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女神(邪神)様はカプ厨!  作者: ぺんぎん
第一章

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時間を稼ごう


 馬車に揺られて十分、王都でも最高級の宿に案内された。こういうのって教団か戦神マックス様への寄付金で払うんだよね。いやー、ないわー。こんな贅沢するお金があるなら別のことしたい。だいたい、護衛の人達の賃金も支払ってるわけで、どれほど贅沢してんだよと言いたい。


 護衛の人達に案内されて宿の一番上の階まで移動する。これが噂のスィートルームか。前世でもこういうところに縁はなかったけど、どれほどのサービスがあればあんな値段になるのかね。一泊金貨一枚、前世で言えば百万円くらいの値段になるだろうけど、王様みたいに扱ってくれるのか。その金でどれくらいの食料が買えると思ってんだ。


 そんな不平不満を持ちながらディアナさんがいる部屋まで案内されたわけだけど、部屋もこれまた豪華。何のためにこんな贅沢な場所で寝泊まりしてるんだろう。部屋が広すぎて、使ってないスペースの方が多いじゃないか。孤児院だと寝床を確保するにも苦労すると言うのに。寝る時の藁なんかつねに争奪戦だぞ。


 ディアナさんは元々貴族だったためか、豪華な部屋を自慢するような視線を私に送ってない。この人にとってこの部屋は日常に過ぎず、自慢するようなことでもないと思ってるんだろうな。ドヤ顔されても困るからそれだけはいいね。それはそれでむかつく感じはあるけど。


「ディアナ様、夕食にお招きいただきありがとうございます」


 みっちゃんに教わったカーテシーみたいな何かを披露。スカートじゃないからアレだし、そもそもみっちゃんの教えが本当なのかも分からないから合ってるのかも分からない。でも辺境生まれの孤児なら、こんなもんでも十分だろう。


「いいのよ、これからはマックス様の下につくのだからこれくらいはね」


 返事はしてないのに、すでに決まったことのように話してる。考える時間は与えたけど、断るわけがないと考えているんだろう。反論しようと思ったところで、長いテーブルの下座につくように促され、いきなり料理が運ばれてきた。こういうのにも疎いんだけど、ナイフとかフォークは外側から使うんだっけ?


 とりあえず奢ってくれるんだから食べておこう。こんな高級そうな物なんて次いつ食べられるか分からないからね。それにこの後どうなるか分からない。この護衛さんたち相手じゃさすがに勝てないだろうから逃げるためにもカロリーと栄養を補充しておかないと。最後の晩餐じゃないといいんだけど。


 うまー、さすが最高級の宿、ガズ兄ちゃんのところも美味しいけど、こっちの料理も美味いね。味が上品過ぎてあまり食べた気にならないのが玉に瑕。庶民舌なのが悔しいよ。


「貴方、辺境の孤児院出身なんですってね」


 長めのテーブルで上座と下座の距離が遠いんだけど、よく通る声でそんなことを言われた。別に哀れに思っている感じはしないかな。


「はい、最近成人したばかりでして、王都に来て一ヶ月くらいでしょうか」

「孤児にしては食事の仕方が上手いわね」

「そうでしょうか?」

「ええ、その孤児院では食事のマナーなども教えているの?」

「これは孤児の一人に裕福だった子がいまして、その子から教えてもらいました」


 みっちゃんは孤児とは言っても、品のある孤児だよね。かなりの訳ありなんだろうけど、孤児院暮らしだとそんなことに構っていられないから、誰もみっちゃんのことを聞かなかったな。聞くなオーラもすごかったけど。でも、今は皆に懐いてる。しかも私よりも皆にスパルタだ。私と違って理詰めでくるから怖いよ。


「ふぅん。でも、味は? 初めての割には驚きが少ないわ」

「いえ、驚いています。これまで食べたことがないほど美味しいですよ」


 前世ならかなり奮発したレストランで食べたことはあるけどね。そういえばあの野郎、財布忘れたとかで私に奢らせやがって。しかも払ったお金を返してもらえなかった。奢れとは言わんが、せめて割り勘にしろ。


