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月の女神の御心のまま【web連載版】  作者: 桜 みゆき


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「最近っ、魔女の夢は見るのか!?」

 アロンがルシウスに向かって剣を振りかぶりながら、そう問いかけた。

「いや、まったく、だっ!」

 ルシウスも負けじとそれを剣で受け流しながらそう答えた。

 魔女――レイティアを殺すと決めた日から、早ひと月が経っていた。腕や背中の傷もだいぶ良くなり、最近はアロンの指導のもと剣術や魔法の扱いについて学ぶことに精を出していた。

 右腕の傷は動きに支障こそないわ、放置しすぎたためかうっすらと跡が残っている。自分が彼女に惑わされアロンを殺しかけたことを思えば、安く済んだ対価だと言えるだろう。

「っ、あ!」

 アロンの攻撃にルシウスの剣が弾き飛ばされた。ルシウスの手を離れくるくると宙を舞ったその長剣は、背後の地面に深々と突き刺さる。

 ルシウスは尻餅をついて両手を上げた。

「降、参……。ちょっと休憩させて……」

「……仕方がないな」

 苦笑いのアロンは、持っていた剣を鞘に納めると、ルシウスと同じように地面にドカリと腰を下ろした。

 ルシウスはぜーはーと肩で息をしているが、アロンは涼しい顔だ。剣術においては力の差がありすぎる上、長いこと病人として生活していたため筋力も落ちていた。それが理由だと言いたいルシウスであったが、同じく病人だったのはアロンも同じである。むしろ、彼の方が重症だったのだ。言い訳さえさせてくれない。

 ルシウスは少し恨めしげに、流れる汗を袖で拭うアロンを見た。

「まったく上達した気がしないんだけど……」

「……はぁ? 」

 アロンは、全く心にもないこと言われたようで目を丸くして、しばしルシウスを見ていた。

「何言ってんだか……。この前までまともな訓練を受けたことがない人間とは思えない成長なんだぞ?  第一、魔法ありの戦闘だったら、正直お前の圧勝だろ?」

「……お世辞はいいよ」

 ルシウスは肩を竦めた。

 確かにアロンの言うとおり、ルシウスが元から持っている光の力を最大限使えば、「圧勝」なのかもしれない。だが、その力をうまく使いこなすことができていない現状では、アロンの方がはるかに、格上の相手であった。

「お世辞なんかじゃないぞ? 訓練を始めた頃に比べたら、かなり腕は上がってきてる。追い越されるのもすぐだ。オレが先輩面してられるのも今のうちだけだからなぁ」

 アロンは後ろに両手をついて、空を見上げた。

 今日はとてもいい天気だった。――魔女が解き放たれたとは思えないほどに。

 レイティア、いや、「災厄の魔女」はこの国をひどく恨んでいるらしい。 絵本に出てくるような魔女は、ただ国や勇者を脅かす「悪役」でしかなかったが、歴史書に記載されている彼女とは「ただの悪役」とは少し違う。

 ルシウスも知っている「レイティア」の名前で記載されている彼女は、はるか昔は高名な魔導師だったらしい。それこそ世界中に名を轟かせるような。だが何の因果か勇者たちをひどく憎み、国を滅ぼさんとしていた。それゆえに勇者たちによって封印されてしまったのだという。

 勇者たちが力を合わせても、殺すことができなかったからだ。

 それ以降王都の地下深くで秘密裏に神官たちによって封印が施され続けてきた。初めに勇者が施した封印が溶けてしまわないように。

 それでも()の 勇者に匹敵するというルシウスの力をもってすれば、その封印も簡単に解けてしまったのだ。

 レイティアはそれを成すためにルシウスを利用した。それをもうルシウス自身もこのひと月の間で理解していた。

 もう久しくレイティアが「助けを求める」夢は見ていない。だが――

「……魔女はいつ国を襲いに来るんだろうな」

 アロンがぼんやりとそんなことを言った。

「魔女」は、この国を滅ぼさんとしている。今はどこかで全盛期の力を取り戻しつつ、機会を伺っているのだというのが、神官たちの総意であった。

 ルシウスもそれを否定したいわけじゃない。しかし、素直に頷くにはいささか抵抗があった。

「本当に来るのかな……」

 独り言のようにそうつぶやくと、アロンが少し痛ましげな目でルシウスを見た。

 ルシウスはそれに苦笑を返し、視線をそらした。

「最近、少し変な夢を見るんだ」

「……どんな」

「勇者になって世界を旅しているんだ。魔物を倒しながら、いつか人々が安全で暮らせる場所を作れるように」

「 魔女に『勇者の生まれ変わり』だって言われたこと、気にしてるのか?」

「……そうかもしれない」

 そう返しながらも、真実はそうではないのだとルシウスはどこかで分かっていた。

 夢でルシウスは「勇者」だった。勇者の視点でただ世界を見ていく。

 そしてそれはきっと、過去に本当にあったことなのではないかと思い始めていた。

「――ただの夢さ。あんまり気にするなよ」

 よほど思いつめた顔をしていたのだろうか。アロンはルシウスを慰めるように肩を叩いた。

「わかってるよ。……続きをしようか」

「そうこなくっちゃな」

 ルシウスは立ち上がって、遠くへ飛んで行った剣を拾いに行った。

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