みっちゃんが来た
数日であっという間に王都で石鹸が広がったね。しかもお安い。魔力を操る繊細さで石鹸の品質が変わるから、ソナルクさんが作るような石鹸はそれこそ貴族御用達だけど、魔力の扱いが雑な錬金術師さんもいるわけで、そういう人たちが作った石鹸は結構お安い。今は公衆浴場には無料で備え付けだ。ちなみに公衆浴場でコーヒー牛乳を売ったら結構売れたらしい。そういうのはどの世界でも変わらないね。
そんなわけで王都の人達の肌はかなり綺麗だ。他の領地や他国から来ている人もいるみたいで、石鹸をお土産に買っていく人も多いとか。しかもあのレシピに色々な香りをつけてアレンジしているらしく、ちょっとした石鹸ブームが来てる。
かー、経済回しちゃったかー。結局私は儲からなかったけど、まあいいか。綺麗に洗えるだけで十分です。
ちなみに錬金術師ギルドからレシピは公開せずにギルドが管理するとか、なんか寝ぼけた提案をされた。しかも使用料を逆ぼったくりかというほど低く設定されたよ。でも、私は巫女だし、この国の最高権力者に近い人が付いているからね。そんなことをすれば色々なところからお叱りを受けるわけで、錬金術師ギルドが潰されそうだった。権力って素敵。
潰れはしなかったけど、かなりのお叱りを受けたそうで、主犯というかレシピの独占を強行しようとしたギルド長はすぐにクビ。王族の息がかかった人がギルド長になった。そしてソナルクさんは王宮錬金術師にはならず、錬金術師ギルドに好待遇で雇われることに。もともと冒険者は向いていなかったとかで滅茶苦茶感謝されたな。私は何もしてないけど、有能な執事さんが色々と手をまわしてくれたんだろう。
そんなこんなで私も石鹸の恩恵を受け、ちょっとだけ美肌に。魅力値が上がっちまったぜ。さらにはシャンプーとリンスというこれまた極上の物をソナルクさんに作ってもらって髪の艶もいい。ナンパどころか求婚されたらどうしよう……ねぇけどさ。
『最近の王都は綺麗な子が増えたよねー』
『ミナイル様のレシピのおかげですね』
『そうかも。おかげでカップルが増えたから、ミナイルは許してやるわ!』
『別に喧嘩してたわけじゃないのに』
容姿を褒めないと殴り掛かってくる神様とかちょっと勘弁してほしいが、昔話をするエスカリテ様の声は結構嬉しそう。友達というかなんというか、なんでも言い合える間柄だったんだと思う。
やろうと思っていたことは終わったから、そろそろパレードの準備をしないとね。特に面倒な準備を私がするわけじゃないんだけど、馬車に乗って中から手を振るようなことを巫女がしないといけないとか。それくらいはしてもいいけど、ちゃんとした礼服というか、巫女の正装みたいなものがあって、その準備が必要なんだよね。
新米巫女としてはそんな正装を持っていないので、現在作成中なんだけど仮縫いを何度もしないといけない。今日もこれから大聖堂に行って服の調整をしてこないと。掃除も終わったし、そろそろ行こうかな。
『ねぇねぇ、マリアちゃん、何かすごい子が教会に向かって来てるわよ?』
『え? すごい子?』
『うん、なんか大変なことになってる子』
『大変なことになってる?』
さらに聞こうとしたことろで、どこかで聞いたような声が聞こえてきた。
「ちょ、痛! なんでこの鳩たちは襲ってくるの!? あれ、アンタ、孤児院に来た鳩に似てない!?」
そんな言葉のあと、教会の入り口にあるドアが音を立てて思いきり開いた。
「マリア姉さん!」
「え? みっちゃん?」
「久しぶり! マリア姉……さ……ん……?」
みっちゃんはふわふわな感じ茶色の髪を肩までのばしていて、ザ・女の子って感じの美少女だ。同じ孤児ではあるけれど、どう考えても訳ありな感じ。頭もいいし、レスバ強い。孤児院で泣かされた子がどれだけいるか。私は武力で泣かせてたけど。
そんなみっちゃんがなぜか目を見開いて私を見ている。たぶん、私も驚きの顔をしていると思うけど、そこまでじゃないぞ。
「ちょ!? なんで!? 太った!?」
「おう、喧嘩か? 喧嘩売ってんのか?」
「ち、違うってば!」
おっと、よく考えたらあんなにガリガリだったんだから、太ったと思われていいんだよ。まだ標準的な体重よりも軽いし、栄養が足りないしね。だが、女の子に太ったなんて、宣戦布告もいいとこだぞ。
「最近、食生活が改善されたんだよ。孤児院でもそうでしょ?」
「ああ、うん、そうだけど……マリア姉さん……」
「何? 真面目な顔をして」
「マリア姉さんはもっとガリガリな方がいいよ」
「いいわけないでしょ」
だから栄養が足りてないんだってば。前は孤児院の子のために食事は誰よりも最低限だったけど、お金を稼げるようになった今ならちょっとくらい贅沢しても問題なし。お腹がすく時間が減っただけで幸せってもんよ。
「そ、それに、肌が綺麗すぎる! 髪もサラサラだし! なに贅沢してんの!?」
「巫女になったんだからこれくらいは許してよ」
「ダメダメ! 変な虫が――じゃなくて、マリア姉さんはもっとガリガリで髪もぼさぼさで、ちょっと汚いくらいがいいんだって! 顔とか洗っちゃだめだよ!」
「いいわけあるかい。もしかして喧嘩じゃなくて戦争か、こら。ああん?」
みっちゃんが情緒不安定。もしかしてイケメン彼氏とうまく行ってないのか。そもそもどうやって王都まで来たんだろう?
