22話「十七女スウィーティリーナは屈しはしない(3)」
「ですので、貴方との関係は終わりとします」
スウィーティリーナははっきり告げる。
別れの言葉。
最後の言葉を。
「な、何を勝手なことを言い出すんだ! 俺はそんなのは認めない! まだ納得していない! 婚約破棄するならせめて俺が納得する説明をしてからにしろ!」
アーダームスンは高圧的に言うけれど。
「悪いなアーダームスンくん。君のような自分勝手で威圧的な男に娘をスウィーティリーナを託すことはできない」
「ごめんなさいね急に。でももう手遅れよ。今さらあれこれ言ったところで貴方のこれまでの罪が消えるわけではないの。分かるでしょう?」
スウィーティリーナの両親が前へ出る。
「娘をまるで人権がないかのように扱った罪、償ってもらうぞ」
「後日、慰謝料を請求します。だから後は黙ってそれを待っていてちょうだい。話はここまでよ。……じゃあ、さようなら」
両親は伝えるべきことを簡潔に伝えた。
そうしてその日の話し合いは終わる。
「く、くそ……くそくそくそ……ふざけんなああぁぁぁぁぁ!!」
自身の行いを反省することはせず、またまた身勝手に激怒するアーダームスン。
「俺を舐めやがって! 絶対に許さない! 許さないからな! この俺を悪者に仕立て上げるなど! そんなことを、そんな酷いことをして、無事でいられると思うなよ!」
スウィーティリーナらが去ってからもアーダームスンは一人怒りを撒き散らす。
「あのクソ女ぁぁぁぁ……! 自分が無能なだけのくせに俺になすりつけやがって……絶対、絶対に許さないからなああぁぁぁぁぁ!! 待っていろ、絶対に、絶対に……痛い目に遭わせてやる……必ず、必ず、だからなぁぁぁぁ……許さない! 絶対に! 永遠に! 余計な大騒ぎをして、俺を悪者に仕立て上げて……スウィーティリーナ、お前だけは、お前だけは許さない!!」
アーダームスンは少しも反省していない。
彼が抱くのはスウィーティリーナへの怒りだけだ。
……つまり、彼は、この出来事の本質をいまだに理解していないということである。
婚約破棄から数日が経った朝、アーダームスンは斧を手にスウィーティリーナらが暮らす家の扉を破壊した。
「復讐してやる! 出てこいスウィーティリーナ! 罰を与えてやる! お前が間違っているのだとその身に教えてやる! 出てこい! 出てこいスウィーティリーナ! 今ここで俺がお前に教えてやる! 誰が正しいのかを! 早く出てこい! お前が正しいのなら出てくることはできるはずだろう!? 出てこいよ! すぐに! それに、俺は今すぐ復讐したいんだ! 悪人には罰を与えるべきだろう! 隠れるな! 早く出てこいスウィーティリーナ!」
彼は本気でスウィーティリーナを襲うつもりだった。
彼女を亡き人としてしまう気だったのだ。
しかし扉を破壊したちょうどそのタイミングで近所の人に発見されてしまって、通報され、その場で逮捕されることとなった。
アーダームスンは牢屋送りとなり、拷問刑に処されることとなった。
彼はこれまでスウィーティリーナを傷つけてきた。だからその罰が下ったのだろう、拷問刑という形で。
他者を平気で傷つけられるような人間には拷問刑はもってこい。なぜならそれは痛みというものを学べる刑だからだ。
他者の痛みには気づけずとも、己の身が痛めばさすがにその痛みくらいは自覚できるだろう。
その中で、もしかしたら、気づけるかもしれない。
痛みの辛さに。
傷つけられる苦しさに。
「色々あったけれど……貴方に出会えて良かったわ」
「ほんと? なら嬉しいな」
「今さらだけど、愛しているわ、貴方のこと。これまでも、今も、これからも。ずっと大好き」
あれから数年。
スウィーティリーナは良き人と結婚することができた。
「ずっと大好き、とか……照れちゃうな」
「本心だから仕方ないでしょう?」
「ま、僕も君のこと大好きだから、同じなんだけどね」
今ではアーダームスンに関する過去のいざこざなんて最初からなかったかのよう。
スウィーティリーナの毎日は穏やかさに満ちている。




