邪神(女神)を調べよう
大聖堂に到着した。司祭様に色々聞くなり、自分で調べたりしないと。大体の話はディアナさんから聞いたけど、本当にそうなのか分からないからね。エスカリテ様の話と微妙に違うけど、微妙に合っているところもある。この差が一体何なのか分かればいいんだけど。
受付で司祭様に会いたい旨を伝えると、すぐに呼びだしてくれた。司祭様は相変わらず優し気な顔をされている。まあ、目元が髪で隠れているからよく分からないところもあるけれど。
「お忙しいところすみません。確認したいことがありまして」
「いえいえ、教団は神様や巫女様を手伝うのが仕事です。遠慮などせずにいつでもいらしてください」
「そう言ってもらえると助かります」
「では部屋で聞かせていただきますね」
司祭様はそう言って部屋まで案内してくれた。相変わらずの紳士っぷりだ。しかもお茶菓子が増えている。ぜひとも孤児院で男どもに指導してやって欲しい。そんな冗談はさておき、すぐに司祭様に相談だ。
戦神様の巫女であるディアナさんから聞いた話を司祭様に伝え、それが本当のことなのかを確認する。司祭様は特に何も言わず、最後まで私の話を聞いてくれた。そして頷く。
「ディアナ様が言っていることは正しいですね」
「そうでしたか」
「神々の状況についてエスカリテ様はご存じなかったのですか?」
「えっと、エスカリテ様は引きこもりのボッチですので、神々の情報に疎くて」
『確かに事実だけ見ればそうだけど、それなら孤高の女神って呼んで!』
確かに同じことだけど全然違う意味のように思える。まあ、今更訂正するまでもないけど。でも、なぜか司祭様はうんうんと頷いている。ボッチがばれてる?
「なるほど、神様は自由ですからね。一つのことに没頭していたら数十年経っていたという話を聞いたことがあります。エスカリテ様もそのようなタイプなのでしょう」
『そう、それ!』
『寝てたんですよね?』
『マリアちゃん、ツッコミが激しくない……?』
司祭様には聞こえないけど、変なことばっかり言っているからです。それはそれとして、まずは邪神扱いされているエスカリテ様のことを聞こう。なんか合っているような間違っているような微妙は話なんだよね。最古の文献には女神って書かれているし。教団というか神様がどう認識しているのかをまず確認したい。
「神々の歴史に関して分かる資料とかありますか? その、なんでそんな状況になっているのか分かっていなくて」
「マリアさんは勤勉ですね。資料もありますが、私でよければある程度はお教えできますよ。どうされますか?」
「なら、教えてもらえますか」
「分かりました。では聞きたいことはなんでしょう?」
「邪神とはどういう神なのでしょうか」
「神々すら名を言うのもはばかられる邪神ですが、強大な力を持ち何柱もの神々を屠ったと言われています」
「なぜ神々を?」
「勇者と魔王の行動に納得がいかなかったことが原因だと言われていますね」
おっとでたよ、勇者と魔王。エスカリテ様が推すカップルだったのに殺し合いに発展したとか。
「どんな行動に納得いかなかったのでしょうか?」
「まず、勇者と魔王のことについて説明しますが、この二人は百年に一度、必ず対になって現れ、殺し合いをしていました。それは終わらない戦いと言われ、二千年ほど前までずっと続けられていたそうです」
「あの、それはなぜ?」
「それはわかりません。ただ、世界の仕組みとしてそうなっている、とのことです。太陽が東から昇り、そして西に沈むような自然現象のようなものと多くの学者は言っています」
世界の仕組みって。ちゃんとした理由がないんかい。
『あれは神々の遊び。神の力を与えた二人、正確には二人以外にもいたんだけど、その子達を戦わせて、それを見て楽しむ悪趣味な娯楽。しかも戦いの結果で神々が勢力争いをしていたんだから。あの邪神ども、もう一回ぶっ殺したい……!』
エスカリテ様が吐き捨てるようにそんなことを言った。なるほど、実際には神々の娯楽か。確かに悪趣味。勢力争いっていうなら自分で戦えばいいのに。そうしたらエスカリテ様が圧勝だ。
