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女神(邪神)様はカプ厨!  作者: ぺんぎん
第二章

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憂鬱な司祭(別視点)


「お祖母様」

「あら、フレイ、いたの?」

「それは酷くありませんか?」

「冗談よ。でも、困ったわね。貴方の想い人には最強の守護者がいるわ」

「諦める理由にはなりませんね」


 とはいえ、その最強の守護者がミシェルさんというのは厄介だ。最初の出会いからして印象が悪いし、この間の話し合いでも気に入られたということはないだろう。諦めるつもりはないが、このままではマリアさんと関係を深めることなく終わる。今のところ何の糸口もないというのが厳しいところだ。


「そうね、頑張りなさい。ただ、本人に惚れさせればいいなんて考えるのは駄目よ。マリアさんと一緒になりたいなら、全ての人が納得する強さを身に付けなさい」

「強さですか」

「ミシェルさんは強いわ。魔力もそうだけど精神が強い。あの場所で生き残るためにどれほどの努力を重ねたのか。貴方とは真逆の人生を送り、そして生き残った。今のあなたじゃ相手にならないでしょうね」

「……それは痛いほど分かっています」

「分かってはいるけれど、どうしていいか分からないという感じね」


 お祖母様は何もかもお見通しか。しかし、強さのこともそうだが、この歳までまともに恋愛をしたこともないし、しようと思ったこともない。自分には政略結婚しかないと思っていた昔の自分を叱りつけたいところだ。


 それだけならまだしも、マリアさんと私の差は開く一方。呪病を防いだことも、ルガ王国へ行った時も打ちのめされた。ルガ王国となんとか渡りを付けようとしたところで、マリアさんはすぐさま行動して解決してしまった。


 マリアさんは着実に巫女としての実績を積んでいて、他国の大聖堂から問い合わせも多いと聞く。そして私はただの司祭。司教や大司教、枢機卿あたりまで行けば釣り合いが取れるだろうか。そんなことをしている間にマリアさんはどなたかとお付き合いする可能性の方が高い気が……その辺りはミシェルさんが邪魔をしそうだな。


「フレイ」

「……はい」

「祖母として助言するけど、つまらないことだけはしないようにね」

「つまらないこと?」

「好かれようとして貴方らしくない行動をするなと言ってるの。相手の好みに合わせた自分を見せてマリアちゃんに好かれたところで、すぐに破綻するわ。貴方は貴方のままマリアさんに好かれなさい」

「私のままでマリアさんに好かれないなら?」

「その時は諦めなさい。でも、覚えておきなさい。人の好みが一生変わらない人なんていないわ。妥協ではなく、好みは歳を重ねるたびに変わるものよ。それに譲れない部分はあっても、理想はあくまでも理想。絶対の条件ではないわ。私もね、あの人のことを最初はどうも思ってなかったわ。へなちょこだったし」

「お祖父様のことですよね? ですが、へなちょこ……」

「本当よ。初めて会った時はこの国の王子だったけど、やることなすことてんで駄目でね、本当に残念な人だったわ」


 そんな話は初めて聞く。先代国王、そして私の祖父であるファズガルド様。多くの逸話を持つ方だが、おばあ様からすればへなちょこなのか。お祖父様のことは正直よく覚えていない。私が三歳か四歳の頃に亡くなった。笑顔で私の頭を優しくなでてくれた記憶はあるが、それくらいだ。その後、歴史書などで調べたが、誰からも愛される優秀な王だったと分かり、尊敬していたんだが。


「でもね、あの人はどんなことも諦めなかった。自分で出来ないことは頭を下げて協力を仰ぎ、多くのことを成し遂げたわ」

「そんなことが」

「人が一人で出来ることなんてたかが知れている。そして自分は優秀じゃない。あの人はそれをきちんと理解していたのね」

「自分が優秀じゃないことを理解していた……」

「物事を成すのに必要なものはなにか。お金、才能、人脈、人によって答えは違うだろうけど、少なくとも信念は必須だと思うわ。あの人にはそれがあった。だからこそ、王であっても頭を下げたし、多くの人に好かれたのよ」

「信念ですか……」

「まあ、その信念が間違っていたら意味はないけれどね」

「お祖母様……この話を聞いていて意味はありますか?」

「意味なんか特にないわ。孫との恋バナを楽しんでいるだけよ」

「はぁ、もういいです」


 時間の無駄だとは言わないが、この話のオチが分からない。最後まで聞いたとしても意味がないのなら、すぐに大聖堂へ戻りたいところだ。その前にマリアさんのところへ顔を出してみようか。効果があるか分からないが……いや、違うな。私がマリアさんに会いたいだけだ。


 そう思ったが、お祖母様が「まあまあ」と椅子に座るように促している。


「あとちょっとだから最後まで聞きなさいな。私はね、そんなあの人がどこまでやれるのか気になった。そしていつの間にか惹かれていたわ」

「孫に惚気ですか?」

「たまにはいいでしょ。私が言いたいのはね、正しい信念をもって何かを成そうとしている人は魅力的だということ。私にだってね、若い頃は伴侶となる人の理想があったわ。でも、あの人を見ていたら、そんな理想は吹き飛んだの」

「理想が吹き飛んだ……」

「相手にどんな理想があったとしても、それすら忘れてしまうくらいの魅力的な男になりなさい」

「それは難しいのでは……」

「当たり前でしょ。そんな簡単に魅力的になれるなら誰も苦労しないわ」


 どんな理想も忘れるくらいの魅力的な男性か。それはマリアさんの理想の男性になるよりも難しいような気がするのだが。そもそもマリアさんの理想の男性はどんな人だろう。この間、聞きそびれてしまったからな。


