ストレスを解消しよう
久々にやってきた冒険者ギルド。邪神像もたくさん集まっているだろうし、エスカリテ様のストレス解消も兼ねて破壊しておこう。それと同時に二千年前の勇者であるエイリスさんの墓の場所を探してもらう依頼を出さないと。教団にその情報がないのはなんか変な気がするけど、知らないなら仕方ないね。
いつのまにか私専属の受付嬢となっているらしいルルさん。私を見ると笑顔で手を振っている。クール系美人さんなのに、私に対してはニコニコだ。巫女専属になるとお給料が上がるのかな。
「いらっしゃい、マリアちゃん」
「こんにちは、ルルさん」
「今日も邪神像の破壊に?」
「そのつもりで来ました。それとは別に依頼したいこともあるのですが」
「それなら依頼の方から聞くわ。別室に移動しましょう」
そう言うとルルさんはすぐに個室へ案内してくれた。そしていつも通りお茶菓子を用意してくれる。今日はすでに大聖堂でも貰ったけど、貰える食べ物はいくらでも貰います。というか、来るたびに量が増えてない? それにこの場で食べるのを勧めてくるルルさんの顔に圧がある。美人さんはそれだけで怖いよ。
お茶菓子を食べながら適当に最近のことで談笑してから依頼の話をする。最後まで聞いてくれたルルさんがメモを見ながら改めて確認してくれている。
「勇者エイリスさんという方のお墓の場所を知りたいと?」
「はい、大聖堂の司祭様も知らないようでしたので」
「そんなことってあるのかしら? 勇者の情報は教団が管理していると思うけど」
「二千年前の勇者なので情報がないのかもしれませんね」
「二千年前……確かにそんなに古い情報だとないかも。そもそも教団の起こりが二千年ほど前だし……そうそう、話は変わるけど、二千年前の遺跡はこの国に一つだけあったの」
「え? そうなんですか?」
「ただ、結構前にほとんど発掘されて、もう何もないらしいわ」
「そうでしたか……」
エスカリテ様の像が見つかるかと思ったけど、もう何もないんじゃ意味がない。でも、ちょっと待った。その遺跡から何かの像が見つかったって話はないのかな。それがどこへ行ったか分かればエスカリテ様の像を追えるかも。まあ、全く関係ない像なのかもしれないけど。
「その遺跡から発掘されたもので、像っぽいものはありませんでした?」
「それも調べたのよ。そうしたら四十年くらい前にやんごとなきお方がその遺跡で見つかった像を購入したって話よ」
「やんごとなきお方……?」
「まあ、王族ね。先代の王様」
「王族ですか……」
さすがにそこへの伝手はない。巫女様特権があっても王族の方に無茶なお願いをしてギロチン台送りにされても困る。どんなことも不敬にはならないとはいっても、暗殺者とか送り込まれる可能性はあるからね。そういう無茶はしないでおこう。あ、そうか。私が像を見なくてもいいんだ。絵とかあれば十分。
「その像の絵とかありますか?」
「絵はないみたい。分かっているのは像の名前だけね」
「像の名前? エスカリテ様じゃないんですよね?」
「残念ながら違うのよ。像の名前は、名もなき聖女の像、ね」
「名もなき聖女の像ですか……」
勇者や魔王と同じように聖女と呼ばれた人が何人かいたらしいけど、名前が分かっていない聖女もいるんだ? というか、聖女って神々が選んだ人のことなのかな?
『エスカリテ様』
『なに? さすがに私は聖女じゃないよ。そう! 女神なの!』
『知ってます。そうじゃなくて、聖女って神々が選んだ人なんですか?』
『ああ、そういう話ね。それは違うわよ、聖女は人が選んだというか、偉業を成した女性のことだから、神は介入してないわ』
『そうなんですね。なら別に気にすることはないかな』
『ちなみに私が会ったことがある異世界転生の子が聖女って呼ばれてたよ。革新的な技術をもたらしたとかで』
『ああ、腕が二本じゃ足りないって言ってた人ですか?』
『そう、その子。かなり昔の聖女だから像が残っているとは思えないけど』
『なら名もなき聖女の像もその人の像じゃないですね』
SF映画に出てくるようなタコっぽい前世だったのかな。そりゃ八本から二本になったら足りないよね。というか、そんな子が異世界転生……文明をもたらしちゃったかー。そりゃ聖女でしょ。ちなみに地球にも何かしやがったらしい。テラフォーミングか。まあ、それはもうどうでもいいけど。
「マリアちゃん?」
「すみません、ちょっとエスカリテ様と話をしてました」
「ああ、いいのよ。こっちも話を変えちゃったし」
「それじゃ、他の国でもいいので古い遺跡があったら調べてもらっていいですか?」
「え?」
なんだろ。ルルさんが驚愕の顔になってる。驚くところあった?
