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女神(邪神)様はカプ厨!  作者: ぺんぎん
第一章

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大繁盛

 

 畜産場の三姉妹さんたちに助っ人を頼んだんだけど、さらに忙しくなった気がする。使い物にならないと言うわけじゃなくて、女性客が増えた。カップルも多いんだけど、今はほぼ女性で満席になっていて外で順番待ちしている人もいるくらいだ。席についている彼氏さんたちはちょっと肩身が狭そう。


 理由は分かっている。それもこれも三姉妹さんが着ている男性用の給仕服が原因だろう。三人とも畜産業で鍛えられた体に給仕服が映える。見た目は間違いなく女性なんだけど、たまに黄色い歓声が上がるほどの人気だ。私? 当然厨房だ。お呼びでない人は裏方と決まってる。


 畜産業一筋の人達だから大丈夫かなと思ったけど何の問題もなかった。むしろノリノリだし、今や注文にご指名があるほどの人気ぶりだ。イケメンなはずのガズ兄ちゃんは給仕をせずにスイーツづくりに専念している。華やかなホールとは違ってキッチンは戦場だ。衛生兵ー。


「マリアはすごいな」

「え? 何が?」

「どう考えてもこの状況のことだろ。巫女だけじゃなく商売の才能もあんのか?」

「ないない。ただの偶然だってば」


 たまたま助っ人に呼んだ人たちが男装の麗人だっただけ。麗人というか、シュノアさんは元気っ子だけど、それにも需要がある。カップルできている彼氏さんの方はちょっと面白くないかもしれないけど、相手が男性じゃないから許容している感じ。それにちょっと嫉妬している感じなのが彼女さんを刺激していて、いつもより甘々な雰囲気もある――というエスカリテ様の分析だ。


『嫉妬は恋のスパイス……!』

『たまに激辛になるから気を付けた方が良いんですけどね』

『それを乗り越えてこそのカップルよ! くぅ、いいわね! ちょっと拗ねた感じの彼氏を嬉しそうに見る彼女、そして和解とも言える、あーん……祝福あれ!』

『鳩は出しちゃだめですよ』

『そ、そうよね、ここじゃまずいわね。まだ虹は出せないし、どうしよう……!』

『テーブルの上に花でも咲かせたらどうです。薔薇とか。まあ、出来ればの話ですけど――』

『採用! マリアちゃん、もう神を名乗っていいわ!』

『遠慮します……え、やれるんですか?』

『頑張るわ!』


 次の瞬間、ホールの方から大きな歓声が上がった。ガズ兄ちゃんが慌ててホールの方へ行くので私も調理の手を止めてホールの方を覗く。


 エスカリテ様、本当にやっちゃったよ。各テーブルの上に薔薇の花が一本だけ出現した。かなり頑張ったのか、エスカリテ様の息が荒い。


『ど、どんなもんよ……!』

『本当にやるとは驚きました。しかも全部のテーブルになんて』

『カ、カップルだけでも良かったんだけど、こ、こっちの方が良いよね……!』

『お疲れさまでした、しっかり休んでくださいね』

『そんなもったいないことできない! カップルを見る!』

『あ、はい』


 私が厨房にいてもホールの状況は分かるみたいだから別にいいんだけど、その情熱を何か別のことにと思わないでもない。神様だから何をしてもいいけどさ。


「おい、マリア、これって……」

「エスカリテ様の祝福だね」

「……面白い演出だな。お客様も喜んでるし定期的にやるか」

「えぇ……」


 今回はエスカリテ様がやったけど、各テーブルに薔薇を一本差した花瓶でも置くのかな。まあ、それはいいや。ガズ兄ちゃんがシュノアさん達にこれは演出って説明して、そこからお客さんの方にも説明している。エスカリテ様に聞いたら薔薇は持ち帰っても大丈夫だとか。


 そんな演出もあって飲食店は大盛況だ。並んでいた人たちは薔薇を貰えなかったわけで、泣くほど絶望していた。仕方ないので花屋に行って薔薇を大量購入、それを三姉妹さんたちが各テーブルに一本ずつ渡していた。一部取り合いになっていたのは困ったが。女同士の友情って儚い時があるよね。