「一応言っておくけど、好かれなくとも嫌われるような真似だけはしないようにね。今、マリアさんに国を出ていかれたら本当に危ないから」

「それは言われなくとも分かっています」


 マリアさんの慈悲でルガ王国が復興してしまったからな。このまま衰退してくれればこの国も楽になると思っていたんだが、そんな思惑など関係ないとばかりにマリアさんはあの国を救った。また表に出ない攻防が始まるのかと思うと少し気が重い。


「エルドンナ様、フレイティス様、その件ですが、つい先ほど、ルガ王国から書簡が届きました」


 気配を消していた執事のオルエンがいきなりそんなことを言い出した。ルガ王国から書簡が届いた? お礼の言葉といったところか。対外的にはそうしないと周辺国から批判されるだろうから当然といえば当然か。


「なんて書かれてあったの?」

「呪病に対する感謝とこれまでのことに関する謝罪もありました」

「これまでのことに関する謝罪?」

「あらゆる工作のことです。今後は一切しないし、それに対する賠償金を支払うとのことです。また、それに関しては女王自らがこちらへ来て直接謝罪すると」


 オルエンの言葉にこの場にいる全員が黙ってしまった。当然だ、一体何がどうなればそんなことになるのか全く分からない。しばらくは大人しくするくらいは思っていたが、まさかこれまでのことを認めて謝罪するとは。だが、それを信じていいのだろうか。


「それは何かの罠とかではなくて?」

「可能性はあります。ただ――」

「ただ、何?」

「マリア様のいるアデルラルド王国とはぜひとも友好的な関係になりたいとの言葉が添えられておりました」


 椅子から滑り落ちそうになってしまった。おばあ様も驚きで動きが止まっている。それはそうだろう、ルガ王国とは建国時から色々あったと聞いている。建前上、仲良くみせている時期もあったが、水面下では常に戦いを繰り広げていた。それが友好的な関係になりたいとは歴史書に載るほどのことだ。


「あの子は――王は何と言ってるの?」

「鵜呑みにはできないと前置きしていましたが、すぐにルガ王国と日程の調整をするようにと指示されていました」

「それしかないわよね……でも、驚いたわ。敵だった方がまだマシというくらいの揺さぶりよ。信じていいものかしら?」

「分かりませんが、これはルガ王国の本音ではないでしょうか」

「その理由は?」

「マリア様です。おそらくルガ王国はマリア様への感謝、そして恐怖を感じているかと。少なくともマリア様がこの国にいる間は何もしてこないでしょう」


 感謝と恐怖……なるほど、辺境での対応に関してマリアさんが防いだことを知ったということか。もしかしたらミシェルさんから聞いたのかもしれない。そして今回、マリアさんはルガ王国の国民を呪病から解放し、さらには食料問題まで解決、しかもカレー粉という高値で取引できるものまで手に入れた。それはすべてマリアさんが悪役となってやってくれたこと。カリアさんが感謝するのも当然か。


 お祖母様も同じ考えに至ったのか、大きく息を吐いてから背もたれにもたれかかった。常に姿勢を正しているお祖母様としては珍しいことだ。


「ちょっと考えがまとまらないわ。他に報告があれば先にお願い」

「それでしたら影たちのことで」

「影たちのこと? 珍しいわね、何かしら?」

「これからは影ではなく、楽団と呼んで欲しいと言っております」

「……楽団?」


 一体何の話だろうか。とある犯罪組織で育てられた子供達が影。この部屋にも複数いるが、どの影も一流の暗殺者であり護衛だ。名前が付くことで命を惜しむ可能性があるからと常に影と呼んで欲しいと言っていたのだが……なぜ楽団?


「それは構わないのだけど、理由を聞かせてくれる?」

「今回、マリア様の護衛をした影の一人が名前を頂きまして」

「名前を? マリアちゃんから?」

「はい、声が楽器のリュートのように美しいとのことで、リュートの名を頂いたと」

「まあ」

「その結果、他の影たちが羨ましくなったそうで、それぞれ楽器の名前を付けることにしたのだとか。それに合わせてこれからは楽団と呼んで欲しいと」


 珍しくぽかんとしていたお祖母様が急に笑い出した。笑うことすら計算でやるお祖母様が本当に笑うとは明日は雪でも振りそうだ。


「もう、マリアちゃんにこの国をあげちゃいましょうか?」

「何を言っているんですか」

「だってねぇ、ルガ王国との確執をどうにかするのが、この国の悲願だったのよ。それをマリアちゃん一人でやっちゃうんですもの。その上、ウチの戦力とも言うべき者たちを懐柔しちゃったのよ? それにミシェルさんや孤児院の子達、もしかしたらロディスもマリアちゃんの味方ね。さっき一人でやれることはたかが知れているって言ったけど、忘れてくれるかしら」


 やれやれ、マリアさんはどこまで行くのだろう。距離が縮まらないどころか離れていくばかりだ。マリアさんに釣り合う男になる上に魅力的になれなんてどれほどの難易度なのだろうか。いや、そもそも不可能のように思える。


 なるほど、これが相手の理想が吹き飛ぶほどの魅力か。私の方ではなくマリアさんの方にあるとは本当に困った女性だ。でも、諦めるわけにはいかない。地道に頑張ろう。


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