9話「七女セヴィフォリアは愛されている(2)」
セヴィフォリアにとってカインは特別な人だった。
ただ一人――誰よりも近くに――傍にいた人。
将来を誓い。
愛を信じ。
歩もうとした相手。
その人を護れなかったことを悔いたセヴィフォリアは、力を求めた。
――もう二度と大切なものを失いたくない。
たった一つの想い。
それが彼女という人間を根本から書き換える。
「私はもう……誰も失いたくない、だから、強くなる」
強さを求めるようになった彼女を親や周囲は心配していた。
だがその心配をよそに彼女は戦う道を選んだ。
ただひたすらに戦う力を身につけることを選んだ。
どこまでも強く。
どこまでも勇ましく。
……彼女はそれだけを望んでいた。
「もう二度と、誰も傷つけさせない。もう二度と、誰も死なせない。私は強くなって大切なものをこの手で護るの」
彼女は己の選んだ道について、いつも、そんな風に話していた。
「大切なもの、私は、私の手で護る」
――そうして圧倒的な強さを得た彼女は戦乙女として名を広めた。
「見て! セヴィフォリアさまよ!」
「ああ~、んもぉ~、かっこよすぎい~」
「俺男だけどあの人には憧れるんだよなぁ。漢っていうかさぁ。セヴィフォリアさんってマジ神なんだよなぁ。男の理想形だよなぁ」
最強の戦士セヴィフォリア・サーベリオは老若男女問わず皆の憧れの存在となっている。
晩年、彼女は自身が歩んできた道について、かつての婚約者であるカインへの感謝を常に交えつつ語っていた。
彼女の瞳の奥にはいつだってその人がいて。
生涯結婚しなかった彼女の中では、亡きその人が、永久に愛する人として息をしていた。
セヴィフォリアは誰も愛さなかったのではない。
……ただ一人、特別な人を、胸の奥では深く愛し続けていた。
そのすべてを。全体像を。目にする者はいないだろう。彼女にそれほど深く関わった人間はいないから。きっと彼女の心のすべてを完全に理解する者はいない。これまでも、これからも、永久に。彼女の心とは他者からしてみれば幻影のようなもの。いつまでもそのまま。真の意味で彼女という人間を理解できる者は現れないに違いない。
――けれども栄光は永久に。