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女神(邪神)様はカプ厨!  作者: ぺんぎん
第二章

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憂いの母后(別視点)


「初めてお目にかかります。ミシェルです」

「ミシェルさんね、初めまして、エルドよ」


 高位な貴族でもなかなかできないほどの美しい所作。ただの挨拶ではなく、人の目を引き付け、印象に残せるほどの動きはどれほど繰り返して覚えたのかしら。孫のフレイはこれほどの女性とお近づきになれても縁がないのね。それとも運がないのかしら? まあ、それはあと。今はミシェルさんとの会話よ。


「ここに呼んだのは他でもないの。貴方の口からルガ王国での状況を教えて欲しいのと、これからどうするかを聞いておきたくて。ごめんなさいね、帰ってきたばかりで疲れているでしょうに」

「いえ、私の境遇を考えれば当然のことだと思います。では、ルガ王国での状況から――」


 話が早い。すでに私が報告を受けているのは分かっているけど、なぜミシェルさんの口から報告してほしいのか分かっているのね。客観的な報告ではなく、当事者の主観的な報告、私が欲しいのはそれだけど、ミシェルさんはすぐに理解した。


 惜しいわね、マリアちゃんとミシェルさん、二人がこの国のために働いてくれたら、もっと発展するでしょうに。もちろん今でもこの国のために色々やってくれている。でも、それは副産物のようなもの。この国のためというわけじゃない。


 でも、その方が良いのかもしれない。ミシェルさんの報告を聞いている限り、かなり頭が切れる。この国に協力するなんて言い出したら逆に危険ね。そのまま国を乗っ取られるかもしれないわ。まあ、ミシェルさんからすればこの国の王族になるのは罰ゲームらしいけど。


「――と、私の所見は以上です」

「ありがとう、分かりやすい内容だったわ。それで質問があるのだけど」

「どんな質問でしょうか?」

「マリアちゃんのことなの――ふふ、そんなに警戒しないで。この国に取り込もうなんて思ってないわ。そんなことをしようものなら、貴方がマリアちゃんを連れてどこかへ行っちゃうでしょう?」

「そうですね、確実にやります。孤児院の皆もいなくなるので、追えるとは思わない方がいいです」

「怖いわね。でも、そのためにも質問したいのだけど」

「分かりました。マリア姉さんの何について聞きたいのですか?」

「マリアちゃんはなぜあそこまでするのかしら? あの子の行動理念が良く分からないの。長く一緒にいるミシェルさんなら分かる?」


 本当に不思議なのよね。辺境の孤児院を商人から守ったのは同じ孤児の家族を守るため、それは理解できる。この国に恩恵をもたらしたのも、教団の巫女として働いた結果、それもまあ分かる。


 でも、敵であったはずのルガ王国にあそこまでの恩恵を与えたのはどういう理由なのかしら。彼女の行動に文句をつけるつもりは一切ないけれど、理解できない状況には恐怖を感じてしまう。ただの気まぐれ、それが一番怖い。その時の気分次第で、この国に牙をむくようなことがあったら困るわ。マリアさんに限ってそんなことはないだろうけど、どのように考えるのかは理解しておきたい。


 ルガ王国はミシェルさんに対して酷いことをしていた。マリアちゃんも相当怒っていたという報告を受けている。にも拘わらず、向こうへ行ったらすぐに呪神様の巫女を助け、それどころか、呪病で苦しむ民まで助けた。さらには希少価値のあるカレー粉の作り方を教え、あの国が抱えている食糧問題も解決してしまった。


 しかも、それはマリアちゃんが悪役になってまでやったこと。我が国を含めて周辺国は何も言えないわ。今、マリアちゃんに文句を付けようものなら、呪病の対応が遅れる。いえ、今でなくてももう言えないわね。今やマリアちゃんと女神エスカリテ様への信仰が相当なものになっている。変なことをしたら民が黙ってないわ。


「マリア姉さんの行動理念……ですか?」

「簡単に言えば、ルガ王国を助けた理由がわからないの。巫女は分かるわ。教団の所属だし、聞けば被害者、すぐに助けるのは理解できる。でも、ルガ王国はミシェルさんに酷いことをした国よね。家族を大事にしているマリアちゃんなら、そんな国に手を差し伸べないと思ったのだけど」

「ああ、そういうことですか……」


 あらあら、鼻で笑われたわ。初めての経験ではないけれど、本当に分からないのだから怒れないわね。さて、フレイの時のように答えを貰うにはお金が必要かしら?


