炊き出しをしよう
「マリア、この組み合わせでスパイスを燻るのか」
「たぶん……」
「これもエスカリテ様の知識か?」
「……ソウダヨ」
「そのエスカリテ様は白猫と話し中と」
「昔の知り合いみたい。普通の猫じゃないんだって」
「そうか。でも、この広場で燻るのか?」
「エスカリテ様たちの話が終わるまで暇だしね」
ルガ王国の王都、その広場でエスカリテ様と猫に転生したギザリア様が話しをしている。さっきまでは私にも聞こえるように話してたけど、今は二人だけで話をしているみたい。話が弾んでいるようなので、今は広場でカレー粉の作成中だ。ガズ兄ちゃんが携帯式の調理用魔道具一式持ってて助かったよ。全部お任せだ。
それにしてもこの猫がギザリア様だとは驚いたね。
エスカリテ様がこの猫をギザリア様だと分かったのは魂が同じだからだとか。ここの言葉だと上手く説明できないらしいけど、魂の性質的な何かが一緒らしい。色とか形とかじゃなくて、魂が同じとしか言えないらしいんだけど、詳しく聞いても理解できそうにないので諦めた。
ギザリア様が亡くなったのはエスカリテ様がブチギレるよりも前の話で、天界で神たちの大きな戦いがあったときだとか。それが大体二千五百年くらい前。エスカリテ様がブチギレたのが二千年前だから、それよりも五百年前ってことだ。
あまり語ってはくれなかったけど、その頃にエスカリテ様はちょうど天界にいなかったらしい。天界に戻ってきたら全てが終わっていたらしいんだけど、その時のエスカリテ様がどう行動したのかは不明だ。エスカリテ様がブチギレしててもおかしくないんだけど、ギザリア様たちを倒した神達はお咎めなしだったみたいなんだよね。勇者さんや魔王さんのときと何が違うのかな?
それはともかく、ギザリア様は亡くなった後、この世界に猫として転生したらしい。と言ってもすぐではなく、千年前くらいだとか。本来、記憶は肉体にあるんだけど、魂に記憶が残っていたみたいで記憶を持ったまま転生したんだとか。私も似たようなもんなんだろうね。
ちなみに、猫とは言っても、神に近い猫で、その辺りの猫とは違うっぽい。基本的に猫と変わらないんだけど、その身体は不老不死に近くて、千年近くずっと放浪していたとか。
エスカリテ様とギザリア様の話が弾んでいるから私は静かにフェードアウト。それに気づいて気を使ってくれたのか、声が聞こえないようにしてくれた。二人ともなんかすごい愚痴を言ってるから戦略的撤退しただけなんだけどね。神様でも共通の愚痴は盛り上がるんだなぁ。
「マリア様」
「リュートちゃん、どうかした? もう、猫を襲っちゃだめだよ」
リュートちゃん、猫に対してはアグレッシブだった。両手で持ち上げて崇めてたからね。元神様なんだから間違いじゃないけど、テストでは点をあげられないくらいの間違いだね。引き離すのに苦労したけど、ようやく私の護衛をしているということを思い出してくれたよ。
「し、失礼しました。ですが、もう大丈夫です。休憩の時間まで耐えます」
「別に休憩まで待つ必要はないんだけど、今はエスカリテ様と話しているからちょっと待ってね。それで何か用だった?」
「ガズ様は何をしているのでしょうか。食欲をそそる香りがしてきたのですが」
「これはカレー粉を作ってるんだよ」
「カレー粉……聞いたことがあります。南にある国で作られているとか。パウダー状のスパイスを混ぜ合わせているだけだと思うのですが?」
「それがカレー粉。個人的に万能調味料だと思ってる。エリクサーに匹敵するね」
「エリクサー……つまり呪病もなんとかできると?」
「冗談だからね?」
でも、このカレー粉をエスカリテ様に祝福してもらえばいけるのかな。カレーを食べて呪病を直すのもありだ。ただねぇ、周辺国との話し合いでこの国を助けるのは最後って話になってるから変なことをするのはよくないんだよね……まてよ? 教団に所属している巫女に文句を言えるかな? しかも今回の呪病を救ったエスカリテ様がやることにケチをつける国があるとは思えない。私が発案だけど、エスカリテ様のお言葉だと言えば大体のことは許されるはず。
くっくっく、私は悪い女。最近、司祭様の聖女にならないかという視線が強いので、この辺りで傍若無人に振る舞って評価を下げておくべきだろう。国の取り決めなど守らない悪女よ。エスカリテ様の信仰心を上げつつ、自分を下げる。そんな風に振る舞えばいいだけの話だ……簡単だね。
「リュートちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「やっぱり宝物庫へ行って金貨を何枚か持ってきてもらえるかな? あと、この書置きも置いてきて欲しいんだけど」
「それは構いませんが、お土産はもう購入されたのでは?」
「お土産じゃなくて市場の食料を買い込んで炊き出ししよう。私は宝物庫からお金を奪うような悪い女だから他国の取り決めなんて守らない。ここ大事だから、よく覚えておいて」
テストでるよ。これであとはリュートちゃんが広めてくれれば、私が望む結果になるはずだ。異世界の諸葛コーメーとは私のことよ。
「……なるほど、そういうことですか」
「お、分かってくれた?」
「はい、では私は護衛なので、他の者に行かせます。少々お待ちください」
「うん、よろしくね。ガズ兄ちゃんも聞いてたと思うけど、よろしくね」
「炊き出しか。だが、この広場には誰も……そうか、このカレー粉の匂いにつられるかもしれないな。仕方ない、料理人として腕を振るうか」
さずがガズ兄ちゃん、頼れるお兄ちゃんだ。でも、王都だから結構人がいるよね、ガズ兄ちゃんだけで大丈夫かな?
