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第三話

試作段階につき、誤字脱字の可能性あり

期日"4月15日

この日は天候は雨だった

春に降る雨は春雨と言うらしい

春雨、と言っても梅雨の時期の雨ではなく、

霧雨のように僅かな雨粒が降るのである

そういえば。

病院で入院していたあの日も、霧雨が降っていた

・・・・・・・・・・・・・・・・・

2ヶ月前。

その頃には体の機能はほぼ、

階段を登れるくらいには回復していた

その日、隣にいた看護師に

「屋上に行ってもいいか」

とたずねた。

看護師は私を止めもせず

ただ、「どうぞ。」と言っただけだった

私はそれを聞くと、すぐに屋上へ向かった

病院の屋上にはテラスのようなものがあり、

花などの植物が飾られていた

さー…

外では小さい雨音を響かせながら降る霧雨

この風景はとても静かだった

自分だけしかいないこの空間は__の場所にふさわしかった

・・・・

その沈黙が破られたのは十秒後だった

「こんにちは」

背後から、明るい少女の声が響いた

「…誰だ?」

少女は真っ白なワンピースを装い

白帽子に白い傘を身につけていた

その姿はかつて自分が見た「誰か」に酷似していた。

「お前は…」

私はかつての友の名前を言う

「瑠美、か?」

・・・・

「ううん、違うかな…」

少女はこう返事した

「なら…誰だ?」

私は聞き返した

「私は、本当に苦しんでいる人の前にだけ現る者」

「…名前はないのか?」

「うん、私には『名前がない』の。」

少女は続けて言う

「私は『本当に苦しい思いをしている人を救う』ただそのために生まれた存在なの。」

「…そうなのか。」

「私が何をしようとしているのか、わかるのか。」

私は言った

「…あなたは、『死にたい』んでしょ。」

少女は少し暗めに言った

・・・・・・・・・・

数分の沈黙が流れる

霧雨は傘を持たない私の眼前に降り注ぎ

視界を歪ませた

そしてもう数分後私は気づいた

私の頰を大きな雨粒が通ったことを

・・・・・・・・ 

図星だ。


70年前、小学生当時、いじめられていた私を救ってくれたのが妻との出会いだった

妻とはその時からお互いに同じことを考えるほど意気投合で、中学生になってもそれは変わらなかった

趣味や志望校も一致していたので私たちは共に手を取り合って生きていった

そして、中学3年生で私は妻に告白した

その時に見せた妻の赤面と笑顔は今でも鮮明に残っている

それから、私たちは二十歳で結婚し、幸せな家庭を築いた

そしてその人生はこれからも続くはずだった


だが、


5年前、私の普遍的人生は反転した。

交通事故に巻き込まれたのである

そして、私は

『最愛の妻を失った』

それまで、一緒の過ごしてきた存在が

一瞬にして亡くなる

信じ難いことだった

受け止め難いことだった

そしてその時、私は初めて感じてしまったのだ


「死にたい」と。


妻が死んでしまってからは何事にも手がつかず

もはや廃人と言えるほどに衰弱してしまった

それから1年、2年経とうと、私は妻の死を信じることができなかった

それに反して、私の自殺願望はどんどん膨れ上がるばかりだった。

そしてつい一週間前、私は自殺を実行した。

ギラリと光る刺身包丁を両手でしっかり握りながら腹に向け

両腕を、引いた

ズッ

鈍い音と共に、血液がじわじわと湧く気がした

それを見ないうちに私は気を失った

。・・・・・・・・・・・・・・・・

そして、先ほどに至るのである。

私の「死にたい」と言う思いに変わりはなかった

今日、こうして屋上に来たのも、「死ぬ」ために来たのである

完全に濁りきっている私の心に対して

少女の言葉は私の信じ難い真実を抉り出させるものに過ぎなかった

「…お前に何がわかるんだ!」

私は片目から涙を流しながら憤怒していた

「私の妻が死んだことに対する後悔が、絶望が‼︎」


妻は何年もの時を一緒に過ごしてきた大切な人だ。

「私のトラウマを…お前みたいな…」

私の怒りは深い後悔と絶望に変わった

「お前のような『偽物』が話して何になるってんだ…」

私は膝をついてしゃがんでしまった

心臓は激しく鼓動し、過呼吸になる

思い出したくないことを言われてからは

ずっと、心が痛んでいる

あの少女は私を今ここで死なせるためにここにいるのだろうか



「…確かに、あなたが言いたいことはよくわかる…

 あなたの親戚でもない何者かが貴方の過去を言うってことはね…」

彼女は間を開けていった

「なら、何で私のところに来た…」

私は言う

「あなたを救ってほしい、って『あなたの妻』が願ったからよ」

そう言うと彼女は「一枚の手紙」を出した

「これは、『あなたの妻』からあなたへの手紙よ。」

私は手に取りそれを見た

そこには___

『恭二さんへ

 覚えていますか

 かすみです

 交通事故に巻き込まれてしまってから私は青空の中にいます

その空間には一人の少女がいたんです

白いワンピースに白帽子

藍色の長髪の少女でした

私は彼女に聞きました

「私は死んでしまったの?」と。

彼女は悲しげな表情をしながら頷きました

私は泣いてしまいました

もうあなたと話すことができない

会うことさえ許されなくなったのだ、と。

しかしながら、いくら泣いてもキリがありません

私は彼女に言いました

「何とかして私の夫にメッセージを送りたい」と。

彼女は「それなら」と言って私に一枚の便箋を渡してくれました

「この便箋に貴方が伝えたいことを書いて」

そう言うわけで私は今、この便箋に書いています


きっと貴方はこの手紙が届くまでは

私を救えなかった後悔と

この先生きていくことに絶望を感じているのでしょう

どうか、この手紙を読んで考え直して欲しいのです

生き残った貴方は最後まで生きていてほしい

自分の人生を見捨てないで

そして、どうかこの手紙を私の形見だと思って生きていて欲しいのです

それでは現世の貴方が最後まで幸せに生きれることを願って

貴方の妻 かすみより』


手紙は彼女の生前の頃の字と全く同じだった

そして私は気づいた

彼女は『私の死』を望んでいないのだと。

それと同時に私を締め付けていた自責の念が解けた気がした

「ああ…そうか…そうなのか…これがお前の言葉なのか…」

額から大粒の涙が溢れる

なんてことを考えていたのだろう

彼女は私を責めていなかった

それどころか彼女は私のことを心配してくれているのだ

そんな妻に対して

私は何を考えていたのだろう

______

「…すまない、私は間違っていたよ…妻は私を恨んでいなかった…

 君に対して身勝手な発言をしたこと、本当に申し訳ない…」

少し間をあけ私は少女にいった

「いいんだよ。死に際の人たちはみんな自暴自棄になるものさ。」

でもね、

「私はそのようにして人が死んでいくのが嫌だったの」

「だから、このようにして救っているの」

彼女はこう言った

「ありがとう…妻からの手紙を届けてくれて…」

私は言った

彼女は最後に「これから生きることは出来そう?」

と言った

「ああ、大丈夫だ…きっと…」

私は答えた

「それじゃあ、残りの人生を楽しんで…」


彼女はそう言って姿を消したのだった

その頃には霧雨は止んで、

見渡す限り青空が広がっていた

・・・・・・・・・・・・・・

その日以来、私は春の霧雨が降る頃には

あの時の手紙とある白い花を飾っている

花の名前は「カスミソウ」

彼女の名前と同じだ

花言葉は「感謝」

貴方とあの少女のおかげで

私は今を生きることができる

ありがとう

精一杯の感謝を込めて…


第三話 『花と老人』










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