8話「七女セヴィフォリアは愛されている(1)」
七女セヴィフォリア・サーベリオは婚約した。
ある夏の日のこと。
また、それは、学園を卒業して半年ほどが経過したタイミングでのことだった。
「セヴィと一緒になれるなんてなぁ……! 嬉しいぞぉ~」
「ありがとうカイン」
「あっはははぁ! 絶対セヴィを幸せにするからなぁ~、覚悟しておけよぉ」
二人の出会いは学園時代。
その頃は特別関わりがあったわけではないし仲良かったわけでもなかったのだけれど、カインが密かにセヴィフォリアへ恋心を抱いていた。
そして彼は卒業の日についに想いを打ち明けたのだ。
顔を真っ赤にして、初々しい表情で、懸命に想いを告げようとするカインの姿に心を揺さぶられたセヴィフォリアは――良い返事をして、そこから二人の関係は始まった。
で、婚約するに至ったのである。
初期の頃カインはいつもかなり緊張した面持ちでセヴィフォリアに向き合っていた。しかしそれも段々変わり。今では元気な声を発することや冗談を言うことだってできるくらいになっている。カインが本来持っているパワフルさが徐々に発揮されてきている、といったところだろう。
「明日結婚式ねカイン」
「おう!」
「ここからまた新しい始まり――支え合って頑張って生きてゆきましょ」
「もちろんだぞぉ~」
とても順調だった。
二人の関係は。
互いを想い、互いを愛し、理想的な関係を築き上げていた。
――なのに。
「カインさんが亡くなられました」
「え……」
結婚式当日の朝、カインはこの世から去ってしまった。
「そん、な……どうして……?」
「賊に襲われたようです。悲しいこと、残念なことですが」
「うそ……」
「事実です」
「ま、待って。意味が分からないわ。そんなことって……賊? 賊に殺されたの? 何よそれ、本当に意味不明過ぎる。おかしいじゃない、そんなの」
信じられない現実を突きつけられて、セヴィフォリアの心はハンマーで叩き壊されるかのよう。
「どうして、どうしてそんな、こと……」
彼女はただ泣いていた。
その後セヴィフォリアは入院した。
精神が極めて不安定な状態にあるため、万が一自分の身を傷つけるようなことがあっては大変だ――両親や周囲がそう考えて入院するよう話を進めたのだった。
「セヴィフォリア、大丈夫?」
「ええ。ありがとう……ごめんね、わざわざ来てもらって」
「いいの! だって友達でしょ」
「事故とか病気とかでの入院じゃないから……ちょっと、申し訳ないなって」
「そんなこと言わないでよ。友達のこと心配するのは当然のことだよ。それに、あたし、セヴィフォリアのこと大好きだし!」
入院中のセヴィフォリアのもとへは時々友人がやって来る。
彼女が周囲から愛されているということを証明するかのように。
「ほんと大変だったね……」
「ええ……」
「なんかごめん、余計なこと言っちゃったかも」
「いいえ、いいの。むしろ来てくれてありがとう。こうして喋っていると元気が出てくるわ」