第20話「黎明帝国の胎動」
◆ 夜明け
虚空神ルクスを打倒した戦いから一日。
黎明城の中央塔最上階から眺める創世神域の夜空は、紫黒の闇を失い、金と銀が溶け合う黎明の色へと変わっていた。
「綺麗……」
ネフェリスが涙を零す。
「この光景が……本当に戻ってくるなんて……」
蓮は黙って隣に立ち、無限アイテムボックスから一枚の古びた羊皮紙を取り出した。
《黎明帝国基本法草案》
かつて帝国解放戦争時に作りかけた国家構想の原稿だった。
「……帝国、か」
彼の呟きに、背後から声が響く。
「帝国にするの?」
振り返ると、イリスが髪を風になびかせながら微笑んでいた。
「“国”のままでもいいんじゃない?」
「……いや」
蓮は彼女を見つめ返した。
「俺は……この国を“帝国”にする。自由を守るために、力を示さなければならない時もある」
◆ 帝国という理念
作戦室に集まった仲間たちの前で、蓮は宣言した。
「これから《自由黎明国ノヴァリア》を、《自由黎明帝国ノヴァリア》へと昇格させる」
重い沈黙の後、リーナが口を開く。
「……帝国に、なるってことは……」
「統治体制を再編し、周辺諸国に対しても外交権と軍事権を確立するってことだ」
蓮は仲間たちを見渡した。
「自由は、ただ“奪われない”だけじゃ守れない。“奪われないための力”が必要だ」
「確かに……」
カイエンが腕を組む。
「俺たちのような存在が国を創ったと知れば、周辺の国家も神族も放ってはおかないだろうな」
◆ 帝国の胎動
ミストがタブレット端末を操作し、創世神域全体の地図をスクリーンに映す。
「この神域には、かつて旧神連盟が作った人工浮遊島群が散在しています。それぞれに古代文明の遺産が残っているはずです」
ノアが頷く。
「そこを取り込み、行政区と軍事区に再編すれば、帝国としての基盤が固まる」
「でも……」
マリルが不安そうに呟いた。
「帝国って……強いけど、怖いイメージがあるよ……?」
ネフェリスが微笑んで彼女の手を取る。
「でも……蓮くんが創る帝国は、優しい帝国になるよ。きっと」
蓮は二人に歩み寄り、頭を撫でた。
「ありがとう。そういう帝国にするよ。自由で、優しくて……でも、誰にも奪わせない帝国を」
◆ 新たなる宣言
翌日、黎明城中央広場には二万人を超える民が集まっていた。
魔族、亜人族、人間。
全ての種族が一堂に会し、誰もが静かにその時を待っていた。
蓮は中央の玉座壇上に立ち、剣を抜いて天へ掲げた。
「聞け、ノヴァリアの民よ!」
彼の声が魔導拡声結界を通じ、広場全域に響き渡る。
「これまで我らは《自由黎明国ノヴァリア》として、この地に理想を築いてきた!」
風が吹き抜け、旗がはためく。
「だが、自由は奪われる。理想は破られる。弱ければ、全ては無に帰す!」
蓮は剣を下ろし、民たちの顔を一人ひとり見渡すように目を巡らせた。
「だからこそ俺は宣言する! 今日よりこの国は《自由黎明帝国ノヴァリア》となる!」
一瞬、沈黙。
そして――
「うおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
咆哮のような歓声が広場を埋め尽くした。
◆ 帝国の初代皇帝
リーナが隣で微笑む。
「陛下って呼ばなきゃだめ?」
「やめろ。鳥肌立つから」
蓮が苦笑する。
イリスが静かに言った。
「でも……これからは、あなたは“皇帝陛下”よ」
「……そうだな」
蓮は剣を鞘に収め、空を見上げた。
(逃亡者だった俺が……ここまで来たんだな)
◆ 迫る影
だがその頃――
創世神域の北端、虚空の裂け目から無数の神影が現れていた。
先頭に立つのは、黒銀の甲冑に身を包んだ女神。
「創世神域に……新たな帝国、か」
彼女は微笑むと、背後の神軍を振り返った。
「いいだろう。ならばその“帝国”を飲み込み、我ら《神界連邦》の属州として組み込むまでだ」
神軍が咆哮を上げ、地響きを起こした。
◆ 帝国の黎明
黎明城最上階。
夜空を見上げる蓮の隣で、イリスが静かに言った。
「これからよ。戦いは」
「……ああ」
蓮は無限アイテムボックスを開き、《創世神鎧〈オリジン・アーマー〉》を取り出した。
「この帝国は、絶対に守る」
月光を受けて、彼の瞳は鋼のように硬く光っていた。