 というか、さっきから何の話だろう。巫女で貴族っぽいディアナさんが孤児院に興味があるとは思えないんだけど。単なる雑談かな。


「孤児院に興味がおありですか?」

「まさか。ただ、貴方が孤児院で慕われていたという話を聞いたものだから」

「誰から聞いたか知りませんが、そんなことありませんよ。私が孤児院をでるときなんか、皆に泣いて喜ばれましたし」

「なんで喜んだのかしら?」

「殴る相手がいなくなるからでしょうね。私、道理に反する子はげんこつで言うことを聞かせてましたから」


 前世の感覚からすると、殴って言うことを聞かせるなんてアウトだよね。でもね、こっちの世界じゃそれが普通。理不尽な強さを持っている魔物が多い世界だから、つまんない行動で命を落とすことも多い。自分だけならともかく周囲を巻き込んじゃうんだから、色々と徹底させないと。私がもっと子供のころ、先生に無茶するなとげんこつを食らったことがある。あれは思い出しただけでも痛い。


「聞いた話と違うわね。貴方と付き合うのに苦労したらしいわよ。延々と孤児たちに邪魔されていたと聞いたのだけど」


 私と付き合うため……? まさかあの野郎から話を聞いたの?


「誰から聞いたんですか?」

「そこの護衛からよ。名前は……知らないわね」


 ディアナさんの視線の先を見ると壁の近くに立っている護衛がいた。その護衛がヘルメットを取ると、王都に着いて私を振った男の顔が現れた。


「よお、マリア、久しぶりだな」

「……誰でしたっけ?」

「元カレのことを忘れるなんて寂しいじゃないか」

「私に彼なんかいたことありませんよ。ああ、でも彼を装った詐欺師はいましたね」


 そう言うと元カレと言っている詐欺師が私を睨んだ。まあ、そんなことはどうでもいいんだけど、ちょっとディアナさんに物申したい。


「ディアナ様」

「なにかしら?」

「こんな詐欺師を護衛として雇っているんですか?」

「なんだと!」

「だまりなさい」

「……はっ。申し訳ありません……」


 ディアナさんが詐欺師を一喝。そして詐欺師は私を睨む。なんでだよ。


「王都の外でフラフラしているのを見つけてね、マックス様の信者だというから雇ったの。復讐したい相手がいるとは聞いていたけど、貴方のことだと知ったのは今日よ。頭突きをしてからお金を奪うなんてすごいわね」

「孤児を相手に詐欺を働けば誰でもそうなりますよ」


 武闘派の孤児院出身だから仕方ない。ああ、今朝、教会に来ていたときに私を見ていた奴ってこの詐欺師か。世間は狭いね、もう二度と会わないと思っていたのに。でも、なんでこれを私に会わせたんだろう。そんなことをする必要はないだろうに。


「貴方のことは色々と調べさせてもらったわ。この護衛の話もそうだけど、貴方が懇意にしている人や場所なんかも他の者に調べさせたの」

「……どういう意味でしょうか?」

「賢い人って好きよ。その顔、分かっているのでしょう? マックス様の傘下につかないとなれば、貴方の大事な人や場所がどうなるか。それが分かったから貴方は怖い顔をしている。違う?」


 この野郎、傘下につかなければ私じゃなくて、私が関係している場所に何かするって脅してるんだな。巫女は他の巫女に命令はできないけど、それ以外ならどうとでもなるってことなんだ。私が狙われるだけならなんとでもなるけど、孤児院やガズ兄ちゃんがいる店に迷惑をかけるのはまずい。というか嫌だ。


『マリアちゃん! 大丈夫!?』

『困りました。他に迷惑が掛かるのは避けたいですね。自分だけ逃げればいいと思ってたんですけど、ここまで来たのが間違いだったのかも。いや、逃げても同じかな』

『あああ、どうしよう、信仰心さえあれば戦神でもなんでも屠ってあげるのに!』

『とりあえず、鳩たちに手紙を届けるように伝えてください。できればカフェにも。どこが狙われるのか分かっていないので』

『わ、分かったわ!』


 神様なんだからもっとどんと構えていて欲しいところだけど、それだけ心配してくれているんだろう。今のところいい案が浮かばないから時間稼ぎをしないと。でも私、どちらかといえば脳筋派で頭脳派じゃないから時間を稼いでも何も思いつかないかも。それでもやるしかないけど。


「聞きたいのですが」

「あら、何かしら?」

「それは戦神マックス様のご判断ですか?」

「こんなつまらないこと、戦神様に伝える必要はありませんわ」


 伝えない? 今のこの場で聞いているわけじゃないのかな?