「マリアさん?」
「あ、すみません、ちょっとエスカリテ様と会話を」
「そうでしたか。続けても?」
「はい、お願いします」
「邪神が気に入らなかったのは、二人がその戦いを放棄したためらしいです」
「戦いを放棄?」
「勇者と魔王は戦いを止め、人と魔族、お互いに手を取り合って平和な世界を創ろうとしました。邪神はそれが気に入らなかったと聞いています。邪神は二人を操り、殺し合いを継続させたとか」
『逆じゃない! 戦いを止めようとした二人を気に入らなかったのはナギスダやルビルラどもでしょうが! アイツらが二人を支配して殺し合いをさせたのに!』
『エスカリテ様、どうどう』
『……マリアちゃん、私って動物の扱いと同じなの……?』
エスカリテ様にはこれくらいした方が落ち着くからいいんです。下手に共感したらヒートアップしそうで怖いよ。
「それで勇者と魔王はどうなったんですか? 魔王は生きていると聞いたのですが」
「はい、ほぼ相打ちの状態になったらしいのですが、魔王は死ななかったようです。勇者が使っていた聖剣、それが魔王を貫いたのですが、なぜか魔王の生命を今でも維持しているようです。さらには誰も触れられないように結界を張っているとか。神々でも破壊できない強固な結界だと聞いています」
『ああ、そうなのね。エイリスちゃん、神に支配されながらも、聖剣の力を使ってベルトちゃんを守ったんだ……やっぱり、あの子は勇者ね』
状況から考えると、エイリスというのは勇者のことで、ベルトってのが魔王ってことかな。
「では、勇者の方はどうなったんですか?」
「魔王が倒されたのは魔国にある魔王城、今は廃墟のようですが、そこでの戦いで勇者の妹さんが一緒にいたそうなんです。勇者も魔王の持つ魔剣に貫かれたそうですが、妹さんが勇者の遺体を持ち帰ったと聞いています。その後は不明です」
『そうね、それは見てた……その後、コトちゃんにはごめんって謝ってから話をしなかったな……そのあと、すぐに邪神どもをぶっ殺しに行ったから……』
勇者の妹ってエスカリテ様の巫女か。それで名前はコト。となると、エスカリテ様、マジ女神、カプチュウすぎるって残したのがコトさんか……? でも、お姉さんが亡くなっているのに言い方が軽くない? それにその言い方って、異世界転生者だったのかな?
『エスカリテ様、コトさんって異世界転生者だったんですか?』
『え? そんなこと聞いてないけど。まあ、今思うと確かにマリアちゃんみたいに変なこと言ってた気はする』
『私は変なことなんて言ってませんが?』
『変な派閥を言ったりするでしょ? ツナマヨ派とか』
とても遺憾ではあるが、そういわれるとそうなのかも。でも、エスカリテ様が知らないなら判断しようがないな。
「話が逸れましたね。邪神の話に戻しますが、邪神は勇者と魔王を使って平和な世界を創ろうとした神々に対して宣戦布告をしたそうです」
「宣戦布告ですか」
『宣戦布告なんかしなかったけどね。目が合った瞬間に殴り飛ばしたわ!』
いつの時代の不良だって感じだけど、それだけ怒り心頭だったんだろう。
「それでどうなったんですか?」
「邪神の力はすさまじく、多くの神が消滅しました。ですが、今いる神々が力を合わせて邪神をとある場所に封印したということです」
「とある場所?」
「その場所の名称までは知りませんが、神々が住む場所のどこかなのでしょうね」
『……あ! あー、そういうこと?』
『エスカリテ様? どうされました?』
『確証はないんだけど、今の神たちの正体が分かったかも』
『え? なんなんです?』
『天使だと思う』
『天使?』
『神々の手足となって働く子達。私、あの邪神どもの天使たちは見逃してやったのよ。代わりに天界の上層には入れないようにしたけど。その状況が私を封印してるって意味なのかしら。どちらかといえば私があの子達を追放した感じなんだけど』
知らない話がどんどんでてくるね。天使とか天界の上層とか、混乱するからちょっとまとめないとだめかも。




