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女神(邪神)様はカプ厨!  作者: ぺんぎん
第一章

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思い出の指輪

 

 そんなわけでやってきた大聖堂。補助金が出るのは一年に一回なので、残念ながら来年にならないと新たな申請は受け付けてはくれない。でも、神様に関する出費に関しては必要経費として申請できるので色々申請しなければ。ちゃんと領収書をもらってるし。


 おっと、そんなことを考えている場合じゃない。厄介ごとでしかない高価な指輪は司祭様に渡してしまおう。落ちてるお金は貰っても、落ちてる財布や高価そうな物には手を出さない。それは余計な面倒事に巻き込まれるフラグ。フラグは回収される前に回避だ。


 まずは受付で司祭様を呼び出してもらおう。


「巫女のマリアと申しますが、司祭様を呼んでいただけますか?」

「ああ、マリアさん。すみません、今、司祭様は別の巫女様に対応を――」

「そんなことをするわけがないでしょう! それは神への冒涜ですよ! 不愉快です! 帰ります!」


 いきなり奥にある扉が開いて女性の声が聞こえた。


 うっわ。服だけでその辺に家が買えそうなくらいの赤いドレスを着ている。宝石がちりばめられていて逆に無粋としか言えない。顔立ちも綺麗だし、髪も黒の縦ロールでゴージャスそうだからそこまでおかしいって感じじゃないんだけど、顔が怒っているからマイナスだなぁ。


 続けて司祭様が出てきた。すごく困った感じの顔をしているけど、女性を引き留めようとしているみたいだ。


「ディアナ様、せめてお話を聞くだけでも――」

「必要ありません。これは教皇様に報告させていただきますから!」


 ディアナと呼ばれた女性が扇子で口元を隠しながらずかずかとこちらに歩いてきた。そして私を一瞥。


「どきなさい、庶民が」

「失礼しました」


 頭と視線を下げ、さっと一歩下がり道を譲る。私は受付さんと話していたので別に道を塞いでいたわけじゃない。だが、ここは相手の言うことを聞くのが最善。我がトラブル回避能力を見よ。私には恋愛系以外のプライドはない。何を言われようと余計な面倒は起こさんぞ。コツは今までの最低彼氏どもを想像で殴ることだ。アッパーで月まで飛ばしてやる。


 そんな想像をしていたら、ディアナって人は「ふん!」と言って大聖堂を出て行った。まさに貴族のお嬢様のテンプレ。あのドリル――縦ロールにどれだけの時間とお金が掛かっているのだろう。いつか切ってしまいたい。でも、あの人、神への冒涜がどうとか言っていた。もしかして巫女?


「マリアさん」

「司祭様、こんにちは」

「こんにちは。恥ずかしいところを見られてしまいましたね」

「いえ、司祭様が恥ずかしがるところは何もなかったかと」


 むしろこんなところで大声を出すさっきの人の方が恥ずかしい。でも、あれほど怒るのだから、それだけのことがあったのかもしれない。おいそれとあの人が恥ずかしいと断ずるわけにはいかないかも。まあ、それはどうでも良し。厄介なことに巻き込まれるのはごめんです。私はやることをやって帰ろう。


「それで、今日来たのはですね――」

「マリアさん、お時間はありますか。ご相談したいことがありまして」

「……はい。いつもお世話になっていますのでなんでもおっしゃってください」


 ここで断るともっと変なトラブルに巻き込まれそうな気がする。それに司祭様が本当に困った顔をしている。こういう困った顔をした男性をスルーできるスキルが欲しい。でも、私は寂しそうな子犬を放っておけないタイプなんだ。こういうところがダメ男に引っかかる原因なんだろう。でも、司祭様はそんな感じじゃないし、話を聞こうじゃないの。でも、聞くだけだ。


 受付さんにぺこりとお辞儀をしてから、司祭様に連れられてさっき貴族のお嬢様が出てきた部屋に入る。部屋の中には老紳士というか、ちょっとお年を召した執事さんがいた。くそう、ナイスミドルめ。私の心をいい意味でえぐってきやがる。マイメモリーに保存しておこう。


 司祭様がその執事さんを紹介してくれた。どうやらさるご貴族にお仕えする執事さんらしい。なんという貴族かは教えてくれなかったけど、それだけで高位のご貴族様に仕えているんだろうなって分かる。たとえ巫女だとしても情報を与えたくないとなれば、伯爵、下手をすれば侯爵あたりかな。なにか醜聞的なことの相談だろうか。


