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「やっと戻ってきた……。いえ、戻ってきてしまった、と言うべきなのかしら……」
レイティアは、かつて魔導師として 愛した男――ルドのそばで生きた最期の瞬間を思い出す。
「 ちょうど…この場所だった、わね」
最後の記憶よりも古び、年月の流れを感じさせる謁見の間にレイティアは膝をついた。
自分が最後に立っていた場所に、その手で触れた。。流れた血は当然残っていない。 あの頃は人のふりをして生きていたため、血痕の一滴や 二滴は落ちていたのだろうが、きっとすぐに誰かの手で綺麗に拭いさられたのだろう。
まるで元からそこに誰もいなかったかのように。
「あなたがとても憎いわ、ルー」
この国を焦土と変える魔法陣を、レイティアは書きはじめる。だがそれも、起動させるためだけのもののため図案はとても簡単だ。すぐに書き終わってしまう。
本当はこの国を守るためのものを、ルドのそばで仕上げるつもりだった。 彼はきっと、その作業を全て終えて帰城したのだと思っていたはずだ。だから不要となった月の精霊を始末した。 彼が早まったことに気づいたのは、レイティアが封印されてしばらくたってからのことだ。
動くことのできなくなった レイティアだったが、外の状況は多少なり把握できていた。だからこそ憎き己の敵であるルドの生まれ変わりをすぐに発見することもできたのだ。
「… …、」
利用してしまった少年のことを思えば、ほんの少しだけ残った良心が痛む気がした。
しかし悲願は成就されようとしている。 彼のことを考えてはならない。そう言い聞かせて思考に蓋をする。
だが気がつけば少年の笑顔が頭に思い浮かぶ。
彼は「魔女と結託した」として殺されてしまったのだろうか。それとも「利用されただけ」だと、恩情をかけてもらえたのだろうか。 情報が統制されていたのか、彼の安否を知ることはできなかった。
「……いいえ、それは嘘だわ 」
知ろうと思えば知ることができた。それをやらなかったのは、真実を知るのが怖かったからだ――。
「結局、ルー。私は あなたのことを――」
「レイティア!!」
思考を打ち切るように、少年の声が響いた。
聞き慣れた声。
その声の主は――。
「ルー……」
振り返ればそこに、「魔女に利用された哀れな少年」がいた。