事情を聞こう
「みっちゃん、落ち着いた?」
「うん。もう平気」
ちょっと放心気味のみっちゃんを何とか椅子に座らせて、ガズ兄ちゃんが作ってくれた作り置きのチョコを温めて飲ませたら元気になったみたいだ。やはり甘いものは偉大。どんなときでも甘いものだ。ここはポップコーンもいっとくか。最近、鳩たちもグルメになって味の要求が上がってきたから色々な味を研究中だ。香辛料を使ったスパイシーなポップコーンを食らうといい。
それにしてもレダ君はいい彼氏だね。さっきからみっちゃんのそばに付きっきりだ。色々と聞きたいことがあるだろうに、みっちゃんの体調というか精神の回復を優先しようと寄り添っている。私もこういう彼氏が欲しいよ。どこにいんだ。
『マリアちゃんさぁ』
『なんです?』
『さっきからレダって子を見る目が羨ましいって感じなんだけど』
『バレましたか。いいですよね、こういう心に寄り添ってくれる彼氏。前世だと私のお金に寄ってくる奴ばかり――』
『女の子だけどね』
『え? いきなり何の話です?』
『そのレダって子が女の子って話』
「はぁ?」
おっと、口に出して驚いてしまった。空気を読まない私の驚きに二人の目が痛いよ。でも、エスカリテ様のせいだ。だいたい何を言っているのだろうか。レダ君は儚げ系メガネ男子のイケメンだぞ。確かに儚げだし、中性的な顔立ちだし、筋肉も少ない。それでも女性には思えないんだけど……そう言われるとなんとなくぼやけてる?
『なんかはっきりしない感じもしますけど、本当に女の子?』
『眼鏡が認識阻害の魔道具になってるのよね。神の目は欺けないわ!』
『認識阻害?』
『魔法で男性のように見せてる感じ。魔力が高ければ見破れると思うけど』
『庶民中の庶民である私に魔力なんてあるわけないじゃないですか』
ソナルクさんみたいな例もあるけど、基本的に魔力持ちは王族とか貴族。魔力って血筋が影響するっぽいんだよね。もしくは突然変異的な何か。だから魔力を持たない両親から生まれる子が魔力を持つのは百人とか二百人に一人くらいの割合らしい。
いやいや、そんなことはどうでもいいんだよ。問題はレダ君が女性ってことだ。というか、みっちゃんも呪われているし、どういうことだろう。まあいいや。聞けばいいだけのことだよ。こういう時は空気を読まない。
「レダ君って女の子なの?」
二人ともむせた。いきなりすぎたかな。でも、こんなのはいつ聞いても同じだよね。コップに水を注いであげた。二人そろってゆっくり飲んでいるけど落ち着いてくれたかな。
「マ、マリア姉さん……?」
「エスカリテ様が教えてくれたんだよね。あ、別にダメってわけじゃないよ。そういう関係だったとしてもお姉さんは応援する」
「ちっがうわよ!」
「え? 違うの?」
「全然違うってば!」
みっちゃんが頭を抱えて首を横に振っている。珍しいこともあるもんだ。でも、いつものみっちゃんが戻ってきた感じだ。なら色々と事情を聞いた方がいいよね。
「みっちゃん」
「……なに?」
「なにか複雑な事情があるの?」
「……」
もともとみっちゃんは訳ありだと思ってた。しかも呪われてて、彼氏だと思ってた子は女の子だ。どういう状況なのか私にはさっぱりだけど、少なくとも私や孤児院の皆を騙そうとかそういうのはないと確信してる。事情を知られたくないから話せないだけ。それはいままで一緒にいた私が保証できる。
「わかった。みっちゃん、言わなくていいけど、これだけは覚えておいて。私や孤児院の皆はみっちゃんの味方だからね。ずっと寝食を共にして暑い日も寒い日も魔物が襲ってきた日も一緒に乗り越えてきた家族なんだから、なにかあったら遠慮なく言うんだよ」
みっちゃんがすがるような目でこっちを見ている。しかも泣きそう。私はこういう目に弱い。強い奴なんていないと思うけど。
「無理しなくていいから――」
「ミシェル様、マリア様に聞いていただきましょう」
「で、でも……」
「マリア様たちはミシェル様の正体を知っても変わりません。それはミシェル様が一番よく分かっているはずです」
「う……」
おお、いつもはみっちゃんに振り回されている感じのレダ君が押している。というか、今考えると主従関係なのかな。
「マリア姉さん、あの、ね……私――」
みっちゃんがぽつりぽつりと話を始めた。
そして衝撃の事実。みっちゃんは隣国、ルガ王国の第二王女様だった。国の境目になってる森に捨てられて、さまよっていたところを先生に保護されたとか。あんな魔物が徘徊するような森で良く生き延びたよ。しかも捨てられた理由が、魔力がないから。そんな理由で十歳にもなってなかったみっちゃんを森に捨てたわけだ。
言えなかったのは私達を巻き込みたくなかったのと、ルガ王国はもう捨てているから。最初のころはルガ王国へ引き渡されることを恐れて言えなかったけど、今は孤児院にいられなくなると思っているから言えなくなってしまったとか。
そしてレダ君の本名はアイレダちゃん。ルガ王国から送られてきた護衛の立場らしいけど、そもそも守ることを期待されていないことが分かったみたい。なのでアイレダちゃんもルガ王国に帰るつもりはなく、みっちゃんに仕えることにしたらしい。
なるほどなるほど、そういう事情があったわけだ…………おうおうおう! うちの子たちになにしてくれてんじゃい! 正確にはアイレダちゃんは孤児院の子じゃないけど、もう、うちの子だ!
