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「……ない」
アロンが苛立ちまぎれに言う言葉にルシウスも力なく頷いて同意した。隠し通路か何かがあるのではないかと思い、暖炉の中にまで入り込んで調べてみたが結果としては、服がはいと埃まみれになるだけでしかなかった。
完全なる徒労である。
「うーん……。外からよじ登っててみるかい?」
なすすべなしと座り込んだルシウスは天井を仰ぎながら、力なくそう言った。
「できればそれをしたくなかったんだがなぁ……。窓がある保証もないし、壁がぶち破れるかどうかも分からないからな……」
隠し通路を探す過程で結果として屋敷の中をもう一度探すはめになったが、やはり敵は気配も何も感じられない。
最早、既に死んだ魔物の最期の悪あがきというか、デストラップとでも言うべきだろうか、そんなものだったのではないかという気さえしてきていた。
「あれ……?」
その時ふとルシウスは、天井が一部剥がれ落ちているのに気付いた。いや、剥がれ落ちているだけというならば、こんな廃墟ともいうべき屋敷の中のこと故、さほど珍しいことではない。
だが何かが妙に引っかかりを覚えた。
「どうした、ルシウス?」
「ちょっと……」
立ち上がったルシウスは、その剥がれた天井の真下まで近付く。だが天井の位置が高すぎて、いまひとつよく見えない。
きょろりと辺りを見渡したルシウスは、手近にあった椅子を引き寄せ、それが傷んでいないのを確かめた後その上に昇った。
「何かあるのか?」
興味深そうに近付いてきたアロンが、下からそう訊ねてきた。
「うーん……」
ルシウスはじっくりとそれを眺めてみるが、やはり何に違いを覚えたのかよくわからなかった。なので試しにそれを指でコンと叩いてみる。
「うわっ」
ほんの中の様子を確かめるだけのつもりだったその行為は、ルシウスの予想に反して天井板を外れさせ、それはルシウスの頭上へと降ってきた。それに驚いたルシウスは、立っていた椅子から足を踏み外し、その椅子ごと床に転倒する。
ルシウスの隣に外れた天井板が落下して、床の上でパリンと音を立てて割れた。だが上から降ってきたのはそれだけではなかった。
「いてて……、――っだ!?」
ぶつけた臀部をさすっていたルシウスの頭に、天井板と別の何か硬いものがぶつかった。 それはジャララと音を立ててルシウスの背後に垂れ下がる。
「おい、これ……」
はじめはルシウスを心配そうに見ていたアロンも、ルシウスの後ろに垂れ下がったそれを見て目を丸くした。
「何……? ちょっとくらい、心配してくれたって……」
痛がるルシウスをそっちのけで何かに驚くアロンに、少々ぼやいていたルシウスだが、自分の頭に降ってきたものが何なのか確かめようと後ろを振り返ると、気が付けばアロンと同じ反応をしていた。
「これ、梯子……?」
ルシウスは呆然と呟く。その言葉の通り、そこには先ほど外れた天井板のあった穴から垂れ下がる縄梯子のようなものがあった。ただ縄梯子といっても、金属の棒と鎖でできているため、劣化や損傷は少なそうだ。多少錆ついてはいるようだが、登るのには遜色なさそうな程度だ。
「どうやらこれがオレ達の探していたブツらしいな」
アロンはまだ見ぬ敵に期待をしているのか、ワクワク――というよりは爛々と目を輝かせている。
「まあ、この先に本当に敵がいるかは分からないけどね」
ルシウスが冷静にそう言うと、アロンは白けた目をして肩を竦めた。
「そういう気の削がれるようなこと言うんじゃねえよ、まったく……。まあいい、行くぞ!」
そうしてアロンは実に楽しそうに、そしてルシウスは少し神経質に、梯子の一段目に足をかけた。