教団の総本山、それが神殿という施設、その地下に二千年前の勇者エイリス様が魔剣に刺された状態で眠っている。正確には時間を止められているとのことだけど、それを助けるのがエスカリテ様の目的みたいなものだ。そのためにはもっと信仰心を稼がないとね。すでにかなり稼いでいるけど、もっともっと必要。私も頑張らないと。
さて、その準備もしておかないとね。でも、今日は皆のご飯を作って、お風呂入って、早めに寝よう。今日は泥のように寝れそうだぜ……!




