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「ん……?」
「――お、目が覚めたか?」
レイティアの代わりにルシウスの目の前に現れたのはアロンの顔だった。
「アロン……? ここは、っ……」
「あ、おい無理すんなよ。自分がケガだらけなの忘れたのか?」
そう言われてようやくそれまでの事を思い出した。自分の右腕と背中の怪我のことだ。背中の痛みをこらえつつ、それまで寝ていた寝台に身を横たえる。
「それで、ここは?」
「 病院だ。 あの後のこと覚えてるか?」
「……いや、あんまり」
「お前の助言のお陰で蜘蛛を倒したとこまで覚えてるよな?」
アロンの問いかけに、ルシウスは頷いた。
「あの後ぶっ倒れたお前を、俺は担いで一番近くの町まで戻ってきた。そっからお前は病院にとりあえず預けて、依頼主に事の次第を報告したんだ」
「っ、そうだ、女神像は!?」
「まあ落ち着けよ。その女神像はあの屋敷にあると言われてる。だから俺様は気を利かせてたなぁ、『まだ小物が入るかもしれないから、もう一度調査をしてくる。それまで待ってくれ』そう言って依頼主を待たせてある。だからまあお前は、との傷を治して、それからゆっくり探しに行こうぜ」
「……嫌だ、もう行けるからすぐに行く」
「は? あ、おい!」
あっけにとられるアロンを尻目に、ルシウスはベッドから起き上がった。多少痛むが動けないほどではない。
慌てたアロンは、ルシウスの肩を掴んで引き留めようとする。
「安静にしてろ、って。まさか女神像が歩いて逃げるって言うわけじゃないだろ?」
「それでも早く確かめたいんだ……!」
ルシウスはアロンの手を振り払い病室を出ようとした。
「あ~、もう! 持って、って! 分かったよ、俺も行く」
「え、けど……」
「俺が誘った依頼で怪我させたんだから、その後始末も俺の責任だろ。それに一人で行かせて何かあったらどうするつもりなんだ。…… どうしても行くんだろ?」
ルシウスは、レイティアのことに関してアロンを巻き込むことを少し躊躇した。だがこのままここで食い下がっても、無理やり病室に縛り付けられるか黙ってついてくるかのどちらかだと思われた。
早くレイティアを救いたかった。
だから、ルシウスは頷いた。
「よし、となれば看護師に見つかる前に行くぞ」
そうしてこっそり病院を二人で抜け出した。
病院から抜け出した二人は、くだんの屋敷へと舞い戻っていた。
「それでお前はどんな女神像を探してるんだっけ」
「 水晶……のように澄んだ石でできた女神像だ」
「 んー……。あんまり聞かない話だな。でもここのは、水晶で出来てるって話だぜ」
「 へぇ。それは誰からの話?」
「依頼主だ。依頼主が小さい頃にここへ忍び込んだことがあったらしい、その時にそんなのを見つけたとかいう話だったな」
「……何でまたその話を聞いたんだ?」
「女神像を探してるってお前の話は、ここ最近では有名になってたからな。その上強い光の力を持ってるという話だし、ぜひ力を借りたかったんだ。だからこの話なら食いついてくれるんじゃねぇかとな」
「じゃあ僕は、まんまとのせられたわけだ」
「お、怒るなよぉ。 交渉材料はいくらあってもいいだろ?」
「まあね。――それで? どの辺りで見つけたとか聞いてないの?」
「ま、子供の行くところなんて、みんな一緒だろ」
「? どういうこと?」
「屋根裏さ」
ルシウスはなるほどとうなずきながら、アロンの後をついていった。