摩子…
「私が自分の力に気付いたのは…幼稚園の入園式だった…」
夕食後…ひろみの部屋でくつろぎながら摩子は自分の生まれ持った不思議な力について語りだす
「初めて見た幼稚園が珍しくて、私は母に手をひかれて…キョロキョロしてたのね
そしたら…滑り台の傍で小さな女の子が俯いて立っていたんだ」
「あ、それって正門くぐってすぐの所にあるやつ?」
「そ、ひろりんも同じ幼稚園だから憶えてるでしょ?」
「でね、すごくいい天気なのにその子のところだけ影がさしてて暗かったから気味悪くってさ…
子供心に好奇心が勝って、ついついガン見してたら母に手をギュっと握られて「見るのやめなさい! 」って小声で言われて
びっくりして母の顔を見上げるといつになく真剣で怖い顔をしていたの」
「それって…おば様にも見えていたのよね?」
「もちろん…母は跡取りだからね…でね、家に帰るとおばあ様の部屋に来るように言われて…私、いつも遊んでくれる優しいおばあ様が大好きだったからさっき見た女の子のこと、聞いてもらおうと思って部屋に入ったら…いつものおばあ様らしからぬ圧倒するようなオーラが出ていてね
なんだか怖くて…一瞬、言葉を失ってしまったの…」
おばあ様は私を見て手招きするといつものように優しいお顔に戻って「話は美千代から聞いたよ…摩子ちゃん、こっちへおいで…」
私は少しだけホッとしておばあ様のお膝に乗るとおばあ様は私の髪を撫でながら口を開いた
「お前にだけは…平凡な幸せをと思っていたが…可哀想に…
チャクラが開いたのなら…仕方ない…いいかい? これからおばあちゃまの言うことを黙って聞いておくれ…」
おばあ様は憐れむように私を抱きしめると我が家に代々伝わる力について語ってくれたの
「我が竜崎家は…平安時代から悪霊や魑魅魍魎を祓い、未来を見通せる力を持っている
天皇家の者や我が国の首相をはじめ、官僚、時の権力者たちが大金をつんで我が家に訪れ、私とお前の母親は依頼人の未来を占い、どう行動すれば危機を避け、天下をとれるかなど的確なアドバイスを与えていた
だが…我ら種族の力は凄まじいため、その事は世間に知られてはならない…他言無用を守らなければ組織に狙われてたとえ、お前とて命の保証はない
まだ幼いお前だ…難しいことは理解できないだろう…ただ、力が目覚めた以上、世界のトップの権力者たちにお告げを与え、悪しき霊と闘い、祓い、
「竜崎家の巫女」としてこの家を継がなければならない」
「そう言われてショックを受けている間もなく力を磨く修行をさせられたってワケ
私の修行に立ち会ったのはうちの父の秘書の安藤とおばあ様だった…」
摩子が聞かせてくれたあまりに重たい内容にひろみは言葉を失ってしまう…
「ごめんね…摩子…軽々しく聞いて…私に話して…大丈夫なの?」
青ざめているひろみの手を摩子は優しく握って微笑んだ
「なに青い顔してんのよ、大丈夫、この会話はシャットアウトしているからおばあ様や両親にも気づかれないわ」
「シャットアウトって…そんなことが出来るの?」
「シャットアウトは安藤が教えてくれたの
お母様にもおばあ様にもできない能力よ…」
「安藤さんって、いつも影みたいに摩子に付き添っている人よね
私、オスカルを見守るアンドレみたいだなって思ってた…」
ひろみの言葉にこーじと摩子が同時に噴出した
「あははっ、もう、だから、私はひろりんが好きなの」
「脳内がお花畑の天然だからなぁ ベルばらに変換されたんだな」
「二人ともそんなに…笑わなくたって…安藤さん、影があってかっこいいじゃない」
「安藤に言っておくよ 喜ぶよ、きっと(笑)」
「なるほど…どうりで俺の声も聞こえるはずだ…」
こーじはひろみの兄にそっくりな桜男の姿になる
「きみになら見られても害はないだろう…」
「害にならないどころか、私はこの世の中で最も信頼できるひろりんの味方よ…」
「嬉しい…」
「えっ…」
「私、嬉しい! 摩子にこーじを見てもらえて…お兄ちゃんにそっくりでしょう?
初めて会った時にお兄ちゃんが化けて私をからかっているんじゃないかって息が止まったもん
彼が桜男でも桜に住む鬼でもたとえ悪魔でもいいの!
私は彼と一緒に生きていくって決めたから…だから、大好きな摩子に会ってもらえて嬉しいの!」
「ひろみ…」
そう言って摩子に抱き着くひろみをこーじは切なそうに見つめていた