巫女様を助けよう
国を出てから三日後、ようやくルガ王国の王都に着いた。
ようやくとは言ったけど、本来ならもっと時間がかかるらしい。かなりの強行軍だったからかなり早く着いたわけだ。それにルガ王国の大部分が麻痺しているようでほとんど素通りだったからだと思う。一応通ってきた町とかにはエスカリテ様のミニ石像や石鹸を置いてきたからちょっとづつ回復するんじゃないかな。
しっかし、ルガ王国って冷たい印象があるね。人が冷たそうとかじゃなくて、金属製の家が多いからか物理的に冷たそう。ウチの国みたいに自然と調和って感じじゃなくて、前世の工場とか工業地帯って感じだよ。生活感がないってほどでもないんだけど、多くの無駄を省いた結果、遊びがないというかなんというか。住んでいる人たちの服とかを見た限り質素でオシャレとは程遠いから住みたいとは思わないな。まあ、私も孤児院では質素過ぎる生活を送っていたけど。贅沢になっちまったぜ。
王都に着くと魔力が高い人達なのか、動ける人が王都の門で出迎えてくれた。今は城まで先導してくれている。それはいいんだけど、馬車の窓からなんかやけに私に話しかけてきてる。しかもイケメンな男たちが多いよ。ホストクラブか。行ったことないけど。
可憐だとか美しいとか言ってくるけど、節穴かと言いたくなるような誉め言葉だ。成層圏まで行くほど歯が浮いてんぞ。そんなことしなくても石像は置いてくから安心してほしい。過度なお世辞は相手を不快にさせるだけだ。
あまりにもしつこい場合はみっちゃんやリュートちゃんが男どもに威嚇してくれて助かっているけど、なんなのかね、これ。だいたい、まずはみっちゃんが無事に帰ってきたことを喜ぶべきなんじゃないの? それともみっちゃんはもういない者として扱ってんのか? 怒りがまたふつふつと蘇ってきたぞ。
「マリア姉さん、気を付けた方がいいよ」
「え? 何に?」
「マリア姉さんに目を付けたんだよ。この国に移住するように懐柔してくると思う。というか、顔がそこそこの奴らに案内させてる時点でお察し。この国、滅んだ方が良いんじゃないかな」
なんとまあ。エスカリテ様と話ができる私を狙ってるわけだ。前世から含めてそんなこと初めてだよ。まあ、イケメンにはなびかないけどね。筋肉なら危なかった。
でもねぇ、悪いけど、この国に魅力を感じないな。印象でしかないけど、なんかこう活気がないよね。呪病が蔓延しているから仕方ないのかもしれないけど、住民の顔が疲れ切ってる。呪病の影響じゃなくて、お歳を召した方の顔のしわとか見ると昔からそんな感じって気がする。この国、庶民の生活が大変なんじゃない?
……城を見て確信したね。なんだこの豪華絢爛な城は。すんげぇ税金とってそう。
馬鹿でかい庭園に、いくらかかるのか分からない金の像が大量に並んでる。そしてそんなに高くしてどうするんだと言いたいデカい城。しかも呪病でかなり苦しいはずなのに使用人さんたちがずらっと並んでるよ。明らかに顔色が悪いのにここでずっと立ってたのか。
そしてお城の入り口にはこれまた贅の限りを尽くしたような服を着た髭の男性、そしてちょっと若いイケメン二人と、みっちゃんに似た女の子もいる。どうやらこの人たちがみっちゃんの家族で王族なんだろう。みっちゃんの父親、姉、弟二人ってところかな。本人達の魔力が高いから呪病が流行っていても問題ないわけか。
髭のおじさんがこちらに笑顔で歩いてきた。装飾の宝石が重そなう上にじゃらじゃらうるさいんだけど。
「おお、おお、マリア殿、よく来てくださいましたな!」
どうやら私のことを知っている様子。そして私の手を握ろうとしたところで、司祭様やみっちゃん、そしてリュートちゃんが私を守るように動いた。
「ルガ国王、教団から教皇代理として派遣されたフレイです。すぐに呪神モハルト様に仕える巫女、ネロロフ様の元へ案内を」
「王の行動を遮るのは無礼であろう!」
「教皇の代理を無視する方が無礼では? それと嫌になったら拒否して良いと教皇様に言われております。どうされますか、私はどちらでも構いませんが」
「それは……」
「そもそも貴方は巫女に罪を擦り付けようとした。教団はすでにこの国を危険視していますよ。周辺国の要人たちもです。失態を重ねない方が良いと思いますが?」
「……どうやら気が逸ってしまったようだ。すぐに案内させよう」
謝罪はしないんかい。というか、みっちゃんに全く気付いてないのか、見ようともしていない。殴り飛ばしてぇ。まずはみっちゃんに謝るなりなんなりするもんだろうが。もうこの時点でこの王様に対する興味がなくなったよ。
王様はともかくみっちゃんに似ている子はこっちをじっと見ているね。どちらかといえばみっちゃんを睨んでいる感じだけど。
ここに来る間に聞いたけど、みっちゃんとあの三人は母親が違うらしい。というか全員違うとか。みっちゃんの母親はみっちゃんを生んですぐ亡くなったって言ってたな。絵画でしか見たことがないって寂しそうだったよ。それに、みっちゃんのお母さんが亡くなったのは、正妃がなんかやったらしい。この場にはいないようだけど。
みっちゃんのお母さんは位の高い貴族ではなかったようで、正妃からは結構疎まれていたとかなんとか。しかもみっちゃんの方があの子よりも優秀だったのが癪に障ったのか、事あるごとに嫌がらせを受けていたみたいだ。困ったもんだね、血筋よりも行動に価値があるのに。そんなことしてたらご先祖様が泣くよ。