 そんなわけで閉店時間まで満席だった。さすがに並んでいる人が多かったので、本日はここまでですと案内しておいてよかった。並んだのに入れなかったじゃ悲しいからね。


 そして皆はグロッキー。店長さんや他の料理人さん、三姉妹さん達を含めてホールの椅子に座りぐったりしている。


 店長さんが立ち上がって皆に礼を言った。まだ確認が途中だが、かなりの売り上げだったらしく、バイト代は期待していいとのことだ。それには私も入っているらしいので、ありがたくいただこう。エスカリテ様にはないけど、三姉妹に次ぐMVPだよね。後でポップコーンをお供えしよう。


 そこで思い出した。当初の理由を忘れちゃいけない。すぐにガズ兄ちゃんに近寄る。


「ガズ兄ちゃん、シュノアさんってどう思う?」

「何だいきなり、それにそんな小声で」

「そもそもここに来たのはシュノアさんを紹介したかったからなんだよね」

「なんだそりゃ?」


 かなり訝し気な視線を送られているが、小声で状況を説明すると、ガズ兄ちゃんは納得したようだった。


「エスカリテ様が恋人たちの守護者だからか。分からんでもないが」


 実はそのことは全く関係なく、私がお米を得るための取引なんだけど、それは言わないでおく。女には秘密がいっぱいです。


「それでどう?」

「今日一日だけじゃ何とも言えないが、よく働いてくれるのは良いと思う」

「お、いい感じ?」

「だが、俺を紹介する必要はなさそうだぞ」

「え? どうして?」

「店長がシュノアさんを気に入ってる。シュノアさんもそんな感じじゃないか?」

「え?」『え?』


 その言葉にはエスカリテ様も反応。すぐさまシュノアさんの方をみると、店長といい感じに話している。そしてそれを見守るようにしているシュノアさんの姉二人。あのお二方もエスカリテ様の同類な様な気がする。てぇてぇ派か。


「うちの店はシュノアさんのご実家から食材を仕入れているからな」

「そういう関係があったんだ?」

「面識があったかどうかは分からないが、少なくとも仕入れは間違いない。酒を飲めるという条件とか、畜産業にも当然理解があるから俺よりも店長の方が合ってるような気がするぞ。年齢の差はあるが許容範囲じゃないかな」


 まさかそんなことが。でも、店長さんて前にいたウェイトレスさんに振られた形になってへこんでなかったっけ? もう大丈夫なのかな。そのあたりをガズ兄ちゃんに聞く。


「店が混みだしてから結構吹っ切れていたみたいだぞ」

「ならいいのかな……」

「以前惚れていたウェイトレスとは雰囲気も性格も違うが、今日の働きっぷりに惚れたという可能性はあると思うぞ。男は繊細だが単純でもあるしな」

「それ矛盾してない? でも、なるほどねぇ」


 あまり複雑怪奇過ぎても困るしね。恋の駆け引きなんて大体周囲を引っ掻き回した上に失敗するんだからフィーリングでいいのかも。難しく考える必要はないよね。


「それじゃ後は若い人たちに任せて私達は撤退――」

「何言ってんだ? マリアが一番若いだろうが」


 おっといけない。前世を思い出したからなのか、最近精神年齢が上がったり下がったりして困る。今のは完全に結婚をすすめる叔母さんキャラだった。


 その後、まだ見ると言い張るエスカリテ様を連れて教会に戻ることにした。時間も時間だしね、日が完全に落ちる前に教会に戻らないと。帰り際にシュノアさんを含めた三姉妹の皆になぜかお礼を言われたけど、礼を言うのはこっちなんだけどな。ガズ兄ちゃんの飲食店もさらに繁盛しそうな感じだし。これでエスカリテ様への信仰心がさらに上がってくれればいいんだけど、どうなるかね。どちらにしても米をゲットだ!


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