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女神(邪神)様はカプ厨!  作者: ぺんぎん
第二章

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レシピを公開しよう

 

 朝からやってきた執事さんを客間に招き、紅茶を振舞う。安い紅茶だけど、うちじゃかなり頑張った紅茶です。


 しっかし、権力者の情報網は怖いぜ。昨日作ったばかりの石鹸のことがばれてるやろがい。お仕事ができる受付嬢のルルさんが勝手に言うとは思わないから、ギルドにいた誰かかな。せっかく個室でやってたのに情報提供者がいんのか。エルド様の執事さんなので悪いことにはならないと思うんだけど警戒度が上がったよ。


 そんな気持ちが顔に出ちゃったのか、執事さんがかなり慌てた様子で頭を下げてきた。


「マリア様、申し訳ありません」

「あ、えっと、こちらこそ、すみません、嫌な顔しちゃいましたね」

「いえ、当然のことだと思います。実は――」


 執事さんの話だと、私の周囲にエルド様が護衛を付けてくれているそうだ。しかも私にばれないように。あのカクテルのレシピといい、私は色々なところから狙われる立場であるとのこと。神に仕える巫女に対して悪意を持って近づく相手には教団がなんとかしてくれるが、それでも間に合わない場合のための護衛らしい。いつの間にかVIP扱いでした。


「マリア様がご不快になる気持ちは当然です。ですが、たとえマリア様に嫌われてもお守りしなければならない方だと主は言っております。石鹸の件ですが、すでに冒険者ギルドから錬金術師ギルドや商人ギルドに情報が行き渡っておりまして、その牽制も兼ねて先にお声掛けさせていただきました」

「そうだったんですか」


 前世の世界を知っている私からすると文明的には低いように思えるけど、そんなことないね。ネットもないのにもう情報が出回っているんだ。異世界ってすげぇ。しかも執事さんの話だとルルさんやソナルクさんにも護衛が付いているとのこと。仕事が早すぎて怖いよ。


「そこでマリア様の許可があれば、ソナルク様には宮廷錬金術師の職を与えたいとのことです」

「宮廷……え? 王宮勤めってことですか?」

「はい、ソナルク様はマリア様を通してエスカリテ様からの知識を与えられておりますので、国としても見過ごすわけにはいかないと」

「ちょ、ちょっと待ってください、それはさすがに本人の意思を確認してもらいませんと。そもそも他国の方ですし」

「そのあたりはどうとでもなるかと。いえ、どうとでもします」


 こわ。マジこわ。知り合って間もない人だけど、さすがにそれは見過ごせないぞ。しかも原因が私じゃないか。


「いくら何でもそれは駄目です。具体的には聞きませんけど、怖い方法を使って説得するってことですよね?」

「怖がらせてしまって申し訳ないです。ですが、保護しなければ、悪人に捕まってしまう可能性が高いでしょう。検証の最中だとは思いますが、おそらくその石鹸は貴族や商人で争奪戦になるかと。それを作ることができるソナルク様に何もしないわけがありません」

「ああ、なるほど……」


 いかん。私がやらかしただけじゃなくてソナルクさんにも迷惑をかけてしまった。まいった、コスメが欲しいって私利私欲のために巻き込んじゃったよ。それならエルド様に保護っていうか宮廷錬金術師になってもらった方が安全かも。王族にも伝手があるらしいエルド様にお願いするしかない。お金儲けの匂いがするなんて言ってる場合じゃなかった。


 ……ん? そもそも独占するから問題なのでは? レシピを公開すればいいじゃないか。あのカクテルに関しても店長さんが同業者に教えているっていうし。お金儲けはしたいけど、それで危険な目に遭うのは嫌だしね。


『エスカリテ様、話を聞いてました?』

『もちろん聞いてたよ。色々と大変なことになってるわねー』

『石鹸のレシピって公開してもいいですか?』

『え? ああ、そういうこと。別にいいわよ。ミナイルは嫌がるかもしれないけど、私に褒めることを強要した罰よ!』

『それじゃ決まりですね』


 ミナイル様か。ならお礼に像を見つけたらここに飾って祀ってあげよう。ちゃんと磨くので許してもらいたいところだ。


「石鹸のレシピは公開することにします。錬金術師ギルドにそう伝えればいいですかね?」


 冷静沈着が売りの執事さんが目を見開いている。


「あ、あの、マリア様?」

「独占しようとするからソナルクさんが狙われるんですよね? だったら錬金術師なら誰でも作れるようにすれば安全ですよ。ああ、もちろん、宮廷錬金術師に関しては打診してください。本人がやりたいなら止める理由がないので」

