第11話「雷鳴と虚空の狭間」
◆ 迫る終焉の兆し
黒翼竜神グラディオルクスとの契約を果たし、砦を救った蓮たちは、その夜明けと共に砦の広間で次なる戦略会議を開いていた。
「これで《風・地・水・火・雷》の五大属性神格因子は揃ったわけだ」
ミストが魔導端末に表示された“属性核一覧”を指差す。
「残るは……虚空」
リーナが重い声で呟いた。
虚空――それは世界の因果系統すら飲み込む、無秩序の極致。
「問題は、虚空領域がどこに顕現するか、だな」
カイエンが地図を睨むが、解析画面には【空間座標特定不能】と赤字で表示され続けていた。
「座標が存在しない、ということ?」
ネフェリスが首を傾げる。
「存在していないのではなく、“確定していない”。虚空は可能性と無の狭間にあるから」
ノアが指を鳴らし、別のスクリーンに切り替えた。
「だが、黒翼竜神の記憶解析で一つ分かったことがある」
彼はグラディオルクスと契約後に得た膨大な神格記憶データを展開した。
「“虚空神王”は、雷神界ヴォルトレイアとの座標干渉領域――つまり雷属性と虚空属性の干渉点に顕現する」
「雷神界……」
蓮は拳を握り締めた。
雷神界ヴォルトレイアは、世界最北の雷嵐大陸に存在する“天空領域”。そこに存在する神殿に辿り着ければ、最後の神格因子“虚空”へ至る可能性がある。
「決まりだな」
蓮が立ち上がると、イリスも同じく立ち上がった。
「虚空神王……もし倒せれば、全ての調律座が統合される。つまり――」
「新世界創造の鍵が揃うということだ」
蓮は無限アイテムボックスを開き、深銀色の魔導杖を取り出した。
《虚空座標探査杖〈スペース・レゾナンス〉》。
かつて古代種の遺跡で手に入れた虚空探査用の秘宝だ。
「これで虚空神王の座標確定を試みる。あとは……」
「雷神界への道だね」
マリルが小さく息を呑んだ。
「雷神界は常時、雷雲と磁気嵐に覆われてる。普通の転移や飛行艇じゃ近づけない」
「グラディオルクスの翼であれば……雷神界まで到達可能だ」
蓮が視線を向けると、黒翼竜神は青年の姿のまま頷いた。
「我が雷の抗体を纏わせれば、神界嵐も通過可能だ。……だが」
その顔に、僅かな陰が差した。
「雷神界には、既に“虚空神王”の一端が侵食を始めている。雷神ライデアス……彼が無事とは限らぬ」
「……!」
イリスが目を伏せた。
雷神ライデアス――雷霆と破断を司る神族。もし虚空神王の侵食を受けていれば、神界ごと虚無に飲まれる可能性すらあった。
「だが行くしかない。俺たちが創る未来のために」
蓮の言葉に、仲間全員が頷いた。
◆ 雷神界ヴォルトレイア
数時間後。
黒翼竜神グラディオルクスの背に乗った蓮たちは、雷雲を突き抜け、ついに天空に浮かぶ大陸へと辿り着いた。
「ここが……雷神界……」
リーナが思わず呟く。
そこは無数の雷光と、光を反射する白銀の大地が交錯する幻想的な世界だった。
だが同時に、空間全体に漂う殺気と、紫黒の靄が、明らかに虚空の気配を放っていた。
「……侵食が進んでるわね」
ミストが険しい表情で解析結果を示した。
「神殿中心部が、虚空波に完全に呑まれかけてる。急いで!」
◆ 雷神殿
雷神殿へと続く参道には、かつての神族兵たちが“虚空騎士”として立ちはだかっていた。
「こいつら……!」
シャムが槍を構えるが、その数は数百。
「突破する!」
蓮が無限アイテムボックスから《神滅級拡散魔導砲“バルムンク・オメガ”》を取り出した。
「これなら一掃できる!」
「ちょ……蓮さん、それ建国用に封印してた超兵器じゃ……!」
マリルが慌てたが、蓮は構わず起動コードを唱えた。
「全魔力障壁展開!! 砲撃ッ!!」
砲身から放たれた紅蓮の閃光が、虚空騎士たちを纏めて焼き尽くした。
「進むぞ!!」
灰と化した虚空騎士たちを踏み越え、蓮たちはついに雷神殿最奥へとたどり着く。
そこにあったのは――
◆ 虚空神王
玉座に座す、一体の影。
雷神ライデアスの白銀鎧を纏いながら、その顔は紫黒の闇に覆われていた。
「……雷神……ライデアス……」
イリスの声が震える。
「違う……。これはもう、虚空神王だ」
蓮は剣を抜いた。
「終わらせる。虚空神王……お前ごと、この世界を救う!」




