報復しよう
とりあえず鳩たちをつかって教皇様と司祭様にご連絡。そしてもう一人はエルド様だ。事情を話してルガ王国にかましてもらわないと。私は神様でも働かせる女。たとえ先代王妃様であってもやってもらっちゃうよ。
「護衛さん、いますか?」
私の近くにいるという護衛さん。見たことはないけどいるらしい。こういう場合、私に接触することはないと思うけど、とりあえず話しかけとく。みっちゃんとレダ君――アイレダちゃんには不思議そうな顔をしたけど説明は後だ。
「エルド様にお願い事があるのですが、執事さんを呼んでもらえますか?」
誰もいなかったら悲しい独り言になるけど、たぶんいるはず。みっちゃんのことを聞いていただろうけど、エルド様にお願いしたいというのは初めて知ったはずだ。出て来てくれるかな?
「マリア様」
「うわ、びっくりした。え? どこから?」
いきなりメイドさんが現れた。黒髪の肩にかかるかどうかのウルフカットでクールを通り越して絶対零度的な表情をしているメイドさんだ。需要はあると思う。そういえばカクテルを用意した時にいたような気がする。やはり気配の遮断はメイドさんの必須スキルか。それにしてもメイドさんの護衛か……最高です。
「驚かせてしまい申し訳ありません。今、もう一人の護衛に執事を呼びにいかせましたので、すぐに到着すると思われます」
「ありがとうございます」
「いえ、それでマリア様はどんなお願い事をするおつもりでしょうか?」
ちょっと顔が怖いけど、怒っているわけではなさそう。
「ある程度の事情は聞いていたと思いますが、私と同じ孤児院にいたみっちゃんがルガ王国の第二王女様らしいんです」
「ちょ、マリア姉さん!」
「みっちゃん、私って常に護衛されているからもう聞かれているんだよ。だから隠しても仕方ない。そんなことよりも事情を話して助けてくれる人を増やさないと。もし助けてもらえないなら一緒にどこかへ逃げちゃおう」
「私、その方がいいかも」
「いやいや、何言ってんの、冗談だから」
……はて? なんでメイドさんが両手をこちらに向けてアワアワしてるの? 顔は無表情なのに、慌ててる……? まさかポンコツ属性も持ってんのかな?
それはともかく、私にすんごい力があれば私だけで色々やるけど、そんな力はないんだよね。皆に助けられてなんぼの一般庶民だよ。でも、手札は多いと自負してる。しかもジョーカー揃い。巫女ってすごいんだぞ、伝手が。
「失礼しました。ミシェル様のことは聞いておりました。すぐに主や執事にも伝わる手筈です。呼びに行かせた者も聞いておりましたので」
「仕事が早くて助かります。それでみっちゃんが呪われていることが判明しました」
「はい。その呪いを撥ね退けたようですが」
「エスカリテ様のおかげでなんとかなりました。それはそれでいいのですが、ルガ王国には私の妹に酷いことをした報いを受けさせる必要がありますので、エルド様のお力を借りたいと思ってます」
悪いことはしちゃいけない。たとえどんなに苦しくても、悪いことは駄目だ。それはいつか自分に返ってくる。だけども、報復は問題なし! それにやられたままだと相手が調子に乗る。これ、辺境で学んだ。ウチの孤児院の子がいじめられたのなら、全員で仕返しじゃい!
「報復を頼むおつもりですか?」
「内容は決まっていませんが、駄目ですかね?」
「私に判断をすることはできません」
「個人的な意見でもいいんですけど」
「国や領地に実害のない状況では難しいと思っております」
確かにエスカリテ様が解決しちゃったから実害がない。エルド様のお力を借りるのは無理かも。少なくとも抗議はできないか。実害がないし、変なことを言えばこちらが抗議されるかもしんない。向こうの国のみっちゃんの扱いがどうなっているのかも分からないからなぁ。
でも、呪詛返しだけじゃ気が収まらない。慰謝料分の報復はしたい。せめてルガ王国へコスメを輸出しないようにしてもらうとかできないかな。執事さん経由でルガ王国の王妃が欲しいと言ってたって聞いたんだけど。
『マリアちゃん』
『エスカリテ様、どうしました?』
『この情報で国が動くかどうかは分からないけど、ここでみっちゃんの身体が崩壊してたら、この王都全体に呪病が振りまかれてたよ。しかも致死率高め。七割は助からないと思う』
『へぇ……ええ!?』
『みっちゃんの身体にかなり呪病が溜まってたからね。しかもみっちゃん魔力の生成力や上限はかなりのもんだから呪いの期間と相まって、ものすごい威力と範囲だったと思う。神様でも引くね』
『……なるほど。そんなことになってたら国は大変ですよね?』
『もちろん大変ね』
『実害がなくとも国として抗議してもらわないといけませんよね?』
『私の巫女が危険だったんだから、女神としても抗議しちゃうわね!』
よし、エスカリテ様の保証付きならなんとかなるんじゃないかな。それにルガ王国が関わっている証拠は結構ある。まあ、エスカリテ様の保証があるなら証拠なんてなくても教団に働きかけてごり押しするけどな!