「し、しかし、石鹸は多くの利益を生むかと……」

「それで危険な目に遭うなら意味がありませんから」

「それはそうですが、主は国の事業としても期待しているところでして」


 国の事業? もしかして石鹸をたくさん作って他国に輸出する感じにするつもりだったのかな。でも、石鹸はもっと庶民的なものにしてほしい気がする。ここは屁理屈をこねてでも説得しよう。


「利益というなら庶民の生活改善に使った方が良いと思います」

「生活改善……ですか?」

「不衛生だと病気になる可能性が高いですからね、石鹸で毎日体を洗えば衛生的になって病気で亡くなる人も減るかと。長期的に見た国の利益という考え方になりますが」


 自宅に浴槽があるのは貴族やこの教会くらいだけど、公衆浴場とかでも手軽に使えるようになったらいいんじゃないかな。前世の感覚でしかないんだけど、石鹸は安くて手軽に手に入るものだったから、それくらいの価値になってくれたらいいと思う。


 この世界、医学的なことはあるけど、基本は魔法でどうにかすることが多い。庶民だとお金を払えずに治せないとかあるし。せめて衛生的な生活をおくることができれば多少は病気を防げると思う。錬金術を使わない石鹸もあるけど、そっちはいまいちだからね。


「そういう考えがございましたか。マリア様は素晴らしいですね」

「ソナルクさんに迷惑をかけたくないだけですよ」

「いえ、たとえそうであっても手に入る利益を簡単に手放せる方はいらっしゃいません。そして目先の利益や個人のことだけでなく、国の将来的なことまでお考えとは……主がおっしゃる通りお守りしなくてはいけない方ですね」


 なんかめちゃくちゃ感銘を受けている感じなんですけど、そこまでのことかな?


「石鹸の件、主に伝えさせていただきます。きっとマリア様の考えにご賛同いただけるでしょう」

「助かります。ただ、石鹸以外のレシピもありますので、そちらは改めてご相談させていただけましたら」

「なんと。では、そちらも主に伝えさせていただきます」


 狙われても大丈夫な錬金術師さんを紹介してもらおう。ソナルクさんがいたから冒険者ギルドでは依頼しなかったし、エルド様に頼めば無料だぜ。宮廷錬金術師とかを紹介してくれるかも。


「では、朝から失礼いたしました。お話いただいたことはすぐに主に伝えますので」

「はい、よろしくお願いいたします」


 執事さんが席を立った。外までお見送りしようと礼拝堂を通ると、執事さんが止まった。そしてエスカリテ様の像を見て微笑む。


「まさかこの像がエスカリテ様の像だとは想像しておりませんでした」

「え?」

「じつは主の部屋にあった像なのです。この像を手に入れてから国が栄え始めました。名もなき聖女の像という名前でしたが、それがエスカリテ様の像で、今はそのエスカリテ様がこの国に多くの恩恵をもたらしてくれていると思うと感慨深いものがありますね」


 執事さんはそういうと、エスカリテ様の像にゆっくりと丁寧なお辞儀をした。


 この像って司祭様の祖母さんが持っていたんじゃ? それがエルド様ってこと? あれ? この像はやんごとなき方が買ったんだよね?


『カクテルを作ってあげた上品な貴族が王族ってこと?』

『年齢から考えると、先代国王の王妃様ってことですかね。たしか、名前は……そうだ、エルドンナ様だ。詳しくは知りませんけど、女傑って聞いたことだけはあります。ああ、だからエルド様かぁ』

『高位貴族じゃなくて、王族だったのねー』


 そりゃ、王族に伝手があるわけだよ。うん、知らなかったことにしよう。あの方は高位貴族の奥様ってだけだ。そもそもちゃんと紹介されたわけでもないし、勘違いしたままでいよう。向こうからもちゃんとは紹介されてないし、その方が良いと思っているはずだ。たぶん。


「マリアちゃん! おはよう! いる!?」

「た、助けてくださーい!」

「え? ルルさんとソナルクさん? どうしました――うっわ」

「あの石鹸なんなの!? 肌がつるんつるんだんだけど!? というか、ギルドで石鹸を寄越せって受付の子達が襲ってくるから助けて!」


 美人なルルさんがさらに綺麗になってて怖いくらいだ。それにソナルクさんの肌も美肌になってる。どうやらこれを見て石鹸の争奪戦がギルドで始まったようだ。こりゃすぐにでも錬金術師ギルドにレシピを渡さないと駄目かも。


「あの、執事さん、申し訳ないのですが、錬金術師ギルドに伝手があったりしますか? すぐにレシピを公開するように手配してもらえたら助かるんですが」

「承知いたしました。すぐに手配いたします。あと、可能であれば石鹸を一つお譲りいただけないでしょうか? 主に効能を確認していただきますので」

「あ、はい。材料さえあれば、ソナルクさんに頼んで作ってもらえますので」

「すぐにご用意いたします」


 やれやれ、今日も忙しくなりそうだなぁ。


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