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女神(邪神)像を探そう

 

 一週間で色々なことをやり終えた。ボロボロだった教会もかなりいい感じになったし、裏庭の畑でジャガイモを栽培中、井戸も頑張って掘った。小さいけど自分用の部屋にそれなりのベッドとシーツ、それに枕も完備。台所だけは奮発して魔力で動くキッチンコンロみたいな物も置いた。教会のレベルが上がったぜ。


 あとは服を買い替えた。巫女と呼ばれているけど、前世の巫女風ではない。上半身は黒のシャツと白いフード付きのシンプルなパーカーみたいなものだけ。下はカーキ色の膝まである半ズボンで、靴は脛くらいまである茶色の編み上げブーツ……なんか男の子っぽいファッションだけど、動きやすい服を選んだらこれしかなかった。


 服を変えるともっと全体的におしゃれをしたくなる。せっかくの金髪なのでサラサラロングにしたいところだけど、貧乏な孤児院でそんなおしゃれにお金を使うわけにはいかないので昔からショートポニテだ。伸びたら先生がしっぽ部分をハサミで切ってくれただけ。そろそろおしゃれに気を使ってもいい気がしてきた。王都になら前世の美容院みたいなところがあるかな。


 あとは浴槽も欲しいけど、さすがにそれは難しいので今のところ公衆浴場かタオルで拭くくらいだ。前世を思い出したから石鹸とかシャンプーとかリンスなんかも欲しい。まあ、それはおいおいかな。そもそもそういう類の物があるのか知らないし。少なくとも孤児院にはなかった。探そう。


『ねぇねぇ、マリアちゃん』

『どうしました?』

『教会に私の像を置こうよ』

『無駄な出費はしません』

『無駄って言わないで!』


 ただの像にご利益なんてないよ。大体、本人が天界ってところにいるらしい。姿が見えないんだからどうやって像を作ればいいのかもわからない。でも、さっきからエスカリテ様が『ねぇねぇ、作ろ作ろ』ってうるさい。神様が自分の像を作らせるために巫女へ嫌がらせするってなんだ。


『エスカリテ様』

『置いてくれる気になってくれた?』

『わがままが許されるのは子供だけです』

『神にだってそういう特権があってもいいと思います!』

『だいたいお金がないですし、エスカリテ様の姿が分からないんですよ』

『大聖堂ってところに私の像はないの?』

『文献はあってもエスカリテ様のことを覚えてない状況でしたからね』

『古い神はお払い箱ってことね。世知辛いわ……』


 神様が世知辛いって何の冗談だろうか。像はないけど司祭様が言っていた最古の文献とやらにエスカリテ様の絵はあるかな。この世界に顕現したことがあるのかも微妙ではあるんだけど。それに事情はともかく昔は邪神って呼ばれていたのに、そんな像が残っているとは思えない。


『昔はエスカリテ様の像があったんですか?』

『もちろんあったわよ』

『邪神扱いだったのでは? 変な儀式に使われていたとか?』

『普通に扱われていたってば! だいたい邪神って言ってたのは他の神たちで、人が言ってたわけじゃないから――本当! 本当だってば! これでも結構私の像は売れてたんだって!』

『それは無視できない話ですね』


 前に想像していた通り、エスカリテ様を邪神扱いしてたのは他の神達だけみたいだ。そもそも他の神様全員に喧嘩を売ってぶっ殺しちゃったほどだ。強さから考えて結構信仰されていた可能性が高い。まあ、その後、推しのカップルに申し訳なくて泣きながら寝ちゃったら忘れ去られちゃったけど。


 最近分かったことだけど、エスカリテ様は二千年くらい寝ていたらしい。最古の文献というのがどれくらい昔の物かは知らないけど、おそらくその頃の物だろう。かなり昔だけど、文献が残っているならエスカリテ様の像もどっかに残っている可能性はあるか。


 なんでも屋の冒険者さんたちの中には古い遺跡に潜ってお宝を探す専門の人もいる。二千年前の遺跡に像があるとは思えないけど、エスカリテ様を信仰していた神殿みたいなものはどこかにあるかもしれない。それが見つかれば姿が分かる可能性がある。


 大聖堂にある最古の文献とやらに姿が描かれているなら楽なんだけど、無くても何かしらの情報があるかもしれないし、司祭様に会いに行ってみようか。そこで情報を聞けたらありがたいし。そういや補助金の申請もしないとな。カップルを応援する神様って認めてくれるかな。それが心配。


『ちょっと大聖堂に行って像とか絵がないか聞いてみましょう』

『本当? そこへ行くのは初めてだから楽しみー』

『大人しくしててくださいよ』

『大丈夫。しっかり黙ってるから』


 ならさっそく近況報告を兼ねて司祭様に会いに大聖堂へ行こう。


 今日も王都は賑わっている。この国は住みやすいと言われているらしく、王族とか貴族様たちも結構いい人達みたいで、権力を振るって好き放題やっているような人たちではないとか。そんな人たちがいる王都でも、この間みたいな男たちはいるわけだが。あと、もうちょっと辺境に寄付金を出して欲しい。先生がどんぶり勘定だったり、商人に足元を見られていたのもあったけど、それでもお金が足りないんだよね。


 そんなことを考えていたら大聖堂に到着した。


 相変わらず大きな大聖堂だ。エスカリテ様も「でか!」って言うほどだから相当大きいんだろう。前世のショッピングモール並みだ。私も関係者になったわけだけど、本当に悪い事とかしてないよね……?