「マリア姉さんは家族や仲間、友人や知り合いに優しいですが、それよりも弱い人の味方だからです」

「弱い人の味方?」

「マリア姉さんは弱っている人、困っている人を見捨てられない。それが誰であってもなんとか助けようとする。そのせいでトラブルに巻き込まれることも多いですけど、私達のように損得だけで生きている人ではないということです。どう行動するかは分かっても、私達には永遠に理解できないと思いますよ。いえ、理解しようとすることすらおこがましいですね」


 そう言っているミシェルさんの顔はとても嬉しそう。そうなのね。私達には理解できないのね。でも、それはなぜかしっくりくる。凡人が天才の考えを理解できないように、人が神の考えを理解できないように、私達のような者にはマリアちゃんの考えを理解できない……とても納得できる話だわ。でも、理解はできなくても、マリアちゃんならそうする、という推測は立てられる。それで十分。


「ミシェルさんの言いたいこと、よく分かったわ」

「なら状況も理解もできましたか? 良かったですね、この国が弱くて。泣きつけば、マリア姉さんは助けてくれますよ」

「……私はミシェルさんの気に障ることを言ってしまったかしら?」

「言ってませんね。でも、行動はしている。覚えはありませんか?」

「ないとは言えないわね」

「言わなくても知ってると思いますが、言葉にしておきますね。私はマリア姉さんを利用しようとする奴を許さない」

「まあ、怖いわ。でも、その言葉、よく覚えておきます」

「ええ、そうしてください。この国、ちょっとは気に入っているので」


 この歳で殺気を放てるなんて相当ね……いえ、今のは魔力かしら。呪いによって封じられた魔力は解放とともに爆発的に増えるなるなんておとぎ話を聞いたことがあるけど、本当にそれが行われたのね。この歳でこれほどの魔力なんて、使い方は未熟だろうけど、この分なら数年で世界一の魔術師になれるかもしれないわ。だからこそ、マリアさん共々こちらに引き込みたいのだけど……これは無理ねぇ。とはいえ、お願いしないわけにはいかないわ。せめて協力関係は結びたい。


「ミシェルさん、この国はどうしてもマリアちゃんの力が必要なの」

「でしょうね」

「この国は弱い。それは貴方の言う通り。この国の王族や貴族がしたことなんてたかが知れている。それでもまだ存続できているのは運によるところが大きい。マリアちゃんや貴方が辺境の孤児院にいてくれたこととかね」

「運はいつかなくなりますよ」

「そうね。だからこそ、力を付けなくてはいけないの。でも、マリアちゃんに頼らなくてもやっていける国になるのには多くの時間がかかる」

「それまでは力を貸して欲しいと?」

「報酬なしで働かせるつもりはないし、強制的に何かをさせるつもりもないわ。ただ、困ったときは力を貸して欲しいと思っている。それも駄目かしら?」

「国が個人の力に頼るなとは言いたいですけど……マリア姉さんは頼られたら断らないでしょうね。そうなると私も口は出せません」


 すごく不服そうね。でも、ミシェルさんでもマリアさんは御することはできないと言っている。少なくとも邪魔はしないと言ってくれているのかしら。


 いいわ。その言葉を聞けただけでも僥倖。今後はお互いの理解を少しずつ深めていくしかない。恋の駆け引きと一緒で、急ぎ過ぎるのは危険よね。


「マリアちゃんや貴方に嫌われないようにするわ。だから、気に入らないことがあったら言葉にして欲しい。いきなりいなくなるのは駄目よ?」

「そんな約束はしませんよ。そうならないように考えて行動したらどうです?」


 手ごわい。でも、相手はルガ王国の第二王女。何も持たない子が味方のいなかったあの場所で戦うために培った力なのだから、そう簡単には崩せないわね。はぁ、ウチの孫たちを今からでも厳しくした方が良いかしら。


「ミシェルさんの言う通りね。そうならないように気を付けるわ。それとは別に今後のことも聞かせて欲しいのだけど、時間はまだ大丈夫かしら?」

「大丈夫です。ですが、今後のこと……短期的なことですか? それとも長期?」


 短期的なことと長期的なこと? その言い方は想定していなかったけど、両方聞くしかないわね。


「なら短期的なことから教えてもらえるかしら?」

「教皇様の歓迎式典があるので、それを見る予定です。その後、孤児院に帰ります」

「なら長期は?」

「教える必要はないのですが、成人の日を迎えるまで魔法の修練をするつもりです。辺境に魔法使いのおばあさんがいるので」

「……成人後のことを聞いても?」

「マリア姉さんと共にいるつもりです。その後は風の吹くまま気の向くままですね」

「ミシェルさんはルガ王国の第二王女、今では王位継承第一位なのだけど、それはどうするの?」

「いえ、継承権は放棄しました。それにルガ王国では、私は死んだことになっているのでもう何の関係もありません」


 驚いたわ。その情報は初めて知ったけど、マリアちゃんのために何もかも捨てられるのね。いえ、違うわね、マリアちゃんの妹であることのほうがミシェルさんにはよほど価値があるのね。


「まさかとは思いますが、私に適当な貴族をあてがうつもりだったとか?」

「そんなことしたらマリアちゃんと一緒に逃げちゃうでしょう?」

「そうですね」

「ごめんなさいね、何かの火種になりかねないと思っただけなの。でも、そういう状況なら問題ないわ。貴方はロディス孤児院の子でマリアちゃんの妹よ」


 ミシェルさんは何も言わずに微笑んでいる。本当に嬉しそうね。


「質問は以上ですか?」

「ええ、そうね。有意義な時間をありがとう。貴方の言葉はしっかり覚えておくわ」

「そう願います。それでは」


 また素敵なお辞儀ね。そして歩く姿も優雅。メイドも扉を開けるのに少し遅れたし、影たちも視線を奪われているほど。困ったわねぇ、この国には良い人材が多いのに、その子達を扱えるほどの人材がいないことが残念過ぎるわね。


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