3話「三女トリプレアはおっとり娘」
三女トリプレア・サーベリオは姉であるセカンディアを尊敬し慕っているおっとりとした女性だ。
小さな頃からおっとりしていて。同年代の子たちからはたびたび馬鹿にされたり虐められたりしていた。そういう時にいつも護ってもらった、ということも、彼女が姉セカンディアを慕う理由の一つだろう。
そんな彼女は齢十八で婚約者ができる。
友人の紹介で知り合ったガオールという男性だ。
最初は順調だった。
ガオールはおっとりしていてどこか抜けたトリプレアのことを嫌ってはいなかったし、なんなら、そのやや抜けたところを可愛いと捉えているようだった。
だがそんな良い関係も長続きはせず。
「お前さ、馬鹿すぎだろ。もう無理だわ。これ以上付き合ってらんねぇ」
やがてガオールは二人の関係を。
「てことで、婚約は破棄な」
自らの意思で叩き壊したのだった。
まさかの展開で婚約者を失ってしまったトリプレアは実家へ戻る。
いきなりのことだったのでさすがに落ち込んでしまうトリプレアだった――が、そんなある日母が大好物のイカ刺しを買ってきてくれたことで一気に元気を取り戻す。
「トリプレアは相変わらずイカ刺しが好きねぇ」
「ええ! 大好き!」
「さっきまでと別人みたいじゃない、表情が、目つきが」
「ありがとう母さん。わたしとっても嬉しいの。イカのお刺身、大好き!」
「まぁ……そうね、元気になって良かったわ」
驚くくらい立ち直りの早いトリプレアだった。
――彼女は元々魚介類が好き。
物心ついた頃からそうだった。
彼女の好きな食べ物は大抵海の生き物。
「トリプレア、未来は心配せず生きなさい」
「ありがとう父さん」
「お前は悪女じゃない。だから必ず幸せになれる、どんな形であれ。だから今は好きなことをして生きていればいい。そうすれば必ず、お前には、良き未来が訪れるだろう」
――婚約破棄から三年。
トリプレアの身には強大な魔力が宿っていることが判明した。
それにより彼女の人生は大きく変わることとなる。
なんせそれは国そのものを変えるほどの大きな力だ。国が、国王が、そんな強大な魔力を持つ娘を放っておくはずもない。それを手に入れられたなら国は安泰なのだから。
彼女はやがて王子と結婚。
誰も想像はしなかったような出来事だったけれどもそれは悪いことではなかった。
「殿下のところへ来られたお嫁さん、もうご覧になった?」
「もちろん! 凄く可愛らしい方よね!」
「見ているだけで癒されちゃうわね~。私、ああいう娘、好きなの~」
「わたくしもです」
「素敵な方がお嫁に来てくださって良かったですわね。ろくでもない女だったらどうしようかと。想像以上のとても素敵な方で……本当に、嬉しいですわ」
トリプレアは多くの人から愛される女性となった。
「可愛くて、上品で、しかも魔力を持っていらっしゃるなんて。トリプレアさまは凄い方ね。それでいて気取らないところも、魅力的よね」
「この前笑顔で挨拶してくださったのよ」
「わぁ……! それは素敵……! 本当に偉大な方ね、トリプレアさまは」
「国も安泰だしね」
「んもぉ~、好きっ! トリプレアさまの写真集とか出ないかなぁ。出たら絶対買うのに~! 期待しちゃう~!」
ちなみにガオールはというと、酒場で知り合った過去不明の美しい女性と結婚するも後にその女性に多額の借金があることが判明し返済に協力、しかしながら何度も浮気され、心身の健康を失うこととなってしまった。
華やかな世界へ飛び出したトリプレアとは対照的に、ガオールはどこまでも不幸の沼に沈みゆく。