 受付さんに巫女として来たと伝えたら、以前対応してくれた司祭様が来てくれた。以前のように柔和な笑みを浮かべている。目元が少し隠れているからこの距離だとちょっと良くは分からないけど真面目で優しそうな人だ。そういえばお茶菓子のおかわりをくれたんだった。心の中で聖人認定しよう。


「マリアさん、よく来てくださいました」

「こんにちは、司祭様」


 司祭様が少し困ったような顔をして頭を下げた。


「マリアさんを古い教会にお一人で住まわせるなんて本当に申し訳ないです。大丈夫でしたか?」

「司祭様、頭を上げてください。支度金を頂いたのですぐに改善できましたし、エスカリテ様がいますから」

「申し訳ないです。現在、他国から来た巫女様をお迎えしている状態でマリアさんが後回しになっております。本来、話せる神によって待遇に優劣をつけるなどあってはならないことなのですが」

「お気になさらずに。支度金やお茶菓子、それに保存食を頂けましたので何の問題もありませんでしたよ」


 そう言うと司祭様は笑顔になって「そう言ってもらえると助かります」とまた頭を下げてくれた。


 司祭様、いい人だ。それに情報も得られた。別の神様の声を聞ける巫女が来ていることと神様でも優劣があるみたいだ。信者の数によって違うとかかな。エスカリテ様は誰も覚えていない神だから、優先度的には低いのだろう。


「それでマリアさん、今日はどうされました?」

「近況報告と補助金の申請をしようと思ったのですが」

「それはありがとうございます。ではこちらへどうぞ」


 前と同じ部屋に通されて、司祭様が申請書類を持ってきてくれた。まずは先に補助金の申請を済まそうということなのだろう。


 普通に書類を書いたら驚かれた。この世界だとそうかもしれない。文字を教える学校は貴族とか商人くらいしか行かない。辺境の町で文字の読み書きができるおじちゃんを無理矢理孤児院に連れてきて教えさせたのは間違ってなかった。そのころは前世の記憶がなかったのになんとなく大事な気がして教わったんだよね。あのおじいちゃんも今ではやる気になって孤児院で教えているからすごく助かる。


 書類に不備がないことを確認した司祭様が笑顔で「では、申請しておきますね」と言った。その後、紅茶とお茶菓子を用意してくれて、メモ帳を取り出した。ここからがエスカリテ様の報告だ。


 司祭様にエスカリテ様のことを説明すると、司祭様は頷きながらメモを取り始めた。私みたいな子の話をちゃんと聞くなんて真面目だ。洗礼の儀を終えたから大人として扱ってくれているのだろう。


 エスカリテ様のことは「恋人たちを守護する女神」という説明をした。間違っていないはず。それに実績もある。二人のカップルが絡まれているところを助けた。主に武力で。


 エスカリテ様が邪神と呼ばれていたことに関しては言わないことにした。報連相は大事だけど、これは言わなくていい事だと思う。それに最古の文献に書かれている内容がエスカリテ様の本質だと確信してる。人に害をなすような神様じゃない。そもそもエスカリテ様を邪神と言っていたのは他の神たちだけだしね。そして今の神たちにも基本接触しない。完璧な隠蔽だ。


 ということでカップルを助けたことだけ伝えると、司祭様は感嘆の声を上げた。


「マリアさんは素晴らしいですね」

「えっと……?」

「巫女の方の中には寄付をしなければ助けないという方もいます。それは神の意向でもありますので、ダメだというわけではありませんが、マリアさんは無償で人助けをされました。エスカリテ様の希望もあったとは思いますが、大変素晴らしいことをしたと思います」

「いえ、それほどのことでも」

「謙虚ですね。ですが、あまり無茶はしないようにしてください。神でも我々の世界で力を振るうのは難しいと聞きます。神の声を聞けるという稀有なスキルを持つ方というのもありますが、マリアさんは成人したばかりのか弱い女性なのです。危険なことはしない方がいいでしょう。何かありましたら、大聖堂へご相談に来てくださいね」

「はい、ありがとうございます」

「まあ、そんな女性に古い教会で一人暮らしをさせてしまっているんですがね……」

「本当にお気になさらずに。私は孤児ですし、慣れていますから大丈夫です」


 しゅんとしている司祭様は怒られた子犬みたいでちょっと可愛い。そんなことよりも女性扱いされてしまった。孤児院の男たちに見せてやりたい。これだよ、これが男性というものだよ。たとえ孤児院でフィジカル最強の女だったとしても女性扱いしろ。


 おっと、私は過去を振り返らない女。孤児院での過去を思い出しても意味はない。エスカリテ様の姿や像がありそうな場所を司祭様に聞いてみよう。



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