「マリアちゃん、もしかして他国へ行ったりするの?」
「必要があれば行きますけど」
「……この国ってすごくいいところだと思うの」
「え? まあ、そうですね。活気があっていい国ですよね」
「そうよね、他の国より、すごくいいわよね!?」
「他国のことは良く知らないんですけど、どうしました?」
「マリアちゃんはずっとこの国に住むのよね!?」
「え? ええ、まあ。辺境に孤児院がありますし、他国に住む予定はないですけど」
無料で住める教会があるのに他に行くなんてありえない。大体、他の国に住む理由がまったくないしね。むしろ今ある教会をどんどんカスタマイズしていきたい。次は浴槽だ。
ルルさんが大きく息を吐いた。なにごと?
「ごめんなさいね、マリアちゃんが別の国に住むとか言い出したらどうしようかと思っちゃった」
「そんな予定はないですよ。さっきも言いましたけど、辺境に孤児院がありますし、エスカリテ様の教会がこの王都にありますので」
「うんうん、そうよね。なら、お茶菓子を追加するわ!」
「はい、ありがとうございます……?」
良く分からないけど、お茶菓子が追加されるのは嬉しい。でも、なんなん?
『マリアちゃんは好かれてるのねー。なんか私も鼻が高いわ!』
『はぁ、そうなんですか? どちらかと言えば、エスカリテ様に出ていかれるのが困るのでは? それとも受付嬢さんの巫女手当がなくなるとか?』
『……自分への好意に疎い人っているのよねぇ。それでチャンスを逃してきた人たちがどれだけいたことか……! そう言うのってなんかの罪になれ……!』
エスカリテ様がまたなんか怒ってる。まあ、本気じゃなさそうだけど。とりあえずルルさんとは余計は話をしないで、まずはエイリスさんの墓がある場所を調べてもらう依頼を発行してもらおう。その後に邪神像を破壊だ。
そんなわけでお茶菓子のおかわりの後は淡々と依頼の条件を説明する。ルルさんもさっきとは打って変わりてきぱきと仕事をしてくれて、依頼は受理された。今度は邪神像がある部屋へと移動、もちろん残したお茶菓子はお土産にもらった。
最近情報が出回っているのか、ギルドに集まる像が多いとかで専用の部屋を用意してくれたみたい。エスカリテ様が祝福した布があるので、大量に集まったとしても不幸なことは起きていないとか。ルルさんの足の小指は守られた。
そして後は流れ作業。邪神に触ってエスカリテ様がパンチを放つ。その後、宝石が出たら浄化するキック。今日のエスカリテ様は邪神たちへの恨みを思い出したのか、いつもより激しいぜ。
そして最後の一体。ルルさんが布を取り払うと初めて見る姿の像があった。
『あ』
『え? もしかしてエスカリテ様の像ですか?』
『ううん、違うの。これはギザリア。うわー、なつかしー』
『これがギザリア様ですか……これ、酒瓶をもってません?』
『そりゃお酒好きだしね』
ワイルド系女子かな? 酒瓶についている紐を持ちつつ肩越しに背負っている感じで服装も袴というか着物というか……浪人系女子と言ってもいいかも。女神の吐息って言うくらいのカクテルを作ったわけだし、勝手にアンニュイ系女子かと思ってたんだけど。この像は破壊したくないけど、これもちょっとした不幸があるのかな?
「あの、この像の所有者は何か不幸なことがあったんですか?」
「ええと、お酒を飲む量が増えるみたいね。お酒に強くなるのもあるけど、酔えないからつまらないとか」
「なるほど。人によっては不幸ですね」
ルルさんがメモ帳を見ながらそう答えてくれた。お酒好きの神様だから仕方ないね。でも、その程度なら許容範囲。それにカクテルの件ではお世話になったからちゃんと磨いて飾ってあげたい。
『エスカリテ様、この像を教会に持ち帰って飾ってもいいですか?』
『もちろんいいわよ。私の像じゃないけど、居候くらいはさせてあげるわ!』
よし、それなら買取だ。狭い教会だけど、この像やエスカリテ様を置くくらいのスペースはあるからね。
「ルルさん、エスカリテ様の像じゃないんですけど、買い取りたくて」
「え? そうなの?」
「エスカリテ様のお友達の像だそうです。相場よりも高めに買い取りますので、手続きしてもらってもいいですか?」
「それは大丈夫なんだけど、像の中に宝石があることが多いから最近像が高騰しているの。それでもいいかしら?」
「はい、大丈夫です」
これは経費が使えるはずだから教団に払ってもらおう。勇者や魔王の話があってエスカリテ様も落ち込んでいたけど、像があるだけでもちょっとは元気になるかも。
『……ううん?』
『エスカリテ様? どうしました?』
『いや、この像ってなんか……気のせいかな?』
『何か気になることでも?』
『たぶん、気のせいね。教会に運んでレシピをくれたお礼でもしましょう。お酒を捧げれば喜ぶと思う』
『そうですね、カフェの店長さんにお願いしましょう。無料だし』
勇者や魔王の話でエスカリテ様はちょっとへこんでいたけど、結構持ち直したみたい。邪神像を破壊してストレス解消になったみたいだ。それにギザリア様の像が見つかって嬉しそう。これはしっかりと磨いてお酒を捧げないとね。