そう思ってたらみっちゃんに遅れて男性が入ってきた。
「マリアさん、お久しぶりです」
「レダ君、久しぶりだね」
みっちゃんの彼氏、レダ君が教会へ入ってきた。中性的な顔立ちがイケメン具合を増してるぜ。でも、なんとなく、微妙な感じというか、ぼんやりした感じにも見える。銀髪の長髪に眼鏡だからかな。最近、ソナルクさんといい、眼鏡かけてる子が多い。眼鏡ブームか。嫌いじゃないです。
でも、ピンときた。なるほどレダ君と王都でお泊り旅行か。今では孤児院もお金が増えたから別にいいけど、大人として言っておかねばならぬことがある。
「みっちゃん、レダ君。お金はかかっても部屋は別々に泊まるんだよ」
「何言ってんの?」
「子供でも男女が二人きりで同じ部屋に泊まるなんてダメだからね!」
「いや、だから何言ってんの!?」
みなまで言わさないで欲しい。孤児院でも男女別の部屋で雑魚寝なんだけど、お年頃の男女が二人きりで同じ部屋なんてお姉さんが許しませんよ。そんな保護者ムーブをかましちゃったけど、本当に何しに来たんだろう?
「二人で来たのは分かったけど、何しに来たの?」
「マリア姉さんが心配になって来たんだよ!」
「心配かけるようなことってあった?」
「あれだけお金を送ってきて何言ってんの!」
詳しく聞いてみると、孤児院からすれば、この一ヶ月くらいでものすごい量のお金が届いたわけで、何やってんだと心配になったらしい。しかもエスカリテ様の鳩経由だからね。巫女になったとかも本当かどうか確かめに来たとか。確かに自己申告しかないけど、そこまで信頼されてないの?
「本当に悪い事とかしてないよね……? というか、教会が綺麗すぎない? いくら巫女だとはいってもそんなにお金はないと思うんだけど?」
「最近、色々あって建て直してもらったんだよね」
本当に色々あったな。というか、現在進行形だけども。おっといけない、服の仮縫いがあったんだ。みっちゃんが来てくれたのは嬉しいけど時間厳守、五分前行動だ。そういえば、正確な時間って分からない。広場にある鐘の音だけが基準だった。これは時計を作るのもありかな。まあ、それは後だ。
「みっちゃん、せっかく来てくれたんだけど、私、この後、用事があるんだよ」
「用事って?」
教皇様の歓迎式典とパレードに参加する必要があって、その服を作るために大聖堂へ行かなければいけないと説明した。なぜかみっちゃんは難しそうな顔をしているけど、どうしたん?
「私も行く」
「え? なんで?」
「ダメなの?」
「別にいいけど、つまらないと思うよ。それよりもレダ君と王都でデートでもしてたら? それともガズ兄ちゃんの店に行ってみる?」
「ガズ兄さんのところは後で行くけど、今はマリア姉さんと一緒の方がいい」
ういやつめ。おこづかいをあげたくなる。逆にレダ君涙目……ってわけでもなく、普通に微笑んでいる。確か、私の一つ下だけど、私よりもずいぶん落ち着いているね。まあ、尻に敷かれている感じもあるけど。それにみっちゃん、言葉が強いから、たまにひやひやしちゃうよ。失ってから大事だったと思うことってあると思うぞ。前世だと失って初めて幸せを取り戻したってことが多かったけど。
『ねぇねぇ、マリアちゃん』
『どうしました?』
『このレダって子なんだけど』
『みっちゃんの彼氏です。儚げ系イケメンですよね。あとつけて魅力が二割増し、外して三割増しのメガネ男子ですよ。おっと、その前にこの子が孤児院で一番仲が良かったみっちゃんです』
『ああ、うん、話の流れでその辺りは分かってるんだけど二人とも……まあ、いっか。人生、色々あるよね』
なんかよく分からないけど、納得してくれたみたいだ。さて、私も忙しいしちょっくら準備して大聖堂へ向かおう。
王都を歩いていても、さっきからなんかみっちゃんの行動が情緒不安定。王都に初めて来たから浮かれているのかなとおもったけど、そんな感じじゃなくて、なにか周囲を気にしているみたい。お土産でも頼まれているのかもと思って観光スポットやお土産になりそうな物を教えたけど食いつきはよくない。本当に大丈夫かな。
みっちゃんを気にしてたらいつのまにか大聖堂に着いてた。大聖堂そのものには興味がなさそうだけど、三年後に洗礼を受けるわけだし、場所を知っておくのは悪くないと思う。
「マリアさん」
「こんにちは、司祭様」
大聖堂の受付で手続きをしていると司祭様がやってきた。最近、司祭様によく会うけど、イケメンにはいつまでたっても慣れないぜ。イケメン無効スキルとか欲しい。
「今日はお連れ様がいるんですね」
「辺境の孤児院から来てくれまして。こちらはみっちゃん――じゃなくてミシェル、こちらはその彼氏さんでレダ君です」
「初めまし……!?」
「……!?」
「……!?」
はて? なんか、三人ともお互いを見て固まってる気がする。あれか、いきなり三角関係が発生してんのか。みっちゃんは罪な女だぜ。でも、三角関係なんて創作ならともかくリアルはただ面倒なだけだぞ。




