第13話「虚空神王の覚醒」
◆ 黒き玉座
雷神殿最奥、虚空の闇が渦巻く王座に座す影――。
雷神ライデアスであったはずのその存在は、既に人智の理解を超える“虚空神王”へと変貌していた。
「……お前は……」
蓮が呟く。
虚空神王は雷神の白銀鎧を纏ったまま、しかし顔は紫黒の闇に覆われ、微動だにせぬ。
だがその瞳だけが、血のように赤く、禍々しい光を放っていた。
『……創造者……』
それは声ではなかった。
音を介さず、意識そのものに直接響き渡る“概念音”。
『我ハ虚空……無ノ理……破壊ノ極点ニシテ……創造ヲ否定スル者……』
その瞬間、蓮の脳裏に走る鋭い痛み。
(っ……! 精神侵蝕!?)
イリスがすぐさま解析術式を展開した。
「だめ……! この侵蝕波は概念干渉系統! 通常の耐性結界じゃ防げない!」
「全員、耳を塞げ!! 思考に侵入されるぞ!!」
リーナが叫ぶが、虚空神王の干渉はすでに耳を越え、魂の深層に直接届いていた。
◆ 侵蝕の檻
世界が歪む。
空間が千切れ、重力が反転し、法則が崩壊する。
虚空神王の周囲では、時空すらその存在を維持できずに溶解していた。
「これが……虚空神王……」
ノアの顔色が蒼白になる。
「存在してはならない理……全ての存在否定……!」
カイエンが剣を構えるが、その刃は虚空神王を捉えることすらできなかった。
見る者すべての認識から外れ、そこに“いる”ことすら拒絶する存在。
「……っ……負けない……!」
ネフェリスが震える声で歌い出す。
癒しと光の旋律が雷神殿を満たし、仲間たちの精神侵蝕を僅かに軽減させる。
「ありがとう、ネフェリス……!」
マリルが補助結界を張り直しながら涙を零した。
だが虚空神王は、ただ玉座からゆっくりと立ち上がると、左腕を上げた。
その瞬間、世界中の光が奪われた。
◆ 絶望と決意
神殿が闇に沈む。
誰も声を発せず、ただ沈黙と恐怖だけがあった。
だが――
「……まだだ……!」
蓮の声が闇を裂いた。
「負けるな……! 恐怖も絶望も、全て背負え!! 俺たちは……ここで終わらない!!」
彼は無限アイテムボックスを開き、一振りの大剣を取り出した。
《黎明神剣〈アウローラ・エクスカリバー〉》。
かつて虚空神王を封じたと伝えられる創世剣。
「これを……!」
「蓮、それは……!」
イリスが叫ぶが、蓮は迷わなかった。
「全員、雷神殿の外へ退避!! ここからは……俺がやる!!」
「だめだ!!」
リーナが叫び、彼の腕を掴む。
「一人で戦うなんて……そんなの……っ!」
蓮は微笑んだ。
「一人じゃないさ。お前たちがいる限り、俺は絶対に折れない」
その言葉に、リーナの瞳から涙が溢れた。
「……死ぬなよ……!」
「ああ」
◆ 虚空神王との対決
剣を構えた蓮の周囲で、雷と虚空が交錯する。
「来い……虚空神王……!」
神王がゆっくりと歩み出した。
その存在感だけで神殿が崩壊し、空間が音もなく裂けていく。
『無意味……無価値……無存在……』
虚空神王は右手を掲げた。
次の瞬間、神殿全体が紫黒の光に包まれる。
それは全てを無に返す光。
この世界も、命も、魂も、存在も、情報すらも飲み込む終焉の光だった。
だが――
「俺は、終わらせない!!」
蓮の剣が光を放った。
黎明神剣の刃が、虚空神王の放つ終焉光を斬り裂く。
そして――
「これが……俺たちの……未来だああああああああっ!!」
剣閃が空間を裂き、虚空神王の胸元へと突き刺さった。
◆ 虚空の崩壊
虚空神王は、一瞬だけ赤黒い瞳を細めた。
『……小サキ創造者……オ前ハ……』
声が闇に溶けると同時に、虚空神王の体は光となって崩壊していった。
空間が元に戻り、雷神殿に光が戻る。
イリスたちが駆け寄り、リーナが涙声で叫ぶ。
「蓮!!」
蓮はその場に膝をつき、肩で荒い息を吐きながら微笑んだ。
「……終わった……これで……」
しかし、その瞳にはまだ決意の光が宿っていた。
(まだだ……これでようやく、“創造”のスタートラインに立っただけだ……!)
◆ 新たな創造
雷神殿の外。
夜空には無数の星々が瞬いていた。
その中央に、虚空神王の消滅と共に開かれた新たな座標ゲートが輝いていた。
「これが……」
イリスが呟く。
「新世界創造の座……」
蓮は立ち上がり、皆を見渡した。
「行こう。俺たちの国を……この手で創るために!」
仲間たちは頷き、夜空を見上げた。




