5話「五女ファイヴィリーナは愛を貫く」
五女ファイヴィリーナ・サーベリオはどことなく抜けたようなところのある女性だが、容姿は整っていて、どんな時でも常にある種のスター性のようなものをまとっている。
そんな彼女は十九歳の時に婚約することとなった。
ただ、それはあくまで家と家の話し合いによって生まれた婚約で、男女が愛し合った結果のものではなかった。
――ゆえにその関係が上手く長続きすることはなく。
婚約者である男性ポポはファイヴィリーナの心が自分に向いていないことを察していて、また、自分が彼女を愛していないことも漠然とだが理解していた。
そんな関係が順調に進むわけもなくて。
いつしか二人は疎遠になっていった。
互いに悪意はなかったけれど、でも、夫婦を目指せるような良好な関係を築くことはできなかったのだ。
「ごめん、婚約破棄する」
そしてやがてその日がやって来て。
「僕は君と生きる自信がない」
ポポはファイヴィリーナに本心を打ち明け、婚約破棄を正式に告げた。
だがそれほど動じていないファイヴィリーナは冷静さを保ったまま「分かりました」とだけ返し彼の前から去ったのだった。
あまりにも呆気ない終わり方。けれどもそれが二人にとっては最良の終焉だったのかもしれない。どちらかが愛していたなら悲劇だっただろうけれど、二人の場合はどちらもそこまでの感情を抱いていなかった。ということはつまり、関係が終わったとしてもそこまでの衝撃はない、ということで。互いを想っているわけでない者同士であれば、関係が終わったとしても、そこまで大事件のようにはならないのだ。終わりは終わりであっても悲劇ではない。
ポポとの婚約が破棄となった日、ファイヴィリーナはすぐに以前から親しくしている女性アリューアのもとへ走っていた。
……というのも、二人は特別な関係なのだ。
女性同士だけれど恋人同士のようなもの。
彼女たちは互いを想い合っている。
「ファイヴィリーナ! こんなところにいていいの? 大丈夫?」
「ええ。だってもう自由だもの」
「でも……ポポさんは? 彼と結婚するんでしょ」
「しない」
「そ、そんな……それって……ど、どういうこと!?」
「婚約は破棄になったの」
ファイヴィリーナはアリューアだけを愛している。
「破棄……」
「だからね、私たち、これからはずっと一緒にいられるわ」
「本気で言ってるの?」
「もちろんよ」
「そ、そうなの……本気で……っ、ありがとうファイヴィリーナ。嬉しい、嬉しいの、私……! ずっと……! もう駄目だって思ってた、からっ……!」
二人はいつまでも共に在り続けるだろう。
良き人生のパートナーとして。
「愛しているわ、ファイヴィリーナ……!」
「同じ気持ちよ」
「ありがとう!」
「色々心配させてごめん。これからは一緒にいられるから。もう絶対、一生、アリューアを離さないから」
同性での結婚はまだできない。時代や世界がそういったところまでは追いついていないから。制度が定められていない以上、さすがに結婚は不可能。そこは決して変わることのない部分だ。
誰もがそんなことは分かっている。
ただ、それでも、共にあれるというだけで――彼女たちは救われるし、幸せな明日を夢みることだってできる。
引き離されることはない。
寄り添い合っていられる。
……それだけでいい。
彼女たちの未来は明るい。