「つまりディアナ様の独断ですか?」

「そのとおりよ。そもそも戦神様は神を傘下に加える方法に関しては私に一任してくださっているもの。だいたい、なにを迷う必要があるの。戦神様はこの世界で最も信仰されている神。その傘下に加わるのは名誉なことなのよ?」


 その戦神様が神でない上にエスカリテ様を殺そうとしているからだっつーの。言えないけどさ。


「もしかして聖神様や光神様につこうとしているのかしら。それは先見の明がないとしか言えないわね」


 戦神様以外にも力を集めようとしている神様がいるわけだ。天使たちも勢力争いをしているってことなのかね。邪神たちもそうだったらしいし、神も天使も本当に俗っぽい。でも、どうしたものかな。傘下につくなんてことはあり得ないんだけど、それをすると他に迷惑が掛かるのがなぁ。せめて教団が介入して止めてくれれば……そうだ、まだ時間稼ぎはできる。時間を稼いだところで意味はないかもしれないけど、できるだけ言質を取らせずに終わらせたい。


「このことは教皇様もご存じなのですか?」

「そういえば教皇様が先ほど到着したようね」

「え? 来るのは来月では?」

「予定が早まったようね。そのせいで歓迎式典の準備が整わなかったと、この国の王族が困っていたらしいけど」

「そうでしたか……」

「そうそう、教皇が知っているかどうかね。もちろん知らないわ」

「それはいいのですか? これは巫女が巫女を脅しているともとれるのですが」

「あの方は巫女がすることにいちいち口は出さないわ。巫女の言葉は神の言葉、神のご意思ですもの。教団のトップである教皇様には敬意を払ってはいるけど、たかが人が神に意見していいわけないでしょう?」


 教皇様、使えねー。いや、会ったこともないけどさ。でも、どうしたものか……ええい、さらに時間稼ぎだ。この間に何か思いつけ、私!


「ところで傘下につくとは具体的になにかするのですか?」

「貴方の頭を通して戦神様が貴方の神に接触するわ。そして契約をする形ね」

「私の頭を通して……?」

「怖がらなくていいわ。私が貴方の頭に手を乗せるだけよ」

「乗せるだけ……」

「それ以降はすべて戦神様がやってくれるわ。本来なら神々が住む天界と呼ばれる場所で契約するのだけど、この世界よりもはるかに広い天界では神に会いに行くだけで面倒らしいわ。どこにいるのかもわからない神も多いようね。それに巫女がいなければ信仰心を稼げない。だから巫女を通して契約するの」

「なるほど」


 正直よく分からないけど、何かしらの契約を結ぶってことだろう。一方的な契約になりそうな気がするね。でもいい事を聞いた。頭に手を乗せることだけ回避すれば、傘下につくようなことはないわけだ。そもそも天使が神であるエスカリテ様に一方的な契約を結べるとは思えないけど。


 でも、どうしよう。もう時間稼ぎも思いつかない。大聖堂に逃げるにしても、皆に迷惑がかかる。いっそ、王都からも逃げて山奥で暮らすか。交渉相手がいなくなれば、私が懇意にしている場所に迷惑をかける理由もなくなるはず。山の中の一人暮らしになっても、エスカリテ様なら分かってくれるよね。


『マリアちゃん』

『エスカリテ様? 鳩たちの首尾は?』

『それは大丈夫。もう着くと思うわ。それよりも提案があるの』

『提案ですか? なんでしょう?』

『教会まで戻って』

『え? 教会に?』

『うん、それと教会に着いたら、マリアちゃんの身体を貸して』

『は? それはどういうことですか?』

『私がマリアちゃんの身体に憑依して、その子と戦神ってのをぶっ倒してやる! 私の巫女であるマリアちゃんを脅すなんて私に喧嘩を売ったも同然よ!』


 せっかく美味しいものを捧げたり、邪神像の破壊でエスカリテ様の怒りを治めたのに、怒りゲージが限界を突破しちゃってるよ。でも、私も同じ気持ちだ。私だけじゃなくて周囲を巻き込むなんて性格が悪すぎる。憑依ってのがどうなるのか分からないけど、エスカリテ様に賭けよう。ならまずは教会まで逃げないとね。



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