「リュート、悪いんだが、見えない護衛達に頼んで、手の空いている騎士たちの料理番たちを呼んでくれないか。それとこの国で飲食業を営んでいる人にも手伝えるならお願いしたいんだが。俺だけだと手が足りそうにない」
「ガズ様、承知しました。すぐに対応いたします」
「俺に様付けなんてしなくていいぞ」
「いえ、マリア様のご家族ですので」
なんか様を付けるか付けないかの攻防が始まったけど、それはいいとして料理は何にするかな。さすがにカレーライスは厳しい気がする。そもそもお米がなさそう――いや、こっちも畜産場にならあるかな? あとはとろみをつけるための小麦粉とか? それにお野菜やお肉も欲しいね……うん、香辛料の買い占めなんて生ぬるい、この市場にあるもの、全て買い占めよう。お金はルガ王国の宝物庫にいっぱいあるからいいよね。
ちょっと暴走気味でした。カレーの香りって人を狂わせるよ。私は悪くない。でも反省はしても後悔はない。
エスカリテ様にカレー粉を祝福してもらったら、その香りだけでちょっと元気になるというんだからすごいよね。そしてお野菜ゴロゴロ、チーズ入り、燻製お肉ちょっぴりのカレーライスを食べれば元気ハツラツってもんよ。福神漬けからっきょうがないのが悔やまれる。
最初はまばらだった広場も今は大盛況だ。やはりカレーは最強。この香りに抗える人など――いや、神様だって無理だね。
『カレーライス、うま! 私はもっと辛めがいいかな。ポップコーンにかけたい』
『酒のつまみにはむずかしいか。ダームルの奴なら喜びそうだけどな』
『ああ、アイツね。創作料理を持ってくるなら味見しておいて欲しいわよね……アイツも悪い神ね! ちなみにギザリアも悪い神だってマリアちゃんに伝えてあるから』
『俺が作った酒は美味いだろ!』
『飲んで暴れて部屋を片付けずに帰ったでしょうが!』
『……覚えてねぇけど悪かった。まあ、大昔のことなんだから大目に見てくれ』
また知らない神様の名前が出てきたけど、料理が得意な神様だったのかな。味見しないで料理を持ってくるのはちょっとどうかと思うけど、悪い神かな……?
「マリア姉さん……」
「あ、みっちゃん。それにアイレダちゃんも。カレーライス食べる?」
「なんかやらかすと思ったけど……宝物庫からお金を持ってったの?」
「私は悪い女だからね。この国の財政なんか知ったこっちゃないよ」
うん、完璧な悪女ムーブ。他国の宝物庫からお金を奪い、勝手に炊き出し。やってることは聖女ムーブっぽくても、誰にも相談せずに宝物庫からお金を奪うのは明らかにダメでしょ。これでプラマイゼロどころかマイナスよ。私は空気を読めない一般庶民です。
とはいえ、本当にお金を奪うのは良くないので、あとで教団からもらえるっぽい褒賞をカリアさんに渡そう。エスカリテ様に怒られたとか言えば、教団が何とかしてくれると思う。これでエスカリテ様の株を上げつつ、私の株は下がったままだ。我ながら怖い策略、今日のカレーは最高に美味いぜ。