でも、まずは客観的な状況も含めて説明だ。
「エスカリテ様が言うには、みっちゃんが呪われたままだと、いつか呪病を振りまいたそうです」
「はい、そのお話も聞いておりました」
「ここで起きた場合、王都まるごとです。七割の人が亡くなった可能性があります」
「……」
メイドさんの頬が少しだけ動いた。みっちゃんとアイレダちゃんはものすごく目を見開いているけど。
「実害はなくとも、その威力はエスカリテ様がが保証してくれてますので、国として抗議するべきだと思いますが、いかがでしょうか?」
「その通りだと思います」
「それにみっちゃんにはアイレダちゃんという護衛がいます。ルガ王国から送られてきました。五年くらい前だったでしょうか」
「はい」
「どこかの第三者がみっちゃんを呪うとは思えませんので、呪いはルガ王国がやったことでしょう。呪神という神様もいますし可能性は高いでしょうね。ならばルガ王国はみっちゃんがいつか呪病をふりまくことを知っていたと思うんです。むしろそれが目的だったと思います」
みっちゃんには酷な話だけど、たぶん、そういう目的でこっちへ送ってきた気がする……あれ? でも、みっちゃんって魔物がいる森に捨てられちゃったんだっけ? それなら森で死んじゃう可能性の方が高かった?
『エスカリテ様、その、嫌な仮定なんですけど、みっちゃんが魔物に襲われて亡くなった場合はどうなります?』
『そのときまで貯め込んだ呪病が振りまかれるはずね。さっき言ったほどの威力はないけど、それでもそこそこな威力になると思う』
私のブチギレカウントダウンがすでにマイナスなんだが? あまりにもキレすぎて逆に冷静になっている感じだよ。今ならどんな酷いことでも笑ってできそう。しないけどさ。
「マリア姉さん」
「あ、ごめん、みっちゃん、辛いとは思うけど――」
「そうじゃなくて、私、この国に嫁ぐ可能性があったの」
「え?」
「私がこの国、しかも王族の近くで呪病を振りまくことを狙っていたと思う」
そんな悲しいことをみっちゃんが言った。でも、表情は絶望とか放心とかじゃなくてみっちゃんは怒りに震えている感じだ。うん、怒るべき。私も一緒に怒る――いや、孤児院の皆が一緒に怒るね。
「たぶんだけど、この国の王族との婚約がなくなって、私が邪魔どころか危険になったんだ。だから森に捨てた……そっか、生きてたから帰ってくるか心配になって監視役にアイレダを寄越したんだ……!」
みっちゃんの話を聞いてアイレダちゃんも息を呑んでいる。護衛じゃなくて監視役か。たしかにあり得そう。でも、それってみっちゃんが呪病を振りまいたら、近くにいたアイレダちゃんも一緒にってこと……?
やべぇ、暴れてぇ。前世で付き合った男どもと同じかそれ以上の怒りを感じる。こりゃ、先生にもお出ましいただくか。これを聞いたら先生も怒るだろうし、怒った先生なら城の一個や二個、すぐに落とせそうな気がする。ドラゴンよりもヤバいって言われている先生の力を見せつけてやりてぇ。
しかし、いくらなんだってそんなことをするかね。ルガ王国の王族全員とは言わないけど、やった奴は人として終わってるとしか言いようがない。だいたい、みっちゃんは第二王女。なら親である王様が状況を知らんわけがない。理由があったとしても血のつながった家族にそんなことするなんて。
『こういうことを考える奴って……』
『エスカリテ様?』
『ううん、ごめん、なんでもない。それよりもみっちゃんのことよ! マリアちゃんの家族に酷いことをしてたなら、私に喧嘩を売る行為よ! ぶっ飛ばしてやる!』
『ぜひお願いします。今回の件、私の怒りゲージが上限突破ですよ。可愛い妹にそんなことしたなんて、許すまじ!』
呪詛返しでなんらかの被害を被ったとは思うけど、そんなもんじゃ全く気が晴れない。もっとボコボコにしてやりたい。こちとら異世界転生様で巫女様だぞ。売られた喧嘩は五割増しで買い取りじゃい! 次回使えるクーポンもつけてやるっての!
『それにしてもマリアちゃん、すっごく怒ってるわね』
『時系列的に後の話になっちゃいますが、私の家族に酷いことしてたんですよ。地獄の業火で焼いても物足りないですね。むしろ極寒地獄と行ったり来たりさせます!』
『こわ。でも、賛成よ!』
最初は嫌がらせ程度にしようと思ってたけど、ぜってー許さんと決めた。こんな小さな子にそんな非道なことをするなんて。しかも私の妹だぞ。どんな手を使ってでも報復しちゃるわい!




