男性を紹介しよう
養鶏場は王都を囲っている壁の外にあると聞いた。私は巫女という立場があるので王都の出入りは簡単にできるようになったけど、普通の人だと結構面倒になる。巫女様特権はすげぇぜ。
よく考えたら王都に入る時に色々聞かれた。一緒に来た奴は全部私に受け答えをさせていた気がするけど、もしかしてヤバい奴だったのか。なぜかガズ兄ちゃんがあいつのことを知っていて、王都から追放になったって聞いたからもうどうでもいいけど。お金も回収したし。
気を取り直して養鶏場。鶏以外にも豚や牛がいる。色々やっている畜産場なのだろう。結構広いから壁の外でやらないとだめなのかも。私も牛とか豚とか飼いたいんだけど、教会で飼っていいのかな。あとで司祭様に聞いてみよう。
この畜産場で働いていた人に一番偉いおじいさんを紹介してもらうことになった。やはり巫女は特権階級、すごく丁寧に案内してくれている。
『神様と話せるってすごいことなんですね』
『話せることがすごいんじゃなくて、神がすごいんだよ!』
『巫女がいないと何もできないのに……』
『マリアちゃん反抗期!? 反抗期なの!? お米を悪く言ったのは謝るから!』
『別に怒ってませんよ。でも、次はありませんからね』
『神に脅しをかける巫女って初めて見たわ……!』
そんなことを脳内やり取りをしていたら、五十歳くらいのおじさまを紹介してくれた。こんなに広い場所でたくさんの人をまとめ上げているとはなかなかのやり手と見た。日焼けした顔にごつごつの手。頑固そうな職人さんみたいな人って最高か。
そんないぶし銀なおじさまにお米のことを聞くと、すぐに判明した。鶏のエサに使っているという。仕入れは玄米で、鶏には米ぬかだけをあげているとか。餌のメインはとうもろこしとか大豆らしいけど、そっちの知識は必要ないかな。あの鳩たちはポップコーン好きだけど、何でも食べるし。
たしか玄米を精米して米ぬかができるんだっけ。できるって言うか、精米して白米にしたときの残りみたいなものだったと思う。ぬか漬けは好きだけど、うろ覚えだ。
白米は自分たちで食べているとか。ただ、あまり好きじゃないみたい。なんかべちょべちょしているとか。これは炊き方の問題な気がする。おかゆっぽくなってるのかな。こっちはパンが主流だし、合わないのかもしれない。それに餌用の玄米だから、味が良くないのかも。前世みたいにバリバリ品種改良をしていない可能性もある。
状況が分かったので、玄米か精米した白米を売って欲しいと言ったら、おじさまが考え込んでしまった。そして意を決したように口を開く。
「お嬢さんのお婿さんになりそうな男性を紹介してほしい?」
おじさまの三女さんだが、男っ気が全くないらしい。長女さんや次女さんとは違って三女さんは畜産大好きっ子なので、親としては嬉しい反面、ちょっと心配なのだとか。とはいえ、口に出してどうこうしろと言うわけにもいかない。この畜産場で働く男性は多いけど、三女さんの好みとは違うのか、まったくそういう関係にはならないとか。
なんで私にと思ったが、最近巫女になった人が色々と人助けをしていると聞いたそうで、私ではないかと思ったそうだ。確かにカップルを助けたり、ガズ兄ちゃんの飲食店を流行らせたり、なくした指輪を届けたりしたけど、それだけだと思う。なんで王都の外の場所まで話が伝わっているんだろう?
『マリアちゃん! ここは信仰心を稼ぐチャンスでは!?』
『三女さんと誰かをくっつけるのを見たいだけでしょう?』
『ち、違うよ……ひ、人助けだってば……』
『その小さな声じゃ嘘だと言っているようなものです』
とはいえ、断るつもりはない。私はお米のためなら鬼になれる女。付き合うかどうかはともかく、紹介はできると思う。知り合いが多いわけじゃないけど、それなりに相談できる人もいる。まずはそこに打診してみよう。
その前に三女さんに話を聞く。なぜか長女さんと次女さんも来た。皆恋バナ好きか。私も結構嗜みます。
三女さんは赤毛のショートカットで元気って感じの女性。名前はシュノアさん。私よりも年上。たぶん、二十代後半。力仕事が多いのか、結構筋力がありそう。でも、女性らしくないってわけでもない。あまり見た目を気にしていないのか、服装にも気を使ってなくて、ガサツって感じだけど健康的な感じは良い。それに長女さんや次女さんを見るとシュノアさんも磨けば化けそうな雰囲気。あなどれぬ。
そんなわけで好みの男性像を聞く。なんでって言われたので、事情は全部話す。こういうのは隠しておくと結果的に大変なことになるからね。ちゃんとおじさまが父親として心配しているって話をすると、おじさまに呆れつつも理解してくれたようだ。
情報を整理すると、畜産の仕事に理解がある人、お酒を一緒に飲めること、この二つが必須の条件らしい。他にも細かい条件はあるけど、この二つくらいはこだわりたいとのことだ。
個人的にはもっとこだわるべきでは、と思うんだけど、そんなこと言ってたら誰とも一生付き合えないと言われてしまった。諦めでも妥協でもなく、この二つの条件をクリアしてくれたら、好きになれそうってことらしい。それにどうしても許せないことをしたらぶっ飛ばすと言っていた。完全に同意。
そんなわけで大体は分かった。シュノアさんにまた来ますと言って、また王都の城壁内へと戻る。
『ねぇねぇ、マリアちゃん、誰を紹介するの?』
『紹介できる男性なんてガズ兄ちゃんくらいしかいませんよ』
『え? いいの?』
『シュノアさんがいい人だったので問題ないですね。ガズ兄ちゃんの方がだめでも、ガズ兄ちゃんの交友関係から条件に合う人がいないか聞いてみるつもりでして』
『本当にマリアちゃんはガズちゃんのことを何とも思ってないのねー』
『孤児院の皆は家族ですから、そういう感情はないですね』
『幼馴染みたいなものじゃないの?』
『幼馴染よりも家族ですね。ちなみに前世だと幼馴染は結ばれないというジンクスがあります。負けフラグが大量にあります』
『そんな世界、ぶっ壊してやる!』
『神様が言うと洒落にならないからやめてください』
これだからカプ厨のサイコパス派は危険極まりない。しかも神様だから本当にやりそう。
でも、ガズ兄ちゃんねぇ。幸せになって欲しいとは思うけど、私とどうこうってのはない。子供のころから一緒だし、幼馴染って感じでもなく、完全に家族、頼りになるお兄ちゃんだ。むしろ戦友と言ってもいいけど。あの孤児院、貧乏すぎるんだ。甘酸っぱい思い出なんかないよ。すっぱい果物はたくさんあったけど。
そんなわけでやってきた飲食店。カップルが多くて入りづらい場所だが、用事があるだけだから臆せずに入る……混み過ぎじゃない?
「おお、マリア、いいとこに来た! ちょっと手伝ってくれ!」
「ガズ兄ちゃん、この混みようは何……?」
「なんか来月くらいに教皇様が来るとかで他国からの客が増えてんだよ」
「そういうことか」
「だから手伝ってくれ。給仕でも調理でもいいから」
「仕方ないなぁ……あ、だめかもしれないけど、ちょっと助っ人に当てがある」
「え? いるのか? なら頼むよ」
シュノアさんに頼んでみよう。畜産系のお仕事が好きということだったけど、もしかしたらこういう仕事もやれそう。ガズ兄ちゃんに紹介しやすくなるし、長女さんや次女さんも手伝ってくれるかも。