私の中でルガ王国の王族はもう敵だね。エスカリテ様や教団の力を借りて色々やる。それにカクテル、チョコレート、コスメ、それにエスカリテ様のミニ石像とか私が関わったものは絶対に売らん。むしろ滅茶苦茶嫌がらせしてやる。
でも、ちょっとおかしいところがある。
「みっちゃんは魔力があるよね?」
「魔力を測定する魔道具があるんだけど、小さい頃に測っても魔力がなかったから」
『ちょっといい?』
『エスカリテ様? どうしました?』
『たぶん、呪病に変換されてたから魔力がないって判断されたんだと思うよ』
『ああ、そういうことですか』
常に魔力が呪病に変換されていたから魔力がないと判断されたわけだ。しかもそのせいで危険な森に捨てられたわけか。はい、来た。嫌がらせのレベルを一段上げます。そして私のブチギレカウントダウンはかなりスピードアップしたね。激甘チョコレートでも止められねぇな!
「エスカリテ様の話だと呪いのせいらしいよ。魔力を測る前に呪われたのかも」
「そうなんだ……たぶん、王位継承権絡みで正妃の派閥あたりが何かしたのかも」
おっと、王位継承権ですよ。詳しくは知らないけど、女の子のみっちゃんも王になれる可能性があったのかな。それを魔力がないってことにされて追放されちゃったと。どこの主人公だ。
『あー、首謀者に隕石でも落ちないかなー』
『もしかして私にやれって話?』
『やっぱり無理ですかね?』
『もっと信仰心があればやれないことはないけど、そんなことしなくても大丈夫よ』
『なんでです?』
『呪いの説明をしたと思うんだけど、あれは術者がリスクを負って制限を強くしているの。その呪いが解けた以上、そのリスクが術者に降りかかるのよ。ちなみに術者っていうのは依頼者も含むんだよね』
『おー、なるほど』
いわゆる呪詛返しってやつかな。因果応報、ざまぁ案件、人を呪わば穴二つ……立派な墓穴ですねって笑顔で褒めてやりたい。
『呪いがかなり長い期間だったし悪質だから、その辺りが反映されて、いまごろは大変な目に合ってるわね』
『呪いって素晴らしいシステムですね』
『これは等価交換的なあれよ。あと、たぶんだけど、これって天使が絡んでると思う。どこかの巫女がやったんじゃないかな』
『そういえばルガ王国に呪神とかいました。たしか呪神モハルト様だったかな』
『呪いといえばサイザだけど、アイツの天使かもね』
『サイザというと……?』
『私がぶっころした神ね。アイツは問答無用で悪い神! 性格も悪い!』
『あ、はい』
どうやら勇者さんや魔王さんを操った神様の一柱らしい。像が見つかったら念入りに破壊してもらおう。
それはともかく、今は呪神と巫女、そしてルガ王国だ。司祭様や教皇様、それにエルド様にお願いして二度とこんなことができないように牽制してもらわないと。エスカリテ様にも頼んで呪神を名乗ってる天使に釘をさしてもらおう。物理的でも可!