みっちゃんはもうこの国というか血の繋がった家族にはもう何の期待もしていないみたいで、今回ついてきたのも別の目的があるとかなんとか。たしかに期待の薄いことに希望を持っても時間の無駄だよね。私としては納得いかないけど、みっちゃんがそれでいいなら何も言うまい。
そんじゃ、とっとと仕事をしましょうか。
またもやイケメン集団に案内されて城の地下へと進む。地下へと続く螺旋階段、光源は壁に定期的にある松明だけ。ファンタジーの雰囲気がすごいぜ。
それにしてもものすごい大所帯だね。司祭様は来なかったけど、馬車に乗っていたメンバーとガズ兄ちゃんが一緒に来てくれたよ。めっちゃ心強い。こんなところに一人で行けなんて何考えてんだ、あの王様。私は幽霊を怖がる乙女だぞ。物理攻撃が効かない幽霊は駄目だ。
「なぁにが、巫女様一人で、よ。下心が見えすぎて我が親ながら気持ち悪いわ」
「どうしたの、みっちゃん?」
「さっき、地下にマリア姉さん一人で行かせようとしたでしょ。一人になったところで篭絡しようとしているの。絶対に一人になっちゃだめだからね」
「ああ、そういうこと。大丈夫だよ、篭絡もなにも、この国に魅力がないし」
「国じゃなくても異性には魅力があるかもしれないでしょ」
「私、イケメンって苦手。普通の人がいい。普通最高」
イケメンさん達が困った顔をしているけど、こういうのははっきり言った方がいい。交渉すれば何とかなると思っているみたいだから、無駄だぞってアピールしておかないと。イケメンは多くの女性を泣かせているって相場が決まってんだよ。イケメンで誠実? そんな奴はいねぇ。
そんなことよりもまずは呪神様の巫女であるネロロフさんを助けないと。
当然というかなんというか、エスカリテ様による呪詛返しにより、最も被害を受けた人になったらしい。呪病の症状は他の比ではなく、さらに感染源としても強力、魔力を持つ人でも近づいたら感染するほどの状況だとか。すでに食事を運べないほどになっているようで、このままでは死んでしまうとのことだ。
ルガ国王は否定しているらしいけど、ネロロフさんに無理矢理呪いをかけさせたみたいで、本人はすごく気弱な人だとか。ただ、司祭様曰く、贅沢な暮らしや賞賛にころっと騙された可能性は否定できないみたい。まあ、気持ちは分かる。突然すごい力を持って周りがちやほやしてくれたら調子に乗っちゃうよね。宝くじに当たったようなもんだし。私も最近は調子に乗ってるから自重しないと。
そんな戒めを心に刻んでいたら、ネロロフさんがいる最下層に着いた。
こっちにはエスカリテ様の像があるから呪いに関しては完全耐性があるわけで、ここまで来ても誰も感染していないみたいだ。あとは部屋の中にいるネロロフさんの呪病をエスカリテ様が何とかすればいいはず。呪詛返しという呪いのシステムにすら介入して何とかできちゃうエスカリテ様はすごいね。さすがは女神様だ。
『エスカリテ様、大丈夫ですか?』
『大丈夫よー』
『それじゃ開けますよ』
『どんとこい!』
イケメンたちにお願いすると、大きな扉を二人掛かりで開けてくれた。
中は明かりがついているようで、部屋の中央に毛布にくるまって震えている女性がいた。こちらに気付き、私が持っているエスカリテ様のミニ石像を見ると、震えた右手を伸ばしてきた。
「ああ、エスカリテ様……お許しを、どうか、どうか、お慈悲を……このままでは巫女が……私の巫女が死んでしまう……」
んん? 私の巫女?
『かなり弱々しい状態だけど天使が憑依しているわね。人の身体のままだと危険だと判断したのかも。このままでも結構危なそう。マリアちゃん、どうす――』
『すぐに助けましょう!』
そう言って天使が憑依した巫女さんに駆け寄る。そして膝をついて伸ばしている手を取った。すっごく細い。ここしばらく何も食べていないんだろう。可哀想に。
「もう大丈夫ですよ。すぐに治してくれますからね」
「マリア姉さん!」
『マリアちゃん!』
「え? 何?」
いきなりみっちゃんとエスカリテ様に呼ばれたんだけど、なにかあった? 周囲を見ても特に何もないんだけど。というか、全員が驚いた顔をしてるんだけど、何事?
「いきなり飛び出すなんて! 罠かもしれないでしょ!」
「え? 罠?」
『そうよそうよ! いきなり駆け寄るからびっくりしちゃったじゃない!』
なんか怒られてるんだけど、罠って何さ。大体、何も起きてないでしょうに。
「わ、罠などございません……このモハルトの名において誓います……ですので、どうか、お慈悲を……!」
「ほらほら、こんなに言ってるんですからちゃちゃっと治しましょう。みっちゃんも言いたいことはあるだろうけど、反省や謝罪、それに償いなんかは生きているからこそだよ。死んじゃったら何もできないんだからね。まずは生きて腹いっぱいにさせよう。話はそれからだって」
「私の姉さんが聖女みたいなこと言ってる……!」
『私の巫女がいい子過ぎる件について……!』
みっちゃんもエスカリテ様も何言ってんだ? そんなことよりもとっとと治してお腹いっぱい食べさせてあげないとね。ひもじいのはつらいよ。でも、元気になったら殴るかもしれないけどな!