 それで話を聞いたわけなんだけど、こんなことってあるのかね。まだ決まりじゃないんだけど。


「指輪をなくされた、と?」

「はい、それを探してもらおうと先ほどディアナ様にお願いしたのですが、そんなことは神や巫女がすることではない、と怒られてしまいまして。確かに間違ってはいないのですが、せめて助言だけでもと思ったのですが」

「なるほど……」


 三日ほど前、貴族のご夫人が馬車でこの王都へ戻ってくる途中、魔物に襲われたという。魔物が多かったために、王都へ逃げ込んで討伐の協力を仰ごうとしたのだが、その直前で魔物たちに攻撃されて馬車が大破。多少の怪我はあったものの、命に別状はなく、護衛達の必死の応戦と王都から駆け付けた兵士たちによって魔物は駆除されたとか。たしかにそんな話が王都で話題になってた気がする。どこの誰とは聞いてないけど。


 できたご夫人だそうで、護衛達にも治療を受けさせるためにすぐに王都の医療施設へ向かったらしい。そんで、治療中にいつも身に着けている指輪がなくなっていることに気付いたそうだ。すぐに馬車が大破した場所を探したが見つからず、途方に暮れているのだという。


「ち……いえ、奥様が旦那様から初めていただいた大事な指輪ということで諦めきれないそうです」

「思い出の品なのですね」

「はい、その指輪を探してもらおうとディアナ様に相談したのですが――」

「怒ってしまったと」

「その通りです」


 どんな神様に仕えているのか知らないけど、なくした物を探すなんて神様によっては嫌がるかもしれないね。そもそもディアナって人も貴族っぽいし、そんなことできるかって怒ったのかも。巫女は神様に仕える特権階級みたいなものだし、どんな貴族の依頼でも断れるからなぁ。


「最近、マリアさんが良く落とし物を持ってきてくれますが、それはエスカリテ様のおかげだと聞きました」

「ええ、そうですね」


 正確にはポップコーン目当ての鳩ですが。


「最初はマリアさんにお願いしようと思ったのですが、その、神様のランク的に上の方が見つかる可能性が高いと思いまして――」


 神様のランク? その辺の話は聞いたことがないけど、神様によっては待遇に優劣があるのは知っている。もしかしてディアナって人が仕えている神様は信者が多いのかな。あれ、執事さんがちょっと視線を逸らした。なるほど、執事さんがそういう理由で司祭様にお願いしたんだろうな。


 でも、当然と言えば当然じゃないかな。神様のランクが高い方が見つかる可能性が高いと思ったんだろう。神様に依頼するなら寄付金が必要って聞くけど、貴族様ならいくらでも出せそうだしね。


『ねぇねぇ、マリアちゃん。お話し中だけどちょっといい?』

『なんです?』

『指輪を返してあげましょうよ』

『当たり前ですよね?』

『え? いいの? 怒ってない? 最初にお願いされなかったし』

『別に怒る理由なんてないですよ。逆にエスカリテ様の方はいいんですか。他の神様よりもランクが下って思われてますけど』

『人が決めた神様のランクなんてどうでもいいかな。そもそもさっきの子に神の気配なんて感じなかったけどなぁ』

『え?』

『ああ、私が知っている神を感じなかっただけ。何かはいたような気はするけど』

『そういうことですか』

『それよりも初めて貰った指輪を大事にしていて、ずっと探しているってなかなかのシチュエーションじゃない!? ポップコーンを何個も食べられそう! あとで大量にお供えして!』

『当然、エスカリテ様はそっちの方に興味が行きますよね』


 エスカリテ様も別に怒ってないみたいだ。私も別に何とも思ってないので、すぐに指輪を渡そう。もしかしたら違うかもしれないけど、状況的にこれっぽいんだよね。


「あの、指輪って、これでしょうか?」

「え?」


 ネコババするつもりはないというアピールで綺麗な布に包んで大事そうに持ってきたわけだが、その布を開きながら指輪を見せる。それを見た司祭様が目を見開いて驚いた。それよりも驚いているのは執事さんの方だ。心臓止まったりしないよね?


 その執事さんが「これです!」と大きな声を出した後に涙を流した。そして泣きながらお礼を言ってくれている。そして申し訳ないとも。その謝罪は最初に頼る神様をエスカリテ様にしなかったことだろう。まあ、エスカリテ様も私も気にしてないから別に謝らなくてもいいんだけど。


「見つかって良かったですね。では、私の用事は終わったので今日はこれで――」

「いえいえ、マリアさん、お待ちください」


 司祭様に捕まった。笑顔なのになぜか圧がある。これから色々聞かれるのは面倒なんだけど、お茶菓子とかお肉を要求しよう。それがなければ何も言わんぞ。



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