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 早速二階に辿り着いたルシウスは、広い主寝室の中央に立って目を閉じた。

 冒険者をするようになってから、やはり王都できちんと教育を受けるべきだったのではないかと思うことが増えた。村にいた時も力の使い方を学んでいなかったわけではないが、主に書物と時折派遣されてくる魔導師の教えのみでは、不十分に感じることもあった。

 一刻も早くレイティアを探したかったが故の選択だったが、 力の使い方の面においてはやはり人より劣る面があるのは自覚していた。

 とはいえ ルシウスの力は人並み外れている。そのため力押しでなんとかなるのも事実であった。

  今も本当はもっと効率の良い方法はあるのかもしれない。 だが今のルシウスにできることは、ただ己の力で屋敷全体を包み込むように力を放出することだけだ。

 しかし今回に限ってはそれで良かったのかもしれない。

 ルシウスの周囲が仄かに明るくなり、次第に眩しいほどの光に包まれていく。アロンがその光に目を細めた時、黒い影が断末魔と共に浮かび上がった。

「本当にやりやがった……!」

 眩い光に目を細めながらアロンは叫んだ。

 ここまでやってしまえば、後はアロンの仕事だ。ルシウスは飛び退るように、アロンの後ろ側へと回った。アロンが腰に佩いていた長剣を抜く。

「アロン!」

「 後は任せろ!」

 強く地面を蹴ったアロンは、光に照らされ苦しんでいる魔物の頭上へと飛び上がった。そして握っていた剣を大きく振りかぶる。

「あばよ!」

 アロンはそう捨て台詞を吐きながら、黒い靄のような魔物を両断した。

 魔物は叫び声をあげる。しかしその叫び声が消えるとその身体は、解けるように分解していき塵のような粒子となって消えていった。

 その魔物の核がコロンと音を立てて床に転がった。着地したアロンがそれを拾い上げる

「よし、これで依頼達成だな」

  魔物がいなくなったせいか、息をするのがフッと軽くなる。

「さて、帰るか」

「あ、待って。まだ女神像のことを――」

 ――まだよ、ルー。

 その時、アロンの足元にフッと黒い影のようなものが現れたのに、ルシウスは気付いた。

「アロン!」

 ルシウスは部屋を出ようとしていたアロンの腕を掴み、自分の方へ無理やりに引き寄せた。

 驚いたアロンは「何しやがる」とでも言いたげな顔でこちらを振り返ったが、その時には彼がいた場所の床は消失していた。

 それに気付いたアロンは、 たたらを踏みその勢いのまま尻餅をついた。

「悪い……、助かったよ……」

 素早く立ち上がったアロンはピリリとした緊張感を滲ませながら、周囲を警戒している。

「まさか、もう一匹いやがったのか……?」

「みたいだね……」

 ルシウスは慎重に消失した床の方へ近付いていった。

 まるで初めから存在しなかったかのように、その床は綺麗な断面で消えてしまっている。もしまだアロンがそこにいたとしたら、どうなっていたかなど想像するだけで怖ろしい。

 ルシウスはその断面に指先で触れた。

「微かに魔の気配を感じる……。さっきのやつの仲間――、(つがい)? 」

「あぁ……、そうかもしれない。(つがい)をなしている魔物は、気配が似ているとも聞く。だが今その気配を感じないところを考えると、相当隠れるのが上手い奴らしい」

 アロンの言う通り、ルシウスにも今は全く魔物のものらしき気配を感じることはできなかった。 どこかに身を潜めて、こちらの様子を伺っていると考えるのが妥当だろう。だが心当たりは全くない。

 屋敷の中はほとんど調べ終わっている。それでも見つからなかったからこそ、今ここにいるのだから。

 それともまだ調べきれていないところがあるのだろうか。

 ――屋根裏は見たかしら、ルー。

 ルシウスはふと天井を見上げた。外から見た景色の様子を思い出す。そして今度は窓辺に近寄って外を見渡した。

「どうしたんだ、ルシウス?」

「 この屋敷、まだ上があるんじゃないか?」

「え?」

 アロンはルシウスの隣から同じように窓の外を見た。そして屋根の方を見上げる。

「……調べてみる価値はありそうだな」

 二人は顔を見合わせて頷き合い、上へ続く道がないか探すことにした。

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