第8話:「炎獄の守護神〈イグニス・ロード〉」
◆ 燃え盛る世界
蒼海の神域から戻った蓮たちは、休息を取る間もなく次の神域へと向かうことになった。
北方――果てなき灼熱の火山帯、《紅蓮裂界アグニア》。そこには、炎の神が眠ると伝えられている。
「情報によれば、この火山帯は百年以上前から活動を停止していた。でも……」
ミストが衛星写真を拡大する。
「ここ数日で噴火活動が再活性化しているわ。マグマ圧力、火山性微動、熱放射……どれも異常値よ」
「つまり、炎の神域が目覚め始めた……か」
蓮は険しい表情を浮かべた。
「慎重に行こう。炎の神は“破壊”を司るとも言われている。調和を失えば、この大陸すら焼き尽くしかねない」
イリスが頷き、リーナは剣の柄に手を添えた。
「それだけに、ここで必ず手に入れなきゃね。“火の調律因子”を」
「でも、炎って怖いよね……あたし、焦げないかな……?」
ネフェリスが不安げに呟く。
「心配ない。君は耐熱結界で護る。というか、君が焼けたら蓮が泣くからね」
ノアが淡々と返し、蓮がむせる。
「泣かない! ……いや、泣くかもしれないが!」
一行はそんなやり取りで微笑みながらも、緊張感を胸に抱いて、燃え盛る地へと向かった。
◆ 火口の門
アグニア火山群。その中心に広がる《イグナイト・カルデラ》へ到達した時、地面はすでに溶岩が噴き出し、真紅の霧が立ちこめていた。
「空気中の火属性魔素濃度が……桁違いね」
ミストが解析端末を操作する。
「注意して進め。マリル、風障壁を張れるか?」
「任せて! 《エアリアル・シェル》!」
マリルの魔法陣が展開され、灼熱の風を遮断する風障壁が一行を覆った。
火口の縁に立つと、そこには炎の柱が幾重にも立ち昇り、中央には巨大な赤黒い門が見えていた。
「これは……神門か」
イリスが呟く。
「炎の神を封じる結界門だね。けど、既に半壊してる」
カイエンが指摘する。
「門を完全に破壊すれば、神域に入れるだろうが……その瞬間、神の憤怒が放出されるぞ」
蓮は静かに頷き、《無限アイテムボックス》から漆黒の双剣を取り出した。
「準備はいいか。ここを越えるぞ」
「もちろんだ」
リーナが剣を抜き、ネフェリスが唄い始める。
その歌は熱を鎮める鎮魂歌であり、火の霊たちへの許しを乞う祈りでもあった。
◆ 炎獄の王
門をくぐると、そこはもはや“地獄”の景色だった。
マグマが天へと噴き上がり、全てを焼き尽くす熱風が吹き荒れる。
その中央、赤黒い玉座に座す巨大な人影があった。
鋼のように黒光りする皮膚。
燃える炎を纏う獣の角。
そして、瞳には知性と怒りが交錯していた。
《炎獄神イグニス・ロード》。
火の神であり、破壊と再生の理を司る神族。
「よく来たな、小さき創造者たちよ」
低く響く声が、空間を震わせる。
「我が炎は破壊であると同時に、新しき命を鍛える業火でもある。その力を求めるか?」
「求める」
蓮は剣を構えた。
「でも、破壊だけでは世界は創れない。破壊の先に“生”を繋ぐ、その理を示してみせる」
イグニス・ロードの瞳に、わずかな興味の色が宿る。
「ならば示せ。破壊を恐れぬ創造者として――我が炎を超えてみせよ!」
◆ 炎の試練
戦いが始まった。
イグニス・ロードは拳ひとつで大地を割り、焔の大剣を振るうたびに、周囲の温度が数百度単位で上昇する。
「こいつ……一撃でもまともに食らえば、蒸発するぞ!」
カイエンが防壁を張りながら叫ぶ。
「でも、その隙間にこそ、突破口がある!」
リーナが剣を閃かせ、炎を裂きながら切り込む。
ネフェリスの歌が空間を冷やし、マリルとノアが補助結界で味方を護る。
ミストが解析結果を叫ぶ。
「頭部にある角が、魔力の集中点! そこを砕けば、炎の神性を抑え込める!」
「よし――!」
蓮が炎を纏った双剣を握り直した。
彼の内なる“緋星核”が共鳴し、剣身に紅蓮の光が宿る。
「これが――俺たちの“創造の破壊”だ!!」
◆ 証明
蓮の一閃が、炎獄神の角を切り裂いた。
轟音と共に光が弾け、神の巨体が崩れ落ちる。
しかし、その顔には笑みがあった。
「見事だ……小さき創造者よ。汝の刃は破壊にあらず、調和と創造のための“理”だ」
そして神は光となり、蓮の《緋星核》に吸い込まれていった。
《灼焔核〈イグニス・コード〉》――炎の神性因子。
◆ 炎を超えて
噴火活動は静まり、灼熱の空気に涼やかな風が吹いた。
「これで、火も……」
「残るは“雷”と“虚空”だね」
ノアが呟く。
「雷はともかく、虚空領域は……」
イリスが言いかけた時、蓮が空を見上げた。
黒雲の向こう、紫電が閃いた。
「……次は、空だ」
彼らは歩き出す。
創造の旅は、まだ終